加工・業務用ホウレンソウの機械収穫体系を構築

ad

収穫作業時間を手穫り収穫の1/5~1/10に短縮し、生産コストも削減

2018/09/06 農研機構,(株)ニシザワ

加工・業務用ホウレンソウ1)に対応させた野菜収穫機の改良を行い、中小規模の生産者の実情に合わせて、「小型コンテナ横流れ方式」および「メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式」の2つの方式で機械収穫体系を構築しました。機械収穫体系による収穫作業時間は、従来の手穫り収穫の1/5~1/10程度に短縮されました。またホウレンソウ生産費も「小型コンテナ横流れ方式」で手穫り収穫と比べ20~40%減となりました。

概要

加工・業務用ホウレンソウは近年需要が増加していますが、国内生産量が需要に追いつかず、輸入品が大きなシェアを占めているのが現状です。生産の効率化を図るため、大規模生産では大型乗用収穫機械を中核とした生産体系への移行が進んでいますが、中小規模生産では機械化が遅れており、中小規模生産向けの効率的で低コストな機械収穫体系の構築が望まれていました。
そこで農研機構は、(株)ニシザワと共同で、加工・業務用ホウレンソウの中小規模生産に適した、既存の野菜収穫機用の連続収穫のためのアタッチメントを開発しました。さらに農研機構は宮崎県、熊本県、(株)クマレイと共同して、開発機を利用した2方式の機械収穫体系「小型コンテナ横流れ方式」および「メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式」を構築しました。
実証試験等において、2方式の機械収穫体系による収穫作業時間は、従来の手穫り収穫の1/5~1/10程度に短縮されました。またホウレンソウの生産費は、「小型コンテナ横流れ方式」では手穫り収穫と比べ20%減となりました。さらに「小型コンテナ横流れ方式」では一度収穫した刈り株からホウレンソウを再収穫する「刈り取り再生栽培2)」が可能で、「刈り取り再生栽培」を行った場合、生産費は手穫り収穫と比べ42%減となりました。このように、開発した機械収穫体系は、加工・業務用ホウレンソウ生産の省力・低コスト化に貢献します。
改良した連続収穫アタッチメントは(株)ニシザワより販売されています。
これらの機械収穫体系実施に向けた栽培時の留意点や作業方法などをまとめた「加工・業務用ホウレンソウ機械収穫体系マニュアル」を作成しました。本マニュアル(PDF形式)は農研機構ウェブページからダウンロードできます。
URL http://www.naro.affrc.go.jp/karc/contents/tec_manu/index.html

関連情報

予算:農林水産省 平成28年度農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)「加工用ホウレンソウの多収抑草技術の開発による機械収穫生産体系の確立」、運営費交付金

お問い合わせ

研究推進責任者

農研機構 九州沖縄農業研究センター所長 大黒 正道

研究担当者

同 畑作研究領域 畑機械・栽培グループ 石井 孝典

広報担当者

同 企画部産学連携室長 樽本 祐助

本資料は、筑波研究学園都市記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、九州各県の県政記者クラブ、日本農業新聞九州支所に配付しています。

※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。新聞、 TV 等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。

ファイルダウンロード

加工・業務用ホウレンソウの機械収穫体系を構築

詳細情報

背景と経緯

加工・業務用ホウレンソウの需要は、消費構造の変化などから大きく伸びています。しかし国内産原料生産量の伸びは需要の伸びと比べ小さく、輸入品が約70%と大きなシェアを占めているのが現状です。「高品質で安全安心」な国内生産物に対するニーズは高いものの、農家戸数の減少や生産者の高齢化からこうしたニーズに充分対応できなくなってきています。この状況の打開に向けて、大規模生産では大型乗用収穫機械を中核とした生産体系への移行が進んで生産力が増強されているものの、中小規模生産においては対応する効率的な収穫機がなく、機械化体系の構築が遅れています。
このため、農研機構は、株式会社ニシザワ、株式会社クマレイ、熊本県、宮崎県と共同研究を行い、中小規模生産に対応した加工・業務用ホウレンソウ機械収穫体系を構築しました。これにより中小規模生産においても収穫機械導入が促進され、加工・業務用ホウレンソウ生産の省力・低コスト化の実現が図られると考えます。

中小規模加工・業務用ホウレンソウ生産者向けに改良された収穫機とその利用体系
  1. これまで、中小規模の加工・業務用ホウレンソウ向けには歩行型収穫機(加工用野菜収穫機NMSH-1300(株)ニシザワ)が開発されていましたが、収穫物を収納するコンテナ3)を交換するため機械を数メートルごとに停止させる必要があり、普及が進んでいませんでした。普及を進めるためには、作業能率の向上のため収穫物搬出手法の改善が必要でした(写真1)。
  2. そこで、生産者の実情に合わせ、連続運転を可能にする2種類のアタッチメント(写真2)を開発し、それぞれを利用した「小型コンテナ横流れ方式」と「メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式」の収穫体系を構築しました(写真3、4)。
  3. 現地実証試験及び農家調査において、開発した機械収穫体系による収穫作業時間は、従来の包丁などを利用した手穫り収穫の85.6人・時間/10aと比べ、小型コンテナ横流れ方式(4人組作業)では14.5人・時間/10a、メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式(3人組作業)では6.8人・時間/10aと、1/5~1/10程度に短縮されました(表1)。
  4. 「小型コンテナ横流れ方式」では、12月に収穫した刈り株からホウレンソウを再生させ、2月頃に再収穫する「刈り取り再生栽培」が可能です。なお、「メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式」では収穫物を運搬するホイルローダーなどの大型作業機利用により刈り株を傷めるため「刈り取り再生栽培」は困難となります。
  5. 生産者に対する経営調査結果からの試算では、ホウレンソウ100kg当たり全算入生産費は、小型コンテナ横流れ方式では手穫り収穫と比べ20%減となりました。さらに刈り取り再生栽培を行った場合、全算入生産費は手穫り収穫と比べ42%減となりました(表2)。
今後の予定・期待
  1. 現在、機械化が遅れている中小規模生産者の生産維持を支えるのみならず、低コスト・省力化につながることから、加工・業務用ホウレンソウ生産拡大や新規参入に寄与するものと考えられます。
  2. 開発した機械収穫を効率良く行うための圃場準備や播種様式、収穫作業を行う手順をまとめたマニュアルを作成しました。機械収穫を行う際に必要な栽培管理時の雑草量の低減対策についても記載しています。本マニュアル(PDF形式)は、農研機構のウェブページからダウンロードできます。
    URL http://www.naro.affrc.go.jp/karc/contents/tec_manu/index.html
  3. 収穫体系の更なる効率化は引き続き検討を行っており、それに伴いマニュアルも改訂していく予定です。
用語の解説

1)加工・業務用ホウレンソウ
冷凍加工品の原料や外食・中食企業において、ごまあえや炒め物など加熱調理用として利用されているホウレンソウです。一般に流通する青果用ホウレンソウが草丈25cm程度であるのに対し、40cm以上の大型に生育させて収穫します。大きく育てることで葉が肉厚となって食感が増すなど加工適性が高まります。また、一株が大きいことから重量当たりの収穫労力が少なくて済みます。加えてプラスチックコンテナ等を使った出荷体系なので、青果用ホウレンソウに比べて低コストでの生産が可能です。
加工・業務用ホウレンソウの国内での主な産地は平成28年度産で宮崎(68%)、熊本(12%)、茨城(8%)、北海道(3%)、千葉(3%)などです。

2)刈り取り再生栽培
ホウレンソウの機械収穫では株元から刈り取るため成長点が残り、刈り株から再萌芽しホウレンソウが再生してきます。大型機械作業機を使わず、刈り株の損傷が少ない体系で機械収穫を行えば、収穫後に残った株から再生される2番草を再収穫する「刈り取り再生栽培」を行うことができます。 「刈り取り再生栽培」は南九州など暖地では9月下旬から10月上旬の間に播種し、11月から12月に収穫を行う作型に適用できます。収穫した後、厳冬期である2月までの間に再収穫できます。 定量出荷のためには、生育量が少なくなる厳冬期には収穫面積を増やして対応する必要がありますが、「刈り取り再生栽培」を利用すれば、厳冬期収穫に向けた圃場準備を削減することができます。

3)(加工・業務用ホウレンソウ出荷に利用される)コンテナ
加工・業務用ホウレンソウでは青果用のような袋詰めは行わず、刈り取ったホウレンソウをコンテナ等に定量を詰めて出荷します。手穫り収穫では、容量46リットル(よこ525mm×たて365mm×高さ305mm)のプラスチックコンテナが利用されています。プラスチックコンテナは安価で丈夫であり、人力で運ぶのに良い大きさであるため利用されています。他の農産物でも利用されており、汎用性が高くなっています。一方、メッシュコンテナはフォークリフトなどの作業機を利用して一度に大量の収穫物を運ぶことができ、多くの加工・業務用野菜でも利用され始めています。メッシュコンテナはスチールコンテナやボックスパレットなどとも呼ばれています。用途に合わせ1,000~2,500リットル程度の容量(例えばおよそ1,100リットルの容量でよこ1,200mm×たて990mm×高さ950mm)で、折り畳みが可能なため保管場所をとらないメリットもあります。

参考図

写真1 歩行型加工用野菜収穫機(NMSH-1300 (株)ニシザワ)

(空白)

写真2 開発した2種類の歩行型野菜収穫機用連続収穫アタッチメント

(空白)

写真3 小型コンテナ横流れ方式でのホウレンソウの収穫作業

(空白)

写真4 メッシュコンテナ・ベルトコンベア方式でのホウレンソウの収穫作業

(空白)

表1 各収穫体系における労力の比較

(空白)

表2 手穫り収穫体系と機械収穫体系( 小型コンテナ横流れ方式)及び刈り取り再生栽培技術の導入による全算入生産費の比較

1202農芸化学
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました