銀河は「見かけ」によらない? 銀河進化の定説くつがえす発見

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2019-06-05 国立天文台野辺山宇宙電波観測所

[概要]
銀河は大きく分けて、星を活発に作っている星形成銀河と、ほとんど星を作っていない非星形成銀河の二種類に分けることができます。 一般に、星形成銀河がその星形成活動を終えることに よって、非星形成銀河へと進化すると考えられています。一方で、 星形成銀河には円盤型をしたものが多く、非星形成銀河には楕円型をしたものが多いことから、 銀河の進化は銀河の形とも密接な関係にあると考えられています。この関係性の要因として、銀河が楕円型の形態をもっている と、 その銀河の中でガスから星を作る効率(星形成効率)が低下してしまう、という説が理論的に提唱されています。 愛媛大学の小山研究員らの研究グループでは、この説を検証するために「グリーンバレー銀河」と呼ばれる銀河種族に着目しました。 グリーンバレー銀河は、星形成銀河から非星形成銀河への進化途中にある銀河です。また、様々な形態をもつ銀河を含んでいるため、 この説の検証に最適な銀河種族であると言えます。今回の研究では、グリーンバレー銀河の中から、一方は円盤型、 もう一方は楕円型の形態をもつ2種類の銀河サンプルを作り、野辺山45m電波望遠鏡による一酸化炭 素(CO)輝線の観測を行うことで、 星形成効率と形態との関係性を調べました。その結果、グ リーンバレー銀河の星形成効率は銀河の形態に依っておらず、 ほぼ一定の効率を持っていることが分かりました。理論的な予測通りであれば楕円型の銀河の方が星形成効率が低くなっているはずでしたが、 今回の結果はその予想に反しており、分子ガスから星を作る過程に対して銀河の形態がほとんど影響していない可能性を明らかにしました。 この結果は4月2日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。

fig1

図1.研究の概念図。この研究では、グリーンバレー銀河の中から、円盤型をしたものと楕円型をしたものを選び、 野辺山45m電波望遠鏡で一酸化炭素(CO)輝線の観測を行い、星形成の効率を比べました。 図の上部はSDSSで撮られた可視光帯での銀河の姿、下部は野辺山45m電波望遠鏡で撮られたCO輝線を表しています。

1. 研究背景
図2左に示されるように、宇宙には星を活発に作る若い銀河(星形成銀河)や非活発な年老いた銀河(非星形成銀河)などが存在しています。 一般的に、星形成銀河はその星形成活動を終えることで、非星形成銀河へと進化すると考えられています。この星形成活動の低下、 または抑制を引き起こすメカニズムには未解明な点が多く残っており、これを明らかにすることは銀河進化研究の重要な課題に位置付けられています。 星形成活動の抑制を議論する上で重要な要素の一つに、銀河の形態が挙げられます。銀河の形態と星形成活動の間には密接な関係があり、 多くの星形成銀河は薄い円盤状で渦巻構造をもつ円盤銀河である一方、 非星形成銀河は楕円状で特徴的な構造を持たない楕円銀河がほとんどであることが知られています。このような背景から、 銀河の形態が星形成活動に影響を及ぼす何らかのメカニズムが存在するのではないかと考えられています。 このようなメカニズムの候補として理論的に予測された説に、”morphological quenching”(形態による抑制)と呼ばれるものがあります。 この説によれば、銀河が楕円型の形態をもっていると、ガスから星を作る効率(星形成効 率)が低くなってしまうために星形成活動が抑制されやすい、 と考えられています。 最近の研究では、観測的にも楕円銀河の星形成効率が円盤銀河と比べて低くなっている可能性が示されています。しかし、これらの観測的先行研究では、 主として”星形成銀河に属する円盤銀河” と”非星形成銀河に属する楕円銀河”、つまり、 大きく異なった進化段階にいる銀河同士の星形成効率が比較されているため、正しく形態の影響を評価できていない可能性がありました。

fig2
図2.(左)等高線は、銀河がもつ星の総質量と星形成率(1年間に作られる星の質量)の関係上での、銀河の分布を表しています。 図から、星を活発に作る星形成銀河と、ほとんど作っていない非星形成銀河の2種類がいることが分かります。 図の上で、銀河は矢印の方向に進化すると考えられており、進化途中の銀河はグリーンバレー銀河と呼ばれています。 (右)野辺山45m電波望遠鏡で観測した、円盤型と、楕円型のグリーンバレー銀河の可視光帯での姿。 円盤型は平べったく渦巻きのような構造が見られる一方、楕円型は特徴的な構造が弱く、ぼんやりとした球のような姿をしています。

2. 研究内容・成果
このような背景の中、研究グループは銀河の形態と星形成効率の関係を正しく評価するために、 星形成銀河と非星形成銀河の中間的な性質を持つ銀河である「グリーンバレー銀河」に着目しました。 グリーンバレー銀河は、星形成銀河から非星形成銀河への進化途中にある銀河であると考えられています(図2左)。 また、様々な形態をもつ銀河を含んでいるため、銀河の形態と星形成効率の関係を調べる上で最適な銀河種族です。 この研究では、可視光帯の観測データであるSloan Digital Sky Survey (SDSS) を用いることで、一方は円盤型、 もう一方は楕円型の形態をもつ2種類のグリーンバレー銀河サンプルを作りました (図2右)。そして、これら銀河に対して、野辺山45m電波望遠鏡を用いて一酸化炭素(CO)輝 線の観測を行いました。 CO輝線の観測からは、星の材料となる分子ガスがどれくらい銀河に存在しているのかを知ることができます。 同時に、SDSSによる可視光帯の観測データから星形成活動の強さを知ることができるため、 この2種類の情報から銀河の星形成効率を推定することができます。ここでの狙いは、 同じ進化段階にありながらも異なった形態を持つ銀河同士の星形成効率を比較することで、”morphological quenching”説を正しく検証することです。 今回、円盤型のグリーンバレー銀河13天体と、楕円型のグリーンバレー銀河15天体の観測を行い、 それぞれ13天体と10天体についてCO輝線を確認することができました。図1下部に示したグラフが、得られたCO輝線の例です。 輝線の強さから銀河が持つ分子ガスの質量を推定し星形成効率を比較した結果、全体として低い星形成効率ではあるものの、驚くべきことに、 その効率に形態の違いによる差はほとんど存在しないことが分かりました(図3)。今回の観測結果は、 銀河の星形成活動を終えるために必ずしも見かけの変化は必要でなく、 グリーンバレー銀河の星形成効 率はむしろ形態とは無関係に下がっていることを示しています。 これは、形態変化が星形成効率を下げるとする近年支持されていた定説を覆すものです。

fig3
図3.円盤型と楕円型のグリーンバレー銀河の星形成効率の比較と、その解釈の概念図。

3.今後の展望
今回の結果は、銀河の星形成活動が形態に影響されずに行われていることを示していますが、 これまでの研究で知られている銀河の形態と星形成活動の関係が存在している以上、この関係性を形作る何らかのメカニズムが存在しているはずです。 この新しい候補として、銀河がもつ分子ガス量が星形成以外の原因によって減少してしまった可能性などが考えられます。 分子ガス量の減少に対する形態の影響を明らかにするためには、銀河内部の分子ガス分布を調べることが有用です。 そこで現在、銀河内部でのCO輝線分布をより詳細に調べることができるアタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)を用いて、 グリーンバレー銀河内部のCO輝線分布を新たに観測することを計画しています。これにより、グリーンバレー銀河の中の分子ガスの分布が明らかになれば、 星形成活動の抑制と形態がどのような関わりを持っているのかをより詳細に知ることができると考えています。

4. 論文・研究メンバー
この結果は4月2日発行の米国の天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載されました。
論文の題目、および著者と当時の所属は以下の通りです。
論文名:
“Do Galaxy Morphologies Really Affect the Efficiency of Star Formation during the Phase of Galaxy Transition?”,
The Astrophysical Journal, 874:142 (13pp), 2019
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ab0e75
doi: 10.3847/1538-4357/ab0e75

研究メンバー:
小山舜平(愛媛大学)
小山佑世(国立天文台ハワイ観測所/総合研究大学院大学)
山下拓時(国立天文台)
林将央(国立天文台)
松原英雄(宇宙科学研究所/総合研究大学院大学)
中川貴雄(宇宙科学研究所/東京大学)
竝木茂朗(総合研究大学院大学)
鈴木智子(国立天文台/東北大学)
深川奈桜(総合研究大学院大学)
児玉忠恭(東北大学)
Lihwai Lin(Institute of Astronomy & Astrophysics, Academia Sinica)
諸隈佳菜(宇宙科学研究所)
嶋川里澄(国立天文台ハワイ観測所)
田中壱(国立天文台ハワイ観測所)

関連リンク
愛媛大学
野辺山45m電波望遠鏡

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