プラント内の既存冷熱の利用により、大幅な省エネを目指す
2019-06-12 新エネルギー・産業技術総合開発機構,昭和電線ケーブルシステム株式会社,BASFジャパン株式会社
NEDO、昭和電線ケーブルシステム(株)、BASFジャパン(株)は、BASFジャパン(株)の戸塚工場の敷地内で、低コスト超電導ケーブルシステムの実証試験を実施します。民間プラントで実際の系統に三相同軸超電導ケーブルを適用した実証試験は、世界で初めての事例となります。
本実証試験では、プラント内の既存の冷熱の利用により、超電導ケーブルの冷却に必要なエネルギーを大幅に削減することを目指します。今後、本年中に敷設工事を行い、2020年2月に運転を開始する予定です。
さらに、この技術を30MW以上の大規模電力を利用するプラント内のケーブルに適用すれば、従来の電力ケーブルと比較して、ケーブルの送電ロスを95%以上、それに伴い電気料金を年間2,000万円以上削減することが見込めます。
図1 超電導実証試験の概念図
1.概要
現在使われている電線には、金属(銅あるいはアルミニウム)が導体として使われており、その導体抵抗による発熱などにより送電ロスが発生してしまうため、さまざまな対策がなされてきました。その一つの方法に抵抗の低い材料を導体に使用した送電ロス低減があり、かねてより“抵抗ゼロ”の超電導体を使った送電ケーブルによる、大幅な省エネルギー効果が期待されてきました。しかしながら、超電導状態を維持するためには液体窒素などで冷却し続ける必要があり、このエネルギーとコストが大きな課題でした。冷却コストを削減し、省エネルギーによる経済効果を生み出すためには、ケーブル全体の冷却に必要なエネルギーを小さくし、低コスト化ができる技術の開発が不可欠となっていました。
こうした背景から、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、昭和電線ケーブルシステム株式会社、BASFジャパン株式会社は、低コスト化が可能な三相同軸超電導ケーブルシステムを開発し、BASFジャパン(株)の戸塚工場の敷地内で、実証試験を実施します。民間プラントで実際の系統に三相同軸超電導ケーブルを適用した実証試験は、世界で初めての事例となります。
化学工場や製鉄所などのプラントの多くは、プラント内で窒素ガスや液体窒素を使用しており、本実証試験ではこのプラント内の既存冷熱の利用により、超電導ケーブルの冷却に必要なエネルギーやコストを大幅に削減することで、高い省エネルギー効果を低コストで実現することを見込んでいます。
本実証試験では、BASFジャパン(株)の戸塚工場の敷地内の既設6.6kVの系統の一部に長さ約250mの超電導ケーブルを設置し、プラント内の既存の冷熱の利用により、超電導ケーブルの冷却に必要なエネルギーを大幅に削減することを目指します。今後、本年中に敷設工事を行い、2020年2月に運転を開始する予定です。この一連の試験によって民間のプラントでの敷設工法、運用管理方法、省エネルギー効果などを検証し、今後の超電導ケーブルの実用化および普及につなげていきます。
さらに、この技術を30MW以上の大規模電力を利用するプラント内のケーブルに適用すれば、従来の電力ケーブルと比較して、ケーブルの送電ロスを95%以上、それに伴い電気料金を年間2,000万円以上削減することが見込めます。
2.本実証試験の詳細
本実証試験で使用する超電導ケーブルシステムは、2017年度から2018年度に実施したNEDOの助成事業「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」で、昭和電線ケーブルシステム(株)が開発した、三相同軸型の超電導ケーブルシステムであり、交流大電力を送るために必要な3相(U相、V相、W相)が一つの軸上に積層されたコンパクトな構造となっています。超電導部にはイットリウム系超電導線材※を用い、各相の間には合成樹脂と紙のラミネート材による絶縁層が形成されています。この導体をアルミニウムまたはステンレスの波付き二重保温管に入れ、その中を液体窒素が流れる構造になっています。この構造をとることによって、三相でありながら冷却用の二重保温管が1本、機器とつなぐ端末が1組(2個)でケーブルシステムを構成することになり、これまで国内で試験されてきた超電導ケーブルに比べて使用する液体窒素量が1/3程度となるコンパクトな構造となっています。これによって、これまで超電導ケーブルの実用化で課題となっていた経済性が大幅に改善します。
本実証試験では、プラントで使用している液体窒素を冷媒として用い、この窒素を減圧することで、約マイナス200℃の液体窒素を作り、小型液体窒素ポンプを使って窒素を循環させます。このように、超電導ケーブルの冷却のために新たに冷却装置を設ける必要が無くなるため、冷却に必要なエネルギーを大幅に削減することが見込めるほか、冷却装置の導入コストも削減することが可能となります。
本実証試験では、BASFジャパン(株)の化学工場に超電導ケーブルを敷設・運用します。化学工場では高所にパイプラインが設置されており、そのレイアウトに合わせるため、5m程度の高低差がついた敷設形態をとります。また、ライン中に中間接続部を設定し、将来さらにケーブルの長尺化が必要になることを見据えた試験を行います。さらに、日常の運用管理を行うためのデータ収集や管理技術についても併せて実証します。
図2 イットリウム系超電導線材の外観と構造
図3 三相同軸超電導ケーブル
3.今後の予定
NEDO、昭和電線ケーブルシステム(株)、BASFジャパン(株)は、本実証試験を通じて、プラントインフラの更新時や再生可能エネルギー活用時の電力損失削減における超電導ケーブルの有効性を検証し、早期の実用化につなげていきます。
【注釈】
- ※ イットリウム系超電導線材
- イットリウム系超電導体は高温超電導体の一種で、イットリウム・バリウム・銅・酸素から構成される銅酸化物です。イットリウム系超電導線材は、これを薄膜プロセスでテープ状の線材に加工したもので、臨界電流密度が大きく、液体窒素中では電気抵抗ゼロで大電流を流すことができ、磁場中での通電特性も良好であることから、機器の小型化や省エネルギーの観点から実用化が期待されている線材です。また、この線材は従来のビスマス系超電導線材と比較して、被覆材として使われている銀の使用量が極めて少ないことから、特性の高さと共に低コストの超電導線材として期待されています。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:矢島、中原
昭和電線ホールディングス(株) 事業戦略統括本部 経営企画部
BASFジャパン(株) コーポレート・アフェアーズ部
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、中里