2019-07-25 水産研究・教育機構
当機構において開発された閉鎖循環飼育システムを利用して、海水飼育経験親魚からの採卵をはじめ、淡水を用いた種苗生産から海水を用いた養殖生産まで一貫したサツキマスの生産管理が、どんな場所でも可能となりました。
近年、日本全国で冬期間の低水温を利用した海面サーモン養殖が盛んに行われており、さけます類で塩分耐性の強い優良種苗の作出が望まれています。その作出のためには、海面で優良な成長を示した個体を親魚候補として選抜し、内水面施設に導入する方法が考えられます。しかし、その際に海水由来の疾病を内水面に持ち込む懸念があることから、親魚候補の内水面への導入はこれまで積極的に取り組まれてきませんでした。種苗の安定供給を図りながら塩分耐性の強い優良種苗を作出するには、疾病リスクを管理した上で、淡水と海水を往き来するさけます類のライフサイクルを同一施設内で一貫管理できる飼育技術の開発が求められます。
水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所では、中部日本以西に生息するアマゴの降海型であるサツキマス( Oncorhynchus masou ishikawae )を、陸上の閉鎖循環飼育システム水槽を用いることにより、大量の淡水を使わず少量のカルキ抜き水道水だけで、産業レベルと同等の飼育密度で卵から平均体重126g の種苗に育てることに成功しました。このたび、この種苗を用いた海水飼育を陸上で継続した結果、飼育したサツキマスは平均体重1,311g に達し(生残率98%)、陸上施設内での一生を通じた養殖が国内で初めて達成されました。
これにより、サツキマスの完全陸上養殖に繋がる技術が確立され、これまで種苗生産が行われていなかった地域でも生産が可能となります。本技術の応用により、その他のさけます類を含めた、塩分耐性の強化を目的とした育種や種苗の安定生産への貢献が期待されます。
※本研究の成果は、農研機構生研支援センター「「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業(革新的技術を集約した次世代型閉鎖循環式陸上養殖生産システムの開発と日本固有種サクラマス類の最高級ブランドの創出)」の支援を受けて得られたものです。
参考資料
国内初、立地条件を選ばないサツキマスの陸上養殖の達成!
当機構において開発された閉鎖循環飼育システムを利用して、海水飼育経験親魚からの採 卵をはじめ、淡水を用いた種苗生産から海水を用いた養殖生産まで一貫したサツキマスの生 産管理が、どんな場所でも可能となりました。
近年、日本全国で冬期間の低水温を利用した海面サーモン養殖が盛んに行われており、さけま す類で塩分耐性の強い優良種苗の作出が望まれています。その作出のためには、海面で優良な成 長を示した個体を親魚候補として選抜し、内水面施設に導入する方法が考えられます。しかし、 その際に海水由来の疾病を内水面に持ち込む懸念があることから、親魚候補の内水面への導入は これまで積極的に取り組まれてきませんでした。種苗の安定供給を図りながら塩分耐性の強い優 良種苗を作出するには、疾病リスクを管理した上で、淡水と海水を往き来するさけます類のライ フサイクルを同一施設内で一貫管理できる飼育技術の開発が求められます。
水産研究・教育機構瀬戸内海区水産研究所では、中部日本以西に生息するアマゴの降海型であ るサツキマス(Oncorhynchus masou ishikawae)を、陸上の閉鎖循環飼育システム水槽を用い ることにより、大量の淡水を使わず少量のカルキ抜き水道水だけで、産業レベルと同等の飼育密 度で卵から平均体重 126g の種苗に育てることに成功しました。このたび、この種苗を用いた海水 飼育を陸上で継続した結果、飼育したサツキマスは平均体重 1,311g に達し(生残率 98%)、陸上 施設内での一生を通じた養殖が国内で初めて達成されました。
これにより、サツキマスの完全陸上養殖に繋がる技術が確立され、これまで種苗生産が行われ ていなかった地域でも生産が可能となります。本技術の応用により、その他のさけます類を含め た、塩分耐性の強化を目的とした育種や種苗の安定生産への貢献が期待されます。
※本研究の成果は、農研機構生研支援センター「「知」の集積と活用の場による研究開発モデル 事業(革新的技術を集約した次世代型閉鎖循環式陸上養殖生産システムの開発と日本固有種サク ラマス類の最高級ブランドの創出)」の支援を受けて得られたものです。
本件照会先:
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
瀬戸内海区水産研究所 資源生産部 今井 智 本田 聡
【研究の背景】
近年、海水温が低下する冬期の養殖漁場の有効活用策としてさけます類の海面養殖が全国各地 で盛んに行われていますが、国内では海面養殖に適した塩分耐性の強い種苗が少ないこと、また 内水面の種苗供給が需要に対して追い付いていないことが問題となっています。降海性ます類※1 は自然界では河川上流部でふ化し、成長とともにスモルトと呼ばれる海水へ順応する生理的変化 を経た個体が川から海へ回遊し急成長します。海で成長した個体は再び生理的な変化を経て、自 身が生まれた河川上流部まで戻り、成熟を経て産卵します。そのため、海水中で成長の優れた個 体を親魚として選抜育種を行い、塩分耐性を向上させた優良種苗の生産量増大を図ることが重要 です。このため、疾病リスクを管理しながら淡水と海水を往き来するさけます類のライフサイク ルを一貫して同一施設内で管理できる飼育技術を開発することが求められています。
【研究の内容・特徴、成果の意義】
瀬戸内海区水産研究所屋島庁舎で開発した閉鎖循環飼育システム※2 を利用することで、馴致※ 3、スモルト種苗生産、海水養殖飼育、催熟※4など、従来の養殖方法では生産工程に応じて必須と された立地条件が異なる複数の施設を必要とせず、一貫して同一施設内で管理が出来るのが大き な特徴です。
海水中で優良な成長を示した個体から産子を得ることで、塩分耐性が強く高成長な種苗の作出 が可能となります。しかし、従来から養鱒が行われている内水面施設への海水飼育を経た親魚の 導入は、海水由来の疾病を持ち込む懸念があることから積極的に取り組まれてきませんでした(図 1)。実験を行った屋島庁舎は臨海部にある施設のため、サツキマスのスモルト生産時の淡水飼育 にはカルキ抜きした水道水のみを用いました。このように生産されたスモルト種苗は、山間部に おいて流水飼育で生産されたスモルト種苗と同等の塩分順応性を有し、海水中でも高い成長性を 示しました。本技術を利用することで、これまで養鱒が行われていなかった地域においても、サ ツキマスのライフサイクルの再現が同一施設内で可能となります(図 2)。この疾病管理をクリア した飼育技術をニーズのある全国各地へ普及することで様々なさけます類の育種研究へ貢献する ことや、新たな種苗生産地の創出、また作出した海面養殖用の優良種苗の安定生産へ寄与するこ とが期待されます。
【今後の予定】
今後は、産業界からのニーズの高いニジマスにおいても本技術が適用可能であるか検証し、国 内における新しいサーモン養殖用種苗の生産方法を提案していく予定です。
※用語説明
※1 降海性ます類:国内に生息するサツキマスと亜種であるサクラマス、イワナ、海外のニジマス 等の中に出現する河川から海へ回遊し急成長する個体のことを指す。
※2 閉鎖循環飼育システム:飼育魚から排出される糞尿や残餌から発生する強毒なアンモニアを硝 化細菌の働きによって分解することで、閉鎖環境の中で同じ飼育水を繰り返し利用出来る飼育方 法のこと。温度管理のコストや飼育に使用する水量の低減が図られるのが特徴。
※3 馴致:魚体内の恒常性を保ちながら徐々に新しい環境へ馴らすこと。
※4 催熟:未成熟な個体の成熟を促すこと。
図 1.現在の国内におけるサーモン養殖の産業形態と選抜育種の障壁
図 2.瀬戸内海区水産研究所が開発した、サツキマスの完全陸上養殖を可能とする閉鎖循環 飼育システム
本件照会先:
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
瀬戸内海区水産研究所 資源生産部
今井 智
瀬戸内海区水産研究所 資源生産部
本田 聡