「しきさい」が捉えたフィリピン、マヨン火山の噴火
2018-02-02 地球観測研究センター
気候変動観測衛星「しきさい」は2017年12月23日に種子島宇宙センターより打ち上げられ、現在、初期機能確認運用を実施しており、2018年1月1日から開始した可視~短波長赤外に続き、1月22日からは熱赤外の試験観測も開始しています。
2018年1月23日に得られた250m空間解像度の熱赤外の観測では、フィリピン、マヨン火山の噴火の様子を捉えました。
フィリピン、ルソン島のマヨン火山が2018年1月13日に噴火しました。フィリピン火山地震研究所によると、山頂部での水蒸気爆に続いて溶岩が噴出し、翌日には溶岩ドームが形成されると共に一部の溶岩が南斜面を流れ下り始めるのが確認されました。この後も溶岩の噴出が続き、16日には南側に流れ出た溶岩がMiisi谷に沿って2㎞流下していること、さらに南東側にも溶岩が流れ下っていることが観察されました。また、山頂の溶岩ドームの成長や溶岩流の流下に伴ってその周辺部が崩壊し、多数の小規模火砕流が発生しました。22日には山頂で断続的にストロンボリ式溶岩噴泉が発生するようになる等、活動が活発化しています。24日の時点で、南のMiisi谷に向かった溶岩流は火口より3㎞、南東のBuyuan谷方面の溶岩流は1㎞の距離に達していることが報告されています。今回のマヨン火山の噴火によって数万を超える近隣住民が避難する事態となっています。
図1 「しきさい」による2018年1月23日2時頃(世界時)のフィリピン、マヨン火山の観測画像(赤・緑・青波長の250m観測データで作成したRGB画像)
左は朝鮮半島~東南アジアまでの広域の図で、赤四角枠の拡大図が右図で赤三角がマヨン火山の山頂付近。
「しきさい」の23日撮影の画像(分解能250 m)により以下のことが読み取れます。
*赤・緑・青波長の観測データで作成したRGB画像(図1)
マヨン火山の大半は雲に覆われているものの、山頂付近から灰色がかった噴煙が西に向かって放出されているように見えます。これは22日以降の活動活発化に伴って発生した噴煙の一つと考えらます。
図2 「しきさい」による2018年1月23日のフィリピン、マヨン火山の観測画像(250m解像度の熱赤外波長の観測データで作成した輝度温度画像 ※温度は未検証のため参考値;単位はK:Kelvin=摂氏℃+273.15)
画像中心付近の赤い領域がマヨン火山の山頂付近。右上にマヨン火山主要部の拡大画像を示す。
*熱赤外波長の観測データで作成した輝度温度画像(図2)
・マヨン火山の山頂付近に高い熱異常(350-400K)が認められます。これは山頂の溶岩ドームを示すと思われます。噴煙もこの付近から立ち上っているように見えます。この熱異常を示す画素の分布から、溶岩ドームの直径はせいぜい200-300m程度と推定されます。
・上記の山頂付近の高温域から南東方向に向ってやや低い高温域(300K前後)が長さ3.5㎞に渡って細長く伸びています。これはBuyuan谷に流れ出た溶岩流とその周囲が崩壊することによって生じた小規模な火砕流の堆積域と推定されます。フィリピン火山地震研究所によると、Buyuan谷に流れ下った火砕流は24日には山頂火口から5㎞付近まで達しているとされています。「しきさい」の画像で、山頂の溶岩ドームと思われる高温域から火砕流先端までが4㎞強と見込まれ、23日から24日の間に火砕流の到達域が数100m程度伸びた可能性が考えられます。南のMiisi谷に向かった溶岩流は雲のため見ることができません。
・山頂付近の高温域から、東に向かって小さな熱異常域が伸びているように見えます。これは山頂の溶岩ドームからの小規模な火砕流が東斜面にも流れ込んでいるためなのかもしれません。
マヨン火山は、標高2,462mの富士山に似た円錐形の成層火山で、フィリピンで最も活発な活火山の1つとされています。ここでは記録に残る1616年の噴火以降、数10回を超える噴火が発生しており、とくに1814年の噴火では1200名の犠牲者が出ています。最近では、1993年の噴火の際、発生した火砕流-山頂より6㎞の山麓域まで到達-により75名が犠牲となっています。
(文章:金子 隆之,東京大学地震研究所,2018年2月1日)
観測画像について
図1、2
観測衛星 | 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C) |
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観測センサ | 多波長光学放射計(SGLI) |
観測日時 | 2018年1月23日2時頃(世界標準時) |
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