2020-02-28 京都大学
藤井俊博 白眉センター特定助教らの研究グループは、極高エネルギー宇宙線による次世代の天文学「極高エネルギー宇宙線天文学」を切り拓くために、新型宇宙線望遠鏡を開発し、この新型望遠鏡3基を米国ユタ州に設置し、極高エネルギー宇宙線の観測に成功しました。
宇宙空間に存在する放射線は宇宙線と呼ばれ、1秒間に手のひらに約1個という頻度で地上に到来しています。これまでの観測で1年間に琵琶湖の面積に約1個というとても低い頻度ですが、莫大なエネルギー(10の20乗電子ボルト)を有する極高エネルギー宇宙線の存在が明らかになりました。このエネルギーは、世界最大の粒子加速器での到達エネルギーより7桁も大きく、宇宙のどこかに爆発的なエネルギーを生み出す発生源があると考えられています。また、極高エネルギー宇宙線は宇宙磁場の中をほぼ直進し、その到来方向が発生源を指し示すことから、極限宇宙を観るための次世代の天文学として注目されています。
今回開発された望遠鏡は、極高エネルギー宇宙線の観測に特化した低コスト型の設計で、遠隔操作により自動的に観測を行うことが可能です。これにより、この望遠鏡を等間隔に並べて、従来より1桁大きい範囲に到来する極高エネルギー宇宙線を観測するという将来計画を実現することが期待されます。また、この望遠鏡は稼働中の宇宙線観測装置の測定結果を検証するためにも使用されます。
本研究成果は、2020年1月23日に、国際学術誌「Astroparticle Physics」のオンライン版に掲載されました。
図:本研究のイメージ図(Image credit:Ryuunosuke Takeshige and Toshihiro Fujii (Kyoto University))
詳しい研究内容について
次世代天文学を拓く新型の宇宙線望遠鏡を開発
―極高エネルギー宇宙線で極限宇宙を観る―
概要
宇宙空間に存在する放射線は宇宙線 1)と呼ばれ、1 秒間に手のひらに約 1 個という頻度で地上に到来しています。これまでの観測で 1 年間に琵琶湖の面積に約 1 個というとても低い頻度ですが、莫大なエネルギー(10 の 20 乗電子ボルト 2))を有する極高エネルギー宇宙線の存在が明らかになりました。このエネルギーは、世界最大の粒子加速器での到達エネルギーより 7 桁も大きく、宇宙のどこかに爆発的なエネルギーを生み出す発生源があると考えられています。また、極高エネルギー宇宙線は宇宙磁場の中をほぼ直進し、その到来方向が発生源を指し示すことから、極限宇宙 3)を観るための次世代の天文学として注目されています。
京都大学白眉センター/大学院理学研究科の藤井俊博特定助教が研究代表を務める国際共同研究グループは、極高エネルギー宇宙線による次世代の天文学を切り拓くために、新型宇宙線望遠鏡を開発しました。そして、この新型望遠鏡 3 基を米国ユタ州に設置し、極高エネルギー宇宙線の観測に成功しました。この望遠鏡は、極高エネルギー宇宙線の観測に特化した低コスト型の設計で、遠隔操作により自動的に観測を行うことが可能です。これにより、この望遠鏡を等間隔に並べて、従来より 1 桁大きい範囲に到来する極高エネルギー宇宙線を観測するという将来計画を実現することが期待されます。また、この望遠鏡は稼働中の宇宙線観測装置の測定結果を検証するためにも使用されます。
本成果は、2020 年 1 月 23 日にヨーロッパの国際学術誌 「Astroparticle Physics」のオンライン版に掲載されました。
(Image credit:Ryuunosuke Takeshige and Toshihiro Fujii (Kyoto University))
1.背景
人類未踏のエネルギーを有する極高エネルギー宇宙線の発生源を特定することは、現代宇宙物理学で解明すべき最重要課題のひとつとして挙げられています。この極高エネルギー宇宙線のエネルギー(10 の 20 乗電子ボルト)は、世界最大の粒子加速器が到達しうるエネルギーより 7 桁も大きく、宇宙空間で最大のエネルギーを持つ粒子です。宇宙線は荷電粒子であるために銀河磁場で曲げられますが、極高エネルギー宇宙線はその莫大なエネルギーにより宇宙磁場でほとんど曲げられません。そのため、発生源を特定するための次世代の天文学極高エネルギー宇宙線天文学」を達成できると考えられています 図 1)。
図 1 極高エネルギー宇宙線に次世代天文学のイメージ。低エネルギー宇宙線は磁場で曲げられてしまうが、極高エネルギー宇宙線は宇宙空間をほぼ直進するため、その到来方向が発生源を指し示すと考えられている。背景にある天体は活動銀河核やスターバースト銀河、強磁場星といった発生源の候補天体を示している。
(Image credit: Ryuunosuke Takeshige and Toshihiro Fujii (Kyoto University))
現在稼働中の極高エネルギー宇宙線観測装置は、北半球と南半球に1地点ずつ存在します。北半球では、米国ユタ州にあるテレスコープアレイ実験(http://www.telescopearray.org)で、700km2の範囲に到来する宇宙線を定常観測しています。一方南半球では、アルゼンチンにあるピエールオージェ観測所 (https://www.auger.org)が、3000km2の検出面積で同じく観測を行っています。このテレスコープアレイ実験とピエールオージェ観測所によって、10 年以上にわたって到来する極高エネルギー宇宙線の定常観測が続けられていますが、発生源についての決定的証拠は得られていません。
極高エネルギー宇宙線は、地球大気との衝突によって、約 100 億個という大量の二次粒子を生成して地表に到来します。これまでの観測では、この二次粒子を、地表に等間隔で並べた粒子検出器アレイ、もしくは大気中で発生する蛍光発光をとらえる望遠鏡で計測してきました。しかし、極高エネルギー宇宙線は、1 年間に琵琶湖の面積に約 1 個という非常に低い頻度でしか到来しないため、極高エネルギー宇宙線天文学を確立するには、現在よりも 1 桁大きい範囲に到来する宇宙線を観測する必要があります。そのため、既存の観測装置を用いて単純に拡張する方法では予算 ・管理の面からも現実的ではなく、新しい宇宙線の観測手法の確立が喫緊の課題となっていました。
2.研究手法・成果
本研究で開発した新型の宇宙線望遠鏡は、直径 1.6(m という小型の集光部と 4 本の直径 20(cm の光電子増倍管からなる極高エネルギー宇宙線の観測に特化した低コスト型の設計です。本研究グループは、テレスコープアレイ実験にこの新型宇宙線望遠鏡を 3 基設置し 図 2)、極高エネルギー宇宙線の観測に成功しました。さらに、全視野型可視光カメラによる天候の確認と、遠隔地からの操作による宇宙線の自動観測を達成しました。これにより、コストを抑えつつ、管理の容易な観測手法を確立することができました。
また、ピエールオージェ観測所にも新型宇宙線望遠鏡を 1 基設置し、観測を開始しました。同一の望遠鏡を南北半球の異なる観測サイトに設置したことで、テレスコープアレイ実験とピエールオージェ観測所の測定結果を検証するためにも使用されます。
図 2 本研究で新たに開発した 3 基の新型宇宙線望遠鏡。
3.波及効果、今後の予定
本研究グループは今後、今回開発した新型宇宙線望遠鏡を 20(km 間隔で複数地点に設置することで、一桁大きい範囲に到来する極高エネルギー宇宙線を定常観測できる Fluorescence detector Array of Single-pixel Telescopes (FAST)実験(https://www.fast-project.org)の実現を目指しています。この FAST 実験では極高エネルギー宇宙線の年間観測事象数を現在の 10 倍にすることで、極高エネルギー宇宙線の発生源を突き止め、次世代の天文学を確立します。
また、ソーラーパネルとバッテリーによる電力供給と、低電力なデータ収集システムの開発により、完全に自立稼働できる装置として新型宇宙線望遠鏡の開発を継続していきます。
4.研究プロジェクトについて
●予算の出資者
日本学術振興会 科学研究費助成事業
国際共同研究強化 (A) 「新型大気蛍光望遠鏡を使った極高エネルギー宇宙線観測のエネルギー較正」
基盤研究 (B) 「新型大気蛍光望遠鏡による極高エネルギー宇宙線観測の系統誤差の研究」
若手研究 (A)「新型大気蛍光望遠鏡による極高エネルギー宇宙線観測手法の確立」
京都大学 白眉プロジェクト
東京大学宇宙線研究所 共同利用研究プロジェクト「TA 実験サイトでの新型大気蛍光望遠鏡による極高エネルギー宇宙線観測」
●関連研究機関
シカゴ大学 (米国)、ユタ大学 (米国)、パラツキー大学 (チェコ共和国)、アデレード大学 (オーストラリア)
<用語解説>
1) 宇宙線:宇宙空間に存在する放射線。大部分が陽子である。
2) 電子ボルト:1 電子ボルトは、電子が 1V の電位差で得ることができるエネルギー。
3) 極限宇宙:宇宙最大の爆発現象であると考えられているガンマ線バースト、大質量ブラックホールを中心に持ちそこからジェットが放出されている活動銀河核、宇宙で最も強い磁場を持つ強磁場星などといった宇宙空間で最もエネルギーの高い現象
<研究者のコメント>
宇宙線の発見から 100 年以上経過しますが、極高エネルギー宇宙線の発生源については未だに特定できていません。極限宇宙を観る新たな天文学を開拓するという野心的な研究に興味がある方は、ぜひ一緒に研究しましょう。
<論文タイトルと著者>
タイトル:The First Full-Scale Prototypes of the Fluorescence detector Array of Single-pixel Telescopes( 単ピクセル型大気蛍光望遠鏡アレイの最初のフルスケール試作機)
著 者: M. Malacari, J. Farmer, T. Fujii, J. Albury, J.A. Bellido, L. Chytka, P. Hamal, P. Horvath, M. Hrabovsky, D. Mandat, J.N. Matthews, L. Nozka, M. Palatka, M. Pech, P. Privitera, P. Schovanek, R. Smida, S.B. Thomas, P. Travnicek
掲(載( 誌:Astroparticle Physics
DOI:https://doi.org/10.1016/j.astropartphys.2020.102430