2019-02-14 JAXA はやぶさ2プロジェクト サンプラチーム
去る12月28日、2018年仕事納めの日にサンプラチームはある重要な試験を実施しました。小惑星リュウグウの表面を模擬した土壌に本物と全く同じ弾丸を撃ち込み、どのくらいのサンプルをイジェクタとして飛ばすことができるか、サンプラチームとしてタッチダウン(TD)前の最後の確認試験です。
はやぶさ2は金属の弾丸を射出する「プロジェクタ」と呼ばれる装置を使って、表面のサンプルを放出させ、サンプラホーンを介して受動的にサンプルを捕集することでサンプルを採取します。このプロジェクタは火工品も含め、フライトスペア(フライトモデルと同時に製作された同等品のこと)を複数式製作してありました(図1)。
今回の実験の元々の目的は、TD本番の約1か月前に4年以上の長期に保管されたフライトスペアのプロジェクタが正常に動作することの確認でした。
図1:使用したプロジェクタ(銃身)とプロジェクタイル(弾丸)
フライトスペアのため、形状、材料、全てがプライト品と同一である。(画像クレジット:JAXA)
ご存知の通り、リュウグウ表面には粉状の微細なレゴリスで覆われた地形は発見されておらず、cmオーダーやそれ以上の礫(れき)がゴロゴロしていることがMASCOTやMINERVA-II1といった着陸機の観測で分かっています。これは、打ち上げ前の予測とは大きく異なっており、探査機システムとしても安全にTDするための検討に時間を要しているわけです。同時にサンプラとしても、当初の想定通りに小惑星表面からサンプルを放出させることができるかの再検討が必要になりました。
そこで、今回のフライトスペアのプロジェクタの動作確認試験を活用して、リュウグウ表面を模擬したターゲットに本物と同じ弾丸を撃ち込んだらどのような現象が起きるかを試験することにしました。
まず東京大学大学院工学研究科・宮本英昭先生にご協力頂き、リュウグウ同様のC型小惑星の破片と目される「炭素質コンドライト隕石」の組成、密度、強度などを模擬して人工的に製作した礫を用意し、着陸機の撮影画像を手掛かりにリュウグウ表面のサイズ分布に似せて礫を積み上げたターゲットを準備しました(図2)。
図2:リュウグウの表面を模擬したターゲット(画像クレジット:JAXA、東京大学)
試験は内径φ60cm程度の真空チャンバの中にリュウグウ模擬ターゲットとプロジェクタを設置し、1/1000気圧以下まで減圧してから弾丸を射出しました(図3)。
開発時の地上試験では、炭素質コンドライト隕石と同程度の強度を持つ大きな岩でも、約秒速300mで射出される質量5gの金属(タンタル)製のプロジェクタイルの衝突によって砕かれて、小片のサンプルがサンプラによって採れることが確認されています。ですので今回の試験でも、弾丸がぶつかった礫が砕けることは予想がつくのですが、周りの礫がどのような挙動をするかが焦点の1つでした。
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図3:試験で使用した真空チャンバ
ハイスピードカメラで撮像するため非常に明るい光源をチャンバの窓から入れてターゲットの様子を記録した。(画像クレジット:JAXA)
実験の結果、砕けて周囲に放出された礫の破片が、周りを囲む他の礫たちにビリヤードのように衝突して連鎖的に砕き、当初の想定以上のサンプル量を表面から放出させることが分かりました(図4)。
プロジェクタイルの衝突によって作られた衝突痕(クレータ)の直径は、粉状の微細なレゴリス層に撃ち込んだときと比べれば小さいのですが、サンプラホーンの先端開口部の内径と比べれば、十分なサイズでした。今回の実験は地球重力下で行われましたが、ハイスピードカメラの画像(図5)からも、砕けて粉状になった礫の破片から、ホーン部を通過できる大きさのサンプルまで、様々なサイズのサンプルが放出されていることが確認できました。リュウグウ表面で行われるタッチダウン本番での試料採取でも、今回の模擬標的と似た地形に着陸できれば、微小重力下であるためにさらに多くのの量のサンプルがサンプラホーン内に導入されることが期待されます。
期待以上の試験結果を得ることができ、サンプラチームは良い年末を迎えることができました。
図4:ターゲットに弾丸が撃ち込まれる様子。
通常のビデオレートで撮影されたもの。(画像クレジット:JAXA)
図5:ターゲットに弾丸が撃ち込まれる様子。
1秒間に420枚の画像を撮影したもの。実際の時間よりも約14倍長い時間で表示されている。(画像クレジット:JAXA)
[修正 2019.2.15] 拡大版に差し替え。
※ 東京大学の宮本英昭教授およびISASの長谷川直氏に協力していただきました。
はやぶさ2プロジェクト サンプラチーム
2019.02.14