「光をあてることで、水を分解して水素を発生させる新たな多孔性物質」を開発

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新たな光触媒の創出に期待

2019-12-24 関西学院大学,科学技術振興機構,高輝度光科学研究センター

ポイント
  • 従来合成が難しいことが知られていた硫黄を含むMOFの合成に成功し、この新材料が光を照射することで水を分解して水素を発生させる触媒特性を示すことを見いだしました。クリーンな太陽エネルギーによる水素発生は、燃料電池の原料供給のための重要なテクノロジーにつながります。
  • この触媒特性は、硫黄を用いることで光を吸収する効率が上がり、さらに吸収した光エネルギーを反応に利用することができるようになったためであると考えられます。
  • 本成果で開発した硫黄を含むMOFを活用して、さまざまな金属と硫黄を含む分子の組み合わせから、優れた触媒や半導体材料になるMOFの開発につながることが期待できます。

関西学院大学 理工学部の鎌倉 吉伸 氏、田中 大輔 准教授らの研究チームと大阪大学および大型放射光施設SPring-8注)の共同研究グループは、光を照射することで水を分解して水素を発生させる新しい多孔性物質の開発に成功しました。

本研究で開発された多孔性物質は、金属-有機構造体(MOF)や多孔性配位高分子(PCP)と呼ばれ、理想的なナノ空間を持つ物質として世界中で研究されている材料の一種です。本研究では、一般的には合成が難しいとされていた硫黄を含んだMOFの合成に成功しました。さらに、硫黄が含まれることによって、従来知られていたMOFでは実現困難な電気伝導性や触媒特性が発現することを実証しました。本物質の開発で得られた知見を基にして、さらなる新触媒や半導体材料の発見が促進されることが期待されます。

本研究成果は、2019年12月24日(米国東部時間)に総合化学誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載されます。

本研究はJST 戦略的創造研究推進事業 さきがけ(JPMJPR17NA,JPMJPR15N6)、JSPS 科学研究費(JP16H02285,17H03048,18H04528,17H06444,19H00903)の支援により行われました。

<研究の背景と経緯>

多孔性物質とは、分子サイズの小さな穴が無数に開いた構造を持つ材料で、活性炭が代表的な物質として古くから知られています。近年は、金属-有機構造体(MOF)もしくは多孔性配位高分子(PCP)と呼ばれる新しい多孔性材料が、水素や温室効果ガスの貯蔵や分離、各種触媒反応などの環境エネルギー問題の解決に有用な材料であるとして、世界中で盛んに研究開発されています。一方、多くのMOFは絶縁体で電気を流さず可視光を吸収しませんが、もしMOFが電気を流し、光エネルギーを吸収するような半導体としての特性を示せば、高い比表面積を利用した触媒や太陽電池などのエネルギー変換材料への応用が可能になるため、半導体特性を持つMOFの開発が現在求められています。これまで、硫黄を含んだMOFは半導体特性を示すことが知られていましたが、結晶性の高い良質な硫黄を含むMOFの合成は難しく、その特性は十分に検討されてきませんでした。

<研究成果>

今回、田中准教授らの研究チームは、炭素と窒素を含んだ硫黄化合物を用いることで鉛を含む新しいMOFの結晶を開発することに成功しました。これは、窒素が硫黄の反応性を低下させることで、結晶化に最適な反応条件を実現できたためであると考えられます。また、開発したMOFの分子サイズの細孔の構造を高輝度光科学研究センター(JASRI)の杉本 邦久 主幹研究員とのSPring-8のビームライン(BL02B1)の放射光を用いた実験から明らかにすることに成功しました。さらに、関西学院大学 理工学部の吉川 浩史 准教授との共同研究から、その細孔には水のみが取り込まれて、アルコールなどの有機分子は入らないことも明らかにしました。関西学院大学 理工学部の玉井 尚登 教授と片山 哲郎 助教のチーム、大阪大学の佐伯 昭紀 教授と正岡 重行 教授との共同研究から、この新たに開発したMOFが光を吸収することで電気を流し、さらにそのエネルギーを利用することで水を水素に変換する触媒としての能力を持つことを実証しました。また、関西学院大学 理工学部の小笠原 一禎 教授と西谷 滋人 教授との計算機を用いた研究により、鉛と硫黄の原子が作るネットワークが触媒反応に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

本研究により開発された新材料が電気を流し、光エネルギーを利用した触媒として機能するという知見は、MOFの新しい用途を切り拓く成果になると期待されます。

<今後の期待>

半導体特性を持つ材料に分子サイズの無数の穴を自在に開けることができれば、さまざまな触媒反応や電池の電極材料などへの応用が期待されます。本研究の詳細な解析から、開発したMOFの優れた特性は、硫黄を含むことで発現したことが明らかとなりました。今後はこれらの知見を生かして、さまざまな種類の硫黄を含んだMOFが合成されることとで、より優れた特性を持つ材料の開発が期待されます。特に、水から太陽エネルギーによって水素を発生させる触媒は、燃料電池によるクリーンなエネルギー源に応用できるため、さらなる高性能材料の開発が求められます。

一方で、そのような硫黄を含むMOFを合成することは難しく、合成のための反応条件の探索には膨大な試行錯誤が必要となります。今後は、このような合成の難しい材料を効率的に探索するために、人工知能を活用したマテリアルズインフォマティクス(MI)の手法の活用が期待されます。

<参考図>

図1 本研究で開発した硫黄を含むMOFの構造

図 本研究で開発した硫黄を含むMOFの構造

無数の穴が開いていることが分かる。この無数の穴に水を取り込むことができる。また、骨格は硫黄と鉛と有機分子からできており、そのネットワークが電気を流すことが明らかになった。

<用語説明>
注)大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援などは高輝度光科学研究センター(JASRI)が行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来する。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、指向性が高く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、産業利用まで幅広い研究が行われている。
<論文タイトル>
“Semiconductive Nature of Lead-Based Metal-Organic Frameworks with Three-Dimensionally Extended Sulfur Secondary Building Units”
(3次元的に拡張された硫黄二次構造を持つ鉛金属-有機構造体の半導体特性)
DOI:10.1021/jacs.9b10436
<お問い合わせ先>
<研究内容に関すること>

田中 大輔(タナカ ダイスケ)
関西学院大学 理工学部 化学科 准教授

<JST事業に関すること>

舘澤 博子(タテサワ ヒロコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ

<SPring-8/SACLAについて>

高輝度光科学研究センター 利用推進部 普及情報課

<報道担当>

関西学院 広報室

科学技術振興機構 広報課

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