サイエンス誌に論文が掲載されました

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2019-04-19  JAXA はやぶさ2プロジェクト

これまでリモートセンシング機器によって、小惑星リュウグウの詳しい調査が進められてきましたが、その最初の結果をまとめた3編の論文が科学雑誌サイエンス誌に3月19日(日本時間では3月20日)にオンライン掲載されました。3編の論文のタイトルは次のようになります。

S. Watanabe et al. 2019, “Hayabusa2 arrives at the carbonaceous asteroid 162173 Ryugu — a spinning-top-shaped rubble pile”, Science, 19 March, 2019
和訳:「はやぶさ2」が到着した炭素質小惑星162173リュウグウ―コマ型ラブルパイル
論文:DOI: 10.1126/science.aav8032

K. Kitazato et al. 2019, “The surface composition of asteroid 162173 Ryugu from Hayabusa2 near-infrared spectroscopy”, Science, 19 March, 2019
和訳:「はやぶさ2」の近赤外分光観測による小惑星リュウグウの表面組成
論文: DOI: 10.1126/science.aav7432

S. Sugita et al. 2019, “The geomorphology, color, and thermal properties of Ryugu: Implications for parent-body processes”, Science, 19 March, 2019
和訳:リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化
論文:DOI: 10.1126/science.aaw0422

これらの論文の内容につきましては、すでにJAXAのプレスリリース(http://www.jaxa.jp/press/2019/03/20190320a_j.html)に掲載されています。ここでは、各論文の主著者に裏話的なことも含めて説明を書いてもらいました。上記のプレスリリースおよび参考資料を合わせてお読みいただければ幸いです。


■「はやぶさ2」が到着した炭素質小惑星162173リュウグウ―コマ型ラブルパイル
主著者:渡邊誠一郎(プロジェクトサイエンティスト:サイエンスチーム責任者)

本論文では、リュウグウの形状モデルを作って、それをもとに天体の密度(重力計測から求めた天体質量を形状モデルから求めた体積で割ったもの)と形状の特徴を論じています。その結果、リュウグウの赤道に沿った高まり(赤道リッジ)から試料を採取する重要性を指摘しています。実際に2月22日(日本時間)に「はやぶさ2」は赤道リッジ上のS08-E1(たまてばこ)地点にタッチダウンし、試料採取に成功しました。

小惑星の形状には、球形に近いもの、細長く伸びたもの、2つの塊がくっついた形のもの(例えば、イトカワ)などがあります。今回、私たちが目にしたリュウグウはコマ(独楽)型と呼ばれる2つのコマを重ねたような形、もしくはそろばん玉のような形をしています。実は、コマ型の小惑星は地球接近小惑星の中でいくつか見つかっています。OSIRIS-RExが探査しているBennuもコマ型をしていますが、他にも地上からのレーダー観測でコマ型が確認されているものがいくつもあります。この独特の型がどのようにして作られるかは大きな謎です。今回、リュウグウとBennuは精確な形状が明らかになっていますが、両者にはかなり違いがあります。

リュウグウは密度が低く、表面に大きな岩塊がたくさん分布しているので、より大きな小惑星が衝突で破壊された破片が集まってできたラブルパイル天体であるというのが本論文の重要な結論の1つです。今回明らかになったリュウグウの形状の特徴は、高速で自転していた時の遠心力によって形が作られたことを示しています。そこで、ラブルパイル天体が高速で自転するとコマ型が形成されるのではないかと推定しました。

形状変化がどのように進むかは、リュウグウの構成物質がどの程度の力(正確には単位面積あたりの力である応力)が加わると大きな変形をするようになるのか、つまり天体の強度と呼ばれる量と密接に結びついています。小惑星の強度は、小惑星帯から地球に物質がどのように運ばれるのかを解明する上で、最も重要な量の1つです。

今後は、小惑星の形状の解析を通じて、小惑星の強度についての知見が得られるのではと期待しています。


■「はやぶさ2」の近赤外分光観測による小惑星リュウグウの表面組成
主著者:北里宏平(NIRS3 PI:近赤外分光計主担当)

リュウグウはどんな物質でできているのか?それについて「はやぶさ2」に搭載した近赤外分光計(NIRS3:ニルススリーと呼んでいます)の観測からわかったことをまとめたものが今回の論文になります。論文の主な内容については、プレスリリースなどでご紹介しているとおりですので、ここでは少し裏話的なことを書かせていただきたいと思います。

私たちの観測装置、NIRS3は、リュウグウ表面の組成や水の存在を調べることを目的としています。ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、私たちは昨年夏の記者説明会で、NIRS3が取得したリュウグウのデータには、水の存在を示唆する赤外吸収は見られない旨の説明をしました。一方、今回の論文では、2.72ミクロンの波長に微弱だけれども、確実な吸収が見られ、リュウグウ表面には含水鉱物の形で水が存在すると結論づけています。この一見矛盾しているようにも感じられるギャップについて順を追って説明します。

まず、2018年6月21日に、私たちはNIRS3で初めてリュウグウを捉えることに成功しました。しかし、そこで、当初私たちが想定していた、炭素質隕石に見られるような顕著な水の吸収は、リュウグウには見られないことが判明しました。ただし、それでも微弱な吸収の可能性は残ったのですが、微弱ゆえ、それを検出器の感度誤差によって生じる擬似的な特徴と切り分けることが容易ではありませんでした。

また、別の場所を観測したり、探査機の高度を下げて解像度を上げたりすれば、違ったデータが得られるかもしれないという期待もあったので、データの解析も進めつつ、新たな観測も行いました。しかし、出て来る結果はどれも同じでした。この間、NIRS3のチーム内で何度も議論を重ねましたが、水の吸収については否定的な意見が多かったため、 2018年8月2日の記者説明会では上記のような説明になった次第です。

一方、中には水の吸収について肯定的な考えのメンバーもいました。記者説明会の後日、私はそのメンバーからある提案を受けました。それは、NIRS3内蔵の小型ランプを用いた観測データを追加取得するというものでした。

NIRS3は検出器の温度を-85℃まで下げて観測するのですが、地上で試験していた時の温度と宇宙で観測する時の温度とで、2-3℃程度の差があることが打ち上げ後に判明しました。当初、この程度の差であれば水の吸収を検出するのに問題はないと考えていたのですが、思いのほか吸収が微弱であったため、この温度差による感度誤差を無視することができなくなりました。そこで、その感度誤差を補正するためのデータを追加取得したというわけです。結果的にこれが功を奏し、8月25日に取得したデータから、 2.72ミクロンに見られる吸収は有意であるという結論に至りました。

こんな研究の裏のことも論文から感じ取ってもらえると幸いです。


■リュウグウの表面地形、多色画像、熱物性から探る母天体の進化
主著者:杉田精司(ONC PI:光学航法カメラ主担当)

小惑星リュウグウはどんな進化過程を経て現在の姿に至ったのか?この問いに答えるために、可視カメラ、レーザー高度計、中間赤外カメラを使って研究した結果をまとめたのが本論文です。

概要は以下の通りです。リュウグウのような1km程度の小惑星は、太陽系初期に形成した大きな母天体の衝突破壊で産まれたと考えられています。本論文では、母天体からリュウグウへの進化の全体像を提唱しました。まず、リュウグウの母天体の母天体候補が、ポラナ(直径55km)とオイラリア(直径39km)と呼ばれる小惑星帯の小惑星に絞られることを示しました。また、地球で得られていない未知の物質の可能性を別にすれば、リュウグウの表面物質の色は、部分的な加熱脱水を経た炭素質コンドライトと最もよく合うことと、リュウグウ表面の個々の岩塊の色が母天体内の異なる加熱脱水条件で形成した物質の混合で説明できることを明らかにしました。ポラナとオイラリアは、含水鉱物や炭素を含む破片を地球に最も多く供給している天体です。ですから、小惑星帯から地球が受け取ってきた水や炭素の量が、母天体内での加熱脱水反応の軽重で決まっているのかもしれません。

詳しい解説はプレスリリースに記されていますので、以下では背景のお話を書きます。「はやぶさ2」探査の目的は、小惑星リュウグウの探査で太陽系全体の進化と生命材料物質の生成・移動の歴史を解明することです。この目的は、米国版「はやぶさ2」探査機とも呼ばれるOSIRIS-REx(以下、O-RExと略す)とも共通します。彼らも小惑星ベヌーの探査で同じ目標を達成しようと頑張っています。同一目標に向かう両探査機の助け合いが相互メリットを生むことになることは明らかですから、協力関係を築いてきました。ですが、時には競い合いも生じます。探査計画における協力と競争の関係は、オリンピックなどスポーツの試合での選手同士の関係に似ているかもしれません。相手を負かすのでなく自分が勝とうとお互い頑張ると、良いゲームが実現するように思います。今回はそんなことを考えさせるエピソードがありました。

はやぶさ2とO-RExの間の競争は、どちらが先に太陽系の進化や生命の材料物質の供給過程を解き明かすかです。非常に似た小惑星に到着したので、両探査機とも似た結論に至ることが予想されました。そうなると、先に成果を発表したいところです。科学の世界では、専門家による厳密な査読審査を経た論文発表が非常に重要です。明治以来、日本の科学者は言語のハンディなどから、先に発見した内容も論文発表に遅れて、認知されない悔しさを味わってきました。はやぶさ2のような国民の多くの皆さんの応援を受けたプロジェクトでその轍を踏むことは許されません。我々は急いで論文を書き、世界で最も権威のある科学誌サイエンスに投稿しました。

ですが、O-RExがボンヤリしているはずもありません。彼らは、「はやぶさ2」の30倍とも言われるデータ転送能力と60人の専属研究者をフルに活かして大量のデータを一気に取得・解析し、同じく有名なネイチャー誌に超特急での出版を狙ってきました。データ取得開始から1ヶ月という前代未聞のスピードで論文を投稿しました(※1)。しかも、論文投稿前に編集部が査読者も選定してあって査読に4日しか掛からなかったと聞いています。O-RExはサイエンス誌編集者をヘッドハントして雇い上げ、ネイチャー誌との交渉役にしたそうです。そんな贅沢のできない我々は、研究者自らがサイエンス誌と交渉し、通常ペースで微に入り細に至る査読者とのやり取りを繰り返していました。そのため、3ヶ月も前に投稿した我々の論文は、O-REx論文に先を越されかねない状況に陥ってしまいました。しかも、そんな事態だとは知らずにいました。O-RExのアンテナ能力や専属科学者数は把握していましたが、サイエンス誌の編集者をヘッドハントして交渉させるなど想像すらしてませんでした。

ところが、この事態を救ってくれたのは、他でもないO-RExでした。ある日、O-REx側の何人もの著者からほぼ同時にメールが私の手元に届きました。そのメールには、彼らの論文がネイチャー誌に受理されて1ヶ月後に発表する予定となったこと、しかし「はやぶさ2」を出し抜くことは本意でないので発表を急いで欲しいこと、彼らの論文で我々の論文を引用してあること、が書いてありました。この連絡をくれた背景には、O-RExが論文を執筆中に我々が論文原稿やデータを送ってあげたこと以外に「はやぶさ」シリーズ全体への敬意があるように思います。サイエンス誌との交渉役を任せられていた私は、この内容を即刻に伝えました。ですが当初サイエンス誌は、「ネイチャー誌がそんな短期間で論文を受理するはずないので心配するな」、「今から急に急げと言われても間に合わない。特に君の論文はね」などと取り合ってくれませんでした。なので、証拠を示し、「同日発行が絶対に無理となる受理期限日を隠さず教えてくれ」「査読の質を落として欲しいなど頼んでいない。我々が質の高い返答を急いで書くだけだ。出版過程のみ急いで欲しいと頼んでいる」などと食い下がりました。その結果、サイエンス誌は納得して、オンライン早期発表の段取りをつけてくれて、査読をきっちり通した上で、O-RExと同日発表に間に合わせることができました。ただ、探査機の観測運用の仕事を行いながら何十項目もの査読審査結果の対応を超特急で行わねばならず、死にそうに忙しい日々となりました。また、大学の仕事も放り出したので、同僚に大きな迷惑を掛けてしまいました。

しかし、その競り合いで得られた結果は素晴らしいものでした。世界に向けて同日発表されたリュウグウとベヌーの姿は、形状、密度、反射率、岩塊の豊富さなど多くの面で類似しつつも含水鉱物の含有量のみは大きく異なるという興味深いものものでした(形状や密度、含水鉱物については、それぞれ渡邊さんと北里さんの文章を参照)。これは、小惑星の起源や進化の少しの違いだけで、含水鉱物量が大きく変化することを強く示唆しています。なぜなら、両小惑星の形成・進化過程に多大な相違があったら、含水鉱物量以外も大変化するはずだからです。これは、単独探査では得られない驚くべき大発見です。両探査計画にとってこれ以上の福音はないでしょう。この魅力は、世界の科学者を強く惹きつけました。論文発表の週に米国で開かれた月惑星科学会議の「はやぶさ2」/O-RExの共同特別セッションは、アポロ月着陸50周年記念特別セッションと同時開催だったにもかかわらず、大会場が満員で立ち見が絶えませんでした(※2)。

今後は、両小惑星の類似と相違の原因を探求することが、両探査計画の1つの目玉になるでしょう。また、その解明の暁には、生命が生まれた時期の地球への宇宙からの水・有機物の供給過程の新たな知見が明らかになると思います。ぜひご期待下さい。


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写真1:月惑星科学会議のポスター会場にて、お互いのカメラの成功を喜び合う筆者(はやぶさ2光学航法カメラの理学責任者)とBashar Rizk博士(O-REx可視カメラの責任者)。(写真クレジット:杉田精司)

付記;LPSCの会場にて 杉田さんの文章にもありましたが、サイエンス誌に論文が掲載されたときは、米国での月惑星科学会議(LPSC:Lunar and Planetary Science Conference, 2019年3月18-22日、米国、テキサス、ザ・ウッドランド)が開催中でした。LPSCでは、「はやぶさ2」のプレスカンファレンスも行い、タッチダウンの結果と3編のサイエンス誌掲載論文について紹介をしました。写真2はプレスカンファレンス後の集合写真です。


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写真2:LPSCでの「はやぶさ2」プレスカンファレンス後の集合写真。2019年3月19日撮影。左から、杉田精司、平林正稔、Ralph Milliken、Deborah Domingue、渡邊誠一郎、吉川真、津田雄一(敬称略)。(写真クレジット:Lunar and Planetary Institute)

※1:OSIRIS-RExミッションがNature誌に投稿した論文は
https://www.nature.com/collections/jibgaighje/content/research
 に掲載されています。

※2:


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写真3:米国における月惑星会議(LPSC:Lunar and Planetary Science Conference)における「はやぶさ2」スペシャルセッション(2019年3月19日)の開始直前の会場の様子。この後、さらに参加者が増えた。(写真クレジット:はやぶさ2プロジェクト)

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