高レベル放射性廃液から4つの元素を相互分離する技術を開発

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長寿命核分裂生成物(LLFP)の低減と資源の有効利用を目指して

2018-03-23 東芝エネルギーシステムズ株式会社 科学技術振興機構(JST)
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

ポイント
  • 長半減期核種の同位体を含むパラジウム(Pd)、セレン(Se)、セシウム(Cs)、ジルコニウム(Zr)を個別に化学分離し、金属として回収する方法を考案
  • 本プログラムの成果である偶奇分離法や核変換と組み合わせることで、長半減期核種を除去・処分する技術開発につなげる
  • 高レベル放射性廃液の放射能の低減と資源の有効利用を目指す

東芝エネルギーシステムズ株式会社(以下、東芝エネルギーシステムズ)は、二次廃棄物の発生が少ない分離方法を利用して、高レベル放射性廃液中から長寿命核分裂生成物(LLFP)注1)を含む4つの元素を個別に化学分離し、金属として回収する技術を考案しました。

本研究は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換注2)による高レベル放射性廃棄物注3)の大幅な低減・資源化」(プログラム・マネージャー 藤田 玲子)の一環として実施しました。ImPACT藤田プログラムでは、廃棄物から有用元素を回収し資源として利用する方法や、高レベル放射性廃棄物からLLFPを取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換することにより放射能を減らす方法を開発しています。

原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した際に発生する高レベル放射性廃棄物中には、半減期が数十万年以上もあるパラジウム(Pd)、セレン(Se)、セシウム(Cs)、ジルコニウム(Zr)などの元素が存在します。これら分離対象の元素はそれぞれ独自の化学的性質を示しているため、いくつかの分離法を併用する必要があります。一方、さまざまな元素を分離する方法の適用は、高い放射能の拡散や二次廃棄物の大量発生が心配され、世界的にも進んでいない状況です。

本研究により、高レベル放射性廃液から電解法注4)、吸着法注5)や溶媒抽出法注6)を用いて、半減期の極めて長い同位体を含む4つの元素を個別に分離できる手法を開発しました。分離法ごとに液性をほとんど変えずに、二次廃棄物の量を極力抑えることが可能です。今後、それぞれの手法を組み合わせた実験により、実用化に向けた道筋をつけます。

本成果は、日本原子力学会 2018年春の年会(2018年3月27日予定)および日本溶媒抽出学会学会誌『Solvent Extraction and Research Development, Japan』(vol. 25(2),2018年4月ウェブ公開予定)にて発表します。また、国内特許:放射性廃液に含まれる長寿命核種の分離回収方法(出願番号:特願2016-207117、出願日:2016/10/21)、金属の相互分離方法(出願番号:特願2017-034812、出願日:2017/02/27)を出願しています。

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)

プログラム・マネージャー
藤田 玲子

研究開発プログラム
核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化

研究開発課題
高レベル廃液からの電解法と溶媒抽出法を用いた長寿命核種の分離回収技術の開発

研究開発責任者
浅野 和仁

研究期間
平成27年度~平成29年度

本プログラムでは、半減期の極めて長い同位体を含む4つの元素を個別に分離できる手法の開発に取り組んでいます。

<藤田 玲子 プログラム・マネージャーのコメント>

ImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」では、高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)を湿式分離し、核変換を行うことにより、廃棄物をリサイクルして資源化する日本独自の技術を提案することを目指しています。

核変換を効率的に行うためには、目的の元素(Pd、Se、Cs、Zr)を純度よく取り出す必要があります。本研究では、元素の化学的性質がそれぞれ異なることを考慮して、回収率が高く、相互分離性の優れた分離法を適宜組み合わせました。加えて、金属試料として取り出す方法も考案しました。

このように、高レベル放射性廃液から、異なる化学的性質を持つLLFPの系統的な回収方法を世界で初めて示すことができました。今回開発した4元素相互分離法は、目的金属の資源化や効率的な処分を可能とする画期的な方法です。

<研究の背景と経緯>

原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の放射能の低減と資源としての再利用は、日本のみならず世界的な課題です。ImPACT藤田プログラムでは、この課題を解決するために、廃棄物から有用元素を回収し資源として利用する方法や、LLFPを取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換して放射能を低減する方法を開発しています。

原子力発電所の使用済核燃料からウランとプルトニウムを分離回収した後に残る廃液には、高レベルの放射能をもつマイナーアクチノイド注7)や核分裂生成物が含まれています。マイナーアクチノイドを高レベル放射性廃棄物から取り出す技術は、長年にわたって研究されていますが、核分裂生成物を分離回収する技術は、研究が進んでいません。

そこで、本研究では、半減期が数十万年以上のLLFPを含むパラジウム(Pd)、セレン(Se)、セシウム(Cs)、ジルコニウム(Zr)の4元素を回収する技術を開発しました。新たに開発した手法では、金属として容易に回収できる電解法と、個別の元素分離に有効な吸着法と溶媒抽出法を利用した回収技術を開発しました。回収した4元素は金属試料として取り出せるため、後段の偶奇分離法注8)や核変換を適用でき、長半減期核種を低減できることになります。

<研究の内容>

マイナーアクチノイドや核分裂生成物を含んでいることを模擬した溶液「模擬高レベル放射性廃液」から、Pd、Se、Cs、Zrを化学的に分離し、金属として回収する方法を考案しました(図1)。以下に考案した手法の手順を記載します。

①電解法によるPd、Seの回収。電位を0.2V(Ag/AgCl基準)以下にすることで溶液中のPdとSeが還元されて電極上に金属として析出します(図2)。

②金属として析出させたSeは、揮発させてPdと分離します(図3)。

③Csは吸着法によりゼオライト中に吸着、回収します。その後、ギ酸アンモニウム水溶液でゼオライトからCsを溶離させます(図4)。溶離液を蒸発乾固し、酸化セシウム(CsO)を得ます。これを溶融塩電解により、Cs金属もしくは合金として回収します。なお、種々のゼオライトを試験および評価した結果、天然モルデナイト注9)が吸着性、溶離性の両観点から優れていることが分かりました。

④Zrは溶媒抽出法で有機相に回収した後、シュウ酸溶液中に逆抽出します。逆抽出溶液の水素イオン濃度(pH)を調整し、Zrを水酸化物として沈殿回収します。水分を蒸発させたZr水酸化物を酸化物に転換後溶融塩電解してZr金属として回収します。有機相に添加する抽出剤としては、HDEHP(ジ-2-エチルヘキシルリン酸)とTODGA(テトラオクチルジグリコールアミド)を比較し、HDEHPが優れていることが分かりました(図5)。

それぞれの実験で得られた結果等(電解法で陰極に回収したPd、Se、吸着法に用いる天然モルデナイト、溶媒抽出法で回収したZr水酸化物)の写真を図6に示します。また、それぞれの条件で得られた回収率を一例として表1に記します。

<今後の展開>

本研究により、半減期の極めて長い同位体を含む4元素を個別に回収できる分離法を開発しました。開発した分離回収法は、高レベル放射性廃液の液性をほとんど変化させないため後段の分離に影響を及ぼさず、各分離法で高い回収率を得られることを確認しました。

今後は、模擬高レベル放射性廃液を使ってそれぞれの分離工程をつなげた連続試験を行い、回収率の高い条件を見いだします。分離条件を明確にした後に、実際の高レベル放射性廃液を使って回収元素の放射能レベルの評価なども行い、実用化を目指します。

<参考図>

高レベル放射性廃液から4つの元素を相互分離する技術を開発

図1 考案した4元素の分離回収法の手順

①高レベル放射性廃液から電解法によりPdとSeを金属として回収する。

②Seを揮発させてPdと分離する。

③吸着法によりゼオライトにCsを吸着させ回収する。

④溶媒抽出法によりZrを回収する。

これらの化学分離法では、マスキング剤注10)やpHコントロールのための化学試薬を高レベル放射性廃液中に添加しないため、分離工程間で液性がほとんど変化しない。

なお、回収した4元素は後段で偶奇分離した後に、核変換する。

図2 電解法によるPd、Seの回収

図2 電解法によるPd、Seの回収

模擬高レベル放射性廃液中に電極を導入し、0.2V以下の電位をかける(Ag/AgCl基準)。図は、3時間電解した時のPd、Seの回収率を示す。6時間電解でPdは90%以上回収できた。

図3 Seの揮発によるPdからの相互分離(熱重量分析結果)

図3 Seの揮発によるPdからの相互分離(熱重量分析結果)

PdとSeを分離するには、Seの揮発しやすい性質を利用する。500℃以上に加熱することで、Seを酸化物として揮発させPdと相互分離できる。図はPdとSeに熱をかけた際の重量変化を熱重量分析で調べた結果。

回収した酸化セレン(SeO)は、その後金属形態に還元する。

図4 吸着法によるCsの回収

図4 吸着法によるCsの回収

PdとSeを除いた模擬高レベル放射性廃液から、吸着法によりCsを取り除く。

福島第一原子力発電所の汚染水処理で培ったゼオライト吸着剤の知見から、天然モルデナイトを吸着材としてCsの吸着回収を試みた。検討の結果、液固比を5ml/gとして撹拌、吸着を2回繰り返す操作で、91%のCsを回収できた。

次のステップとして、天然モルデナイトからギ酸アンモニウム水溶液でCsを溶離させて、得られたCs溶液を蒸発乾固し、乾固物中の酸化セシウム(CsO)を溶融塩電解で金属に還元する。

図5 溶媒抽出法によるZrの回収法

図5 溶媒抽出法によるZrの回収法

最後に溶媒抽出法を用いてZrを回収する。水相には模擬高レベル放射性廃液を、有機相には有機溶剤ドデカンに抽出材HDEHP(ジ-2-エチルヘキシルリン酸)またはTODGA(テトラオクチルジグリコールアミド)を添加した溶液を用い、2相を撹拌・分離した。

抽出後の次のステップとして、シュウ酸溶液を加えて逆抽出し、その後水酸化物として沈殿させる。得られた水酸化物を溶融塩電解しZr金属として回収する。

試験結果から、Zrを選択的に分離できる抽出剤の分子設計に向けて、基礎情報が得られた。その知見を活かし、今後さらに抽出剤の改良を目指す。

図6 実験で得られた結果等の写真

図6 実験で得られた結果等の写真
回収元素 手法 条件 回収率(%) 備考
Pd 電解法 0V/6時間 96
Se 電解法 0V/1時間 92
Cs 天然ゼオライトを用いる吸着法 液固比5:1 2回繰り返し 91
Zr HDEHPを用いる溶媒抽出法 向流接触4段抽出 92
表1 得られたLLFPの回収率

①模擬高レベル放射性廃液の試験結果

②Pd2700ppm、Se500ppm含有2mol/L硝酸水溶液の試験結果

③模擬高レベル放射性廃液の試験結果から、机上評価

④模擬高レベル放射性廃液を1/3希釈した溶液からの試験結果

<用語解説>
注1)長寿命核分裂生成物(LLFP)
核分裂生成元素は原子炉内でU-235の核分裂で生成する核種であり代表にSr-90やCs-137などがある。その中で半減期の長い放射性同位元素のこと。LLFPは(long lived fission products)の略。原子力発電所の使用済み核燃料を再処理した残りの高レベル放射性廃棄物には、79Se(半減期:29.5万年)、93Zr(153万年)、99Tc(21.1万年)、107Pd(650万年)、126Sn(10万年)、129I(1570万年)、135Cs(230万年)などが含まれる。
注2)核変換
得られた長半減期核種をターゲットとして、中性子ビームなどを照射し安定な核種または短半減期核種に変換すること。これにより長半減期核種は消滅する。
注3)高レベル放射性廃棄物
使用済み燃料を溶解してウランとプルトニウムを回収(再処理)した後に残る、放射性物質を多量に含む廃棄物のこと。ウランの溶解には硝酸溶液を用いるので、通常は硝酸酸性溶液となる。
注4)電解法
電気エネルギーを加え、溶媒中のイオン化傾向の異なる物質を介して酸化還元反応を行い、化合物を化学分解すること。高レベル放射性廃液の液性は2M硝酸系で、そのままを電解処理可能である。対象元素であるパラジウムとセレンは電解により、金属に還元されて廃液から回収可能となる。
注5)吸着法
物理的もしくは化学的に吸着して捕集すること。ゼオライトなどを用いて、対象とするイオンを吸着することで溶液から除去する。溶液中に化学試薬を添加する必要はない。対象元素のセシウムはイオン交換体であるゼオライトへ選択的に吸着することから、廃液からの分離回収が可能となる。
注6)溶媒抽出法
物質の2液間の分配の差を利用して分離を行うこと。水相と有機相での溶けやすさの違いを利用して、目的の物質を分離する。ここでは、水溶液に含まれる目的の金属Zrを、有機物系の抽出剤を用いて有機相に回収している。なお、回収後はシュウ酸により水相に逆抽出し、Zr水酸化物を形成させた後に溶融塩電解で金属として回収する。
注7)マイナーアクチノイド
アクチノイドは、原子番号が89から100までの15の元素の総称。そのうちウラン(原子番号92)より重く、プルトニウムを除いた7元素をマイナーアクチノイドと呼ぶ。高レベル放射性廃液中に含まれるアクチノイド元素の中では、やや濃度が低い。Am(アメリシウム)やCm(キュリウム)が代表的である。
注8)偶奇分離法
同位体の吸収波長の違いを利用できるレーザー同位体分離法を使って、偶数の質量数の同位体と奇数のものを分ける方法。長半減期核種はすべて同位体が奇数であり、奇数を偶数から取り除くために使用する。
注9)天然モルデナイト
火山活動によって約700万年もの年月をかけて作られた天然の鉱物。水や窒素分子よりも少し大きい5.5~8オングストローム(1Å=0.1ナノメートル)というごく微小な空洞がトンネル状に構成されているゼオライトである。
注10)マスキング剤
分離方法に妨害となる物質を、妨害を与えない化学種に変える化学薬品のこと。
<論文情報>

タイトル1:“Reduction and Resource Recycling of High-level Liquid Radioactive Wastes through Nuclear Transmutation, — Electrolytic deposition based process to recover long-lived radionuclides of Pd, Zr, Se and Cs form simulated high level radioactive wastes—”

著者名:Y. Takahashi, M. Kaneko, Y. Yamashita, T. Omori, K. Asano, Y. Sasaki, K. Ito, and S. Suzuki

掲載誌:国際学会(Global2017)の論文として掲載(論文番号:EA-257)

タイトル2:“Extraction and separation of Se, Zr, Pd, and Cs including long-lived radionuclides”

著者名:Y. Sasaki, K. Morita, S. Suzuki, H. Shiwaku, K. Ito, Y. Takahashi and M. Kaneko

掲載誌:Solvent Extr. Res. Dev. Jpn

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

浅野 和仁(アサノ カズヒト)
東芝エネルギーシステムズ株式会社 原子力先端システム設計部
先端システム設計第一担当 グループ長

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

<機関窓口>

東芝エネルギーシステムズ株式会社 コミュニケーション担当

科学技術振興機構 広報課

2002原子炉システムの運転及び保守
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