有機トランジスタで超伝導の条件を探る

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電圧とひずみで試料の超伝導を制御

2019-05-11  理化学研究所,分子科学研究所,名古屋大学,東邦大学

理化学研究所(理研)開拓研究本部加藤分子物性研究室の加藤礼三主任研究員、川椙義高研究員(研究当時)、柚木計算物性物理研究室の柚木清司主任研究員、関和弘客員研究員、自然科学研究機構分子科学研究所の山本浩史教授、名古屋大学大学院工学研究科の竹延大志教授、蒲江助教、東邦大学理学部物理学科の田島聖士研修生(研究当時)らの共同研究グループ※は、強相関物質[1]を用いて柔軟な有機トランジスタ[2]を作製し、一つの試料で電子の「数」と「動きやすさ」を同時に制御することで、超伝導[3]の発現条件を明らかにしました。

本研究成果は、高温超伝導[3]をはじめとする未解明の超伝導現象の理解につながると期待できます。

銅酸化物高温超伝導体[3]などの強相関物質では電子同士が強く反発しており、電子の数と動きやすさを変えることで、絶縁体の状態から超伝導状態まで幅広く性質が変わることが知られています。強相関物質における超伝導のメカニズムを理解するため、これまでさまざまな物質で研究が行われてきました。しかし、一つの物質で電子の数と動きやすさを同時に変えて、広い範囲で超伝導を調べる手法はありませんでした。

今回、共同研究グループは柔らかい有機物の強相関物質を用いて、電気二重層トランジスタ[4]を作製し、電圧で電子の数を、トランジスタの曲げ具合(ひずみ)で電子の動きやすさを変えることで、同じ試料で超伝導状態を制御することに成功しました。このデバイスでは、絶縁体の状態から電子を増やしたときも減らしたときも、超伝導状態が現れますが、それぞれの場合で超伝導の発現条件に本質的な違いがあることが示されました。

本研究は、米国のオンライン科学雑誌『Science Advances』(2019年5月10日付け:日本時間5月11日)に掲載されます。

有機強相関物質の模式図と条件を変えた時の電子状態の図

図 有機強相関物質の模式図(左)と条件を変えた時の電子状態(右)

※共同研究グループ

理化学研究所 開拓研究本部

加藤分子物性研究室

主任研究員 加藤 礼三(かとう れいぞう)

研究員(研究当時) 川椙 義高(かわすぎ よしたか)

(現客員研究員、東邦大学 理学部物理学科 講師)

柚木計算物性物理研究室

主任研究員 柚木 清司(ゆのき せいじ)

客員研究員 関 和弘(せき かずひろ)

(国際高等研究大学院大学(SISSA) 日本学術振興会 海外特別研究員)

分子科学研究所 協奏分子システム研究センター

教授 山本 浩史(やまもと ひろし)

(理化学研究所 客員主管研究員)

名古屋大学大学院 工学研究科

教授 竹延 大志(たけのぶ たいし)

助教 蒲江(プー・ジャン)

東邦大学 理学部物理学科

研修生(研究当時) 田島 聖士(たじま さとし)

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業若手研究B「電気二重層トランジスタを用いた有機強相関電子系の電子物性制御(研究代表者:川椙義高)」、同基盤研究S「分子性強相関電子系における量子液体の探索と理解(研究代表者:加藤礼三)」、同新学術領域研究(研究領域提案型)「π造形システム集合体の物性制御(研究代表者:竹延大志)」、同特別推進研究「イオントロニクス学理の構築(研究代表者:岩佐義宏)」による支援を受けて行われました。

背景

金属に電圧をかけると、金属中の電子が動いて電流が流れます。ところが、狭い領域に電子が閉じ込められた物質などでは、電子同士が強く反発し、本来は金属になる物質が絶縁体になったり、逆に超伝導体になったりします。そのような物質を「強相関物質」と呼び、銅酸化物高温超伝導体がその代表例です。

強相関物質の超伝導体への変化には、電子の「数」と「動きやすさ」(運動エネルギー)が重要です。銅酸化物高温超伝導体では、少量の不純物を入れる「ドーピング」によって母体となる絶縁体の電子の数を変えると、高温超伝導が発現します。また、一般的に無機物よりも柔らかい有機物にも強相関物質が存在しますが、こちらは圧力をかけて電子の動きやすさを上げると、超伝導体になることが分かっています。

しかしこれまで、物質によって電子の「数」と「動きやすさ」はどちらか一方しか同時に大きく変えることができず、同じ試料でどちらも変化させながら超伝導の条件を詳細に調べる手法はありませんでした。

研究手法と成果

共同研究グループは、BEDT-TTF(ビスエチレンジチオ-テトラチアフルバレン)という有機分子からなる強相関物質を材料として、電気二重層トランジスタを作製しました(図1)。このデバイスでは、試料表面にゲート電圧と呼ばれる電圧(0.5V程度)をかけることで、自在に電子を増やしたり(電子ドーピング)、減らしたり(正孔ドーピング)することができます。また、有機物を用いているため曲げることができ、曲げると有機物中の電子の動きやすさも変えることができます。今回、この二つを細かく変化させることで、一つの試料の中で超伝導状態を制御出来るかを調べました。

図2は、超伝導が現れる条件を示しています。横軸はゲート電圧で、電子の数に対応します。縦軸は試料を曲げることで生じたひずみを表しており、下にいくほど電子の運動エネルギーが上がり、動きやすくなります。この図から、超伝導状態(青)が絶縁体の状態(赤)を取り囲んでいること、そして、左右の超伝導領域の形が異なることが分かりました。特に、電子を増やしたとき(図2、ゲート電圧が正の領域)の超伝導状態は特徴的で、絶縁体の状態からわずか数%電子を増やしただけで急激に現れ、さらに加えるとすぐに消えてしまうことが分かりました。つまり、絶縁体の状態から電子を増やしたときも減らしたときも超伝導状態が現れますが、それぞれの場合で超伝導の発現条件には本質的な違いがあるといえます。このように、従来は複数の異なる物質の実験結果から類推されていた超伝導領域の分布を、本研究では一つの試料で描くことに成功しました。この結果は、同じ試料で制御を行っているため、試料ごとの結晶構造の違いや不純物効果などの影響を受けにくい本質的なものであると考えられます。

今後の期待

本手法は、さまざまな有機強相関物質に適用できます。今回使用した有機物では、高温超伝導体の母体と同じように、隣り合う電子のスピン[5]が反対方向に向くような相互作用が働いています(反強磁性)。この相互作用が超伝導に深く関係していると考えられていますが、今回の有機物とほとんど同じ構造を持ちながら、スピンがばらばらな方向を向いている希少な物質(量子スピン液体)なども存在します。そのため、今後、本研究の対象物質を広げることで、超伝導と磁性(電子スピンの並び方)の関係を実験的に明らかにできると考えられます。

原論文情報
  • Yoshitaka Kawasugi, Kazuhiro Seki, Satoshi Tajima, Jiang Pu, Taishi Takenobu, Seiji Yunoki, Hiroshi M. Yamamoto, and Reizo Kato, “Two-dimensional ground-state mapping of a Mott-Hubbard system in a flexible field-effect device”, Science Advances, 10.1126/sciadv.aav7282
発表者

理化学研究所

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