磁気ゆらぎと共に現れる超伝導

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ウラン強磁性超伝導体の高圧力下での超伝導出現と磁気ゆらぎの関係を世界で初めて解明

2018/12/05  日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 従来、強磁性と超伝導は相性が悪いとされてきました。しかし、近年、いくつかのウラン化合物で強磁性と超伝導の共存が発見され、その超伝導機構の解明が待たれる状況にありました。
  • 高圧下で超伝導と強磁性の2つの現象が現れるウラン化合物UGe2で、強磁性ゆらぎと超伝導の密接な関係を世界で初めて発見しました。
  • 本研究成果から、強磁性ゆらぎが強磁性超伝導出現で重要な役割を果たすと考えられ、超伝導の機構解明への発展が期待されます。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。) 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 重元素材料物性研究グループの立岩尚之研究主幹らは、ウラン化合物1)UGe2において、強磁性と超伝導が協調関係にあることを世界で初めて明らかにしました。

通常の超伝導体では、磁場を加えてゆくと超伝導2)は破壊されます。また、磁場の源となる強磁性と超伝導体は、相性が悪いものと考えられてきました。ところが強磁性体の一つであるウラン化合物UGe2は大気圧中で強磁性体でありながら、1万気圧という高い圧力を加えると超伝導が現れることが2000年に発見されました。なぜ高圧下で超伝導が現れて強磁性と共存するのか、多くの研究者の関心を集めました。しかし、そのしくみはわかっていませんでした。

そこで、ウラン化合物に高い圧力を加えるとともに、磁化を高精度に測定することができる圧力発生装置を新たに開発しました。そして純度の高いウラン化合物UGe2の単結晶を作成し、その強磁性ゆらぎ3)を詳細に調べました。その結果、1万気圧以上で、強磁性ゆらぎが発達し、超伝導出現に重要な役割を果たすことが示唆されました。これまで多くの超伝導体で、強磁性ゆらぎは超伝導の阻害要因とされてきました。しかし、UGe2では逆に、強磁性ゆらぎが超伝導出現に貢献すると考えられます。今回の研究成果から、強磁性超伝導出現の機構解明へさらなる発展が期待されます。

本研究成果は2018年12月4日(米国時間)に米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。

【研究の背景と目的】

超伝導2)はある温度以下で電気抵抗がゼロになる現象で、リニアモーターカーに応用されるなど実用面で期待を集めています。しかし、一般に超伝導は強磁性3)と相性が悪いと考えられ、多くの超伝導体では、磁場を加えていくと超伝導が阻害されてしまう特徴がありました。一方、近年、UGe2, URhGeおよびUCoGeのウラン系強磁性超伝導体4)で、強磁性と超伝導の2つの現象が同時に見つかるなど、他の超伝導体には見られないウラン化合物1)の超伝導特有の新奇な特性が注目を集めています。

今回研究したウラン化合物UGe2は大気圧下ではただの強磁性体ですが、1万気圧の圧力を加えると、強磁性と超伝導の2つが同時に現れることが2000年に発見されました(図1)9)。しかし、なぜ両者は共存するのか、超伝導が現れるしくみはわかっていませんでした。強磁性ゆらぎが、超伝導出現のため重要な役割を果たしていることが理論的に指摘されました。一方、強磁性ゆらぎと超伝導を繋ぐ、実験的な証拠は見つかっていませんでした。

図1 UGe2の温度―圧力相図。約1万気圧加えると、低温で超伝導が現れ強磁性状態と共存します。2000年に超伝導が発見されました9)

【研究の手法】

ウラン化合物は核燃料物質であるため取り扱いがむずかしく、また高圧下の磁気特性を調べることも難しいため、大学など一般研究施設では研究されていませんでした。そこで原子力機構の施設に、世界でも例の少ない10万気圧まで高圧下磁化を高精度に測定できるセラミックアンビルを用いた圧力発生装置を新規に製作しました(図2)。また、純度の高いウラン化合物UGe2の単結晶を作成し、これを用いてUGe2

図2 高圧下磁化測定用のために用いた圧力発生装置

【得られた成果】

ウラン化合物において、磁性を担っているのはウランの5f電子1)です。また超伝導を担うのも同じ5f電子で、強磁性と超伝導の両方の特性をもつ超伝導はウラン化合物でのみ現れます。電子は自転していて電子自身が磁石のようになっています。強磁性状態3)では、この磁石の方向が一方向に揃っているものの、熱のエネルギーのため、微妙に磁石の方向や大きさが物質内部で変動しています。これを強磁性ゆらぎ3)と呼んでいます。実験では、圧力を制御しながら、UGe2の磁化を精密に測定し、理論解析から、強磁性ゆらぎを調べました。1万気圧以上で超伝導転移温度Tscが大きくなり、1.2万気圧近辺で最大値を示し、やがて減少してゆきます(図3)。強磁性ゆらぎのエネルギーT0も似たような振舞いを示す結果が得られました。

従来の超伝導では、電子とイオンの相互作用を通して、二つの電子がクーパー対5)と呼ばれるペアをつくり超伝導になります。今回の結果は、UGe2の超伝導は、強磁性ゆらぎがクーパー対形成に重要な役割を果たす、新しいタイプの超伝導であると考えられます。

図3 (上図)超伝導転移温度Tscと強磁性ゆらぎのエネルギーT0の圧力変化。両者は1.2万気圧近辺で最大となる圧力依存を示します。(下図)ウラン化合物の内部で、強磁性のゆらぎが高圧下で増大するイメージです。ゆらぎが超伝導出現に重要な役割を果たすと考えられます。

【今後の展開】

これまで強磁性と超伝導は相反する存在でした。また、高温超伝導銅酸化物6)や鉄系超伝導体7)は、反強磁性ゆらぎ8)が超伝導に対して重要な役割を果たし、強磁性ゆらぎは超伝導の阻害要因とされてきました。しかし、意外なことに、今回のUGe2では強磁性ゆらぎが超伝導出現に重要な役割を果たすことが示唆されました。今回の発見により、強磁性超伝導の理解が深まり、その機構解明が期待されます。また、ウラン系強磁性超伝導体は磁場に強い特徴があります。強磁性超伝導の機構解明から、磁場に強い超伝導線材等、新しい超伝導材料開発への発展が期待されます。

本研究の一部は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業JP16K05463(研究代表者:日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター 立岩尚之研究主幹)の支援を受けて行われました。

【論文と発表雑誌】

雑誌名:「Physical Review Letters」

論文タイトル:Strong Correlation between Ferromagnetic Superconductivity and Pressure-enhanced Ferromagnetic Fluctuations in UGe2

著者:Naoyuki Tateiwa, Yoshinori Haga, and Etsuji Yamamoto

DOI:10.1103/PhysRevLett.121.237001

【用語解説】

1) ウラン化合物、5f電子

ウラン(U)を含む化合物。ウラン原子には92個の電子があり、7つの電子殻に配置されています(図4)。(a)は緑色のウラン原子核の周りにある電子(青色の丸)を示した概念図です。(b)は電子配置図で、92個の電子は、s、p、d、fで表される電子軌道に配位します。O殻の5f軌道には3つの5f電子があり、磁性と超伝導など、多彩な物性に主要な役割を果たします。矢印は”電子のスピン”を示したもので、以下の解説を参照してください。

図4 ウラン92Uの電子配置

2) 超伝導

特定の物質を低い温度まで冷却したときに電気抵抗がゼロとなる現象です。超伝導現象が現れる温度を超伝導転移温度(Tsc)と呼びます。

3) 強磁性、強磁性のゆらぎ

電子は自転していて、この性質をスピンと呼びます。隣り合った電子のスピンが互いに同じ向きに整列した状態を強磁性状態といい、同じ向きに整列した状態からスピンの向きや大きさが時間的に変動することを強磁性ゆらぎといいます。

4) ウラン系強磁性超伝導体

UGe2, URhGe, UCoGeでは、強磁性と超伝導の2つの現象が現れ、両者は共存します。一般的に、強磁性は超伝導を阻害し、共存は難しいと考えられてきたことから、ウラン系強磁性超伝導体の発見は多くの興味を集め、現在でも盛んに研究が行われています。

5) クーパー対

通常の超伝導体では、電子とイオンの相互作用を介して、2つの電子が引き合いクーパー対と呼ばれるペアをつくっています。UGe2では、強磁性ゆらぎを介して2つの電子が引き合い、クーパー対が形成されていると考えられます。

6) 高温超伝導銅酸化物

1986年に銅を含んだ酸化物で高温超伝導が発見されました。超伝導転移温度(Tsc)はおよそマイナス140℃まで上昇しました。

7) 鉄系超伝導体

鉄系超伝導体は鉄を含む超伝導体の総称で、高温超伝導銅酸化物に続き超伝導転移温度(Tsc)が高い物質です。2006年に東京工業大学の細野秀雄教授らにより発見されました。

8) 反強磁性、反強磁性ゆらぎ

隣り合った電子のスピンが互いに反対向きに整列した状態を反強磁性状態といい、その状態でスピンの向きや大きさが時間的に変動することを反強磁性ゆらぎといいます。

【参考文献】

UGe2の超伝導発見を報告した最初の論文。
9) S. S. Saxena, P. Agarwal, K. Ahilan, F. M. Grosche, R. K. W. Haselwimmer, M. J. Steiner, E. Pugh, I. R. Walker, S. R. Julian, P. Monthoux, G. G. Lonzarich, A. Huxley, I. Sheikin, D. Braithwaite, and J. Flouquet, Nature 406, 587 (2000).

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