新構造トランジスターを開発

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平成29年12月4日

科学技術振興機構(JST)
東京大学

超低消費電力LSIを可能にする新構造トランジスターを開発

~量子トンネル効果を駆使、IoTの電池寿命を大幅に延長~

ポイント
  • 極めて小さな消費電力で動作するトンネル電界効果トランジスターの開発に成功。
  • 酸化物半導体とシリコン系半導体材料の積層界面を活用し、量子トンネル効率を最大化。
  • IoT端末の電池寿命の大幅延長や、半導体集積回路の大幅な消費電力削減など、新しい応用展開が可能に。

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京大学 大学院工学系研究科の高木 信一 教授らは、極めて小さな電圧制御で動作が可能な量子トンネル電界効果トランジスター注1)を開発しました。

IoTやモバイル端末のさらなる低消費電力化と電池寿命の延長のため、これまでのMOS型トランジスター注2)に代わる、新たな物理現象を動作原理に用いた革新的なトランジスターの開発が望まれていました。

本研究グループは、従来の大規模集積回路(LSI)に用いられるSi(シリコン)やGe(ゲルマニウム)と、主にディスプレイなどに使用される酸化物半導体とを組み合わせたトンネル電界効果トランジスターを初めて実現しました。すでに広く実用化されている材料同士の組み合わせは、現在の半導体製造工程の活用と早期の実用化を視野に入れた、新しい発想です。素子構造の最適化と材料の組み合わせにより量子トンネル効果を効率よく引き起こすことで、ゲート電圧注3)のわずかな変化で極めて大きな電流変化を実現し、素子のオン状態とオフ状態との電流比を世界最高値にまで引き上げることに成功しました。

このトランジスターは、従来の半分以下の低い電圧で動作可能なほか、極めて小さな待機時消費電力が達成されます。そのため、さまざまなモバイル端末の省電力化や環境発電と融合したバッテリー不要な集積回路の実現など、新たな応用展開が期待されます。 本研究成果は、2017年12月3日(米国西部時間)に国際会議International Electron Devices Meeting(IEDM)で発行される「Technical Digest」に掲載されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域
「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」
(研究総括:桜井 貴康 東京大学 生産技術研究所 教授)

研究課題名
「極低消費電力集積回路のためのトンネルMOSFETテクノロジーの構築」

研究代表者
高木 信一(東京大学 大学院工学系研究科 教授)

研究期間
平成25年10月~平成31年3月

JSTはこの領域で、材料・電子デバイス・システム最適化の研究を連携・融合することにより、情報処理エネルギー効率の劇的な向上や新機能の実現を可能にする研究開発を進め、真に実用化しイノベーションにつなげる道筋を示していくことを目指しています。上記研究課題では、実用的で高性能のデバイス技術を開発すると共に、トンネル電界効果トランジスターの設計技術や回路技術を構築し、0.3V以下で動作しうる極低消費電力のシステムの実現を目指しています。

<研究の背景と経緯>

IoT(モノのインターネット)の急速な発展と共に、身の回りのさまざまな電子機器がネットワーク上でつながり、クラウドサーバーやモバイル端末の低消費電力化の重要性が近年より一層求められています。電界効果トランジスタ(FET)は、プロセッサーやメモリーの基本構成素子注4)としてあらゆる機器内で使用されていることから、その低消費電力化は喫緊の課題です。

低消費電力化には、FETのオン状態とオフ状態、つまり、電流の流れる状態と流れない状態を小さな電圧差で達成することが重要です。従来のMOS型電界トランジスター(MOSFET)では、動作電圧の低減は原理的に限界を迎えています。

この限界を突破するため、従来とは異なる動作原理として量子トンネル効果を用いた電界効果トランジスター(トンネルFET)が、新たな素子として期待されています。しかしながら、トンネルFETではオン状態とオフ状態とで十分大きな電流比をとることが難しいなど、本質的な課題が数多く残っています。また、材料的にも、結晶成長技術を駆使したInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)やGaSb(アンチモン化ガリウム)などのIII-V化合物半導体や、分子吸着を利用したMoS(二硫化モリブデン)やWSe(セレン化タングステン)などは、既存の半導体技術への組み込みや大規模集積化が難しく、実用化の面で大きな課題が残っています。

<研究の内容>

トンネルFETではオン状態とオフ状態の電流比を大きくするためには、オン状態では量子トンネル効果をより効果的に引き起こすこと、オフ状態では電流の漏れを小さくすることが重要であり、材料上および構造上の工夫が必要です。

本研究では、酸化物半導体材料とIV族半導体材料を積層させた構造を検討し、動作実証に成功しました。Si(シリコン)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、Ge(ゲルマニウム)などのIV族半導体材料は、大規模集積回路の基盤となる材料です。また、ZnO(酸化亜鉛)などの酸化物半導体は、薄膜トランジスタ(TFT)の材料としてディスプレイなどで幅広く使用されています。各々は十分実用化レベルにある材料にも関わらず、これらの異なる材料系を組み合わせた研究はこれまでなく、世界で初めての試みです。

今回開発したトンネルFETの構造模式図とエネルギーバンド図を図1に示します。トンネル現象は量子力学的な物理現象であり、バンド構造を正確に理解・制御する必要があります。ゲート電極に正の電圧を加えることで、IV族半導体の価電子帯と酸化物半導体の伝導帯とがエネルギー的に重畳し、量子トンネル効果が発現し、以下が可能になります。

  • ゲート電極‐極薄ゲート絶縁膜‐酸化物半導体‐IV族半導体が積層した構造により、IV族半導体と酸化物半導体の接合面全域にわたり量子トンネル効果が生じるため、ON状態での電流値を効果的に増大可能
  • 適切な材料の組み合わせにより、実効エネルギー障壁高さ注5)を小さくすることで、量子トンネル確率を指数関数的に増大可能(図2
  • 量子トンネル距離は上部の酸化物半導体膜厚により決定することが可能なため、こちらも量子トンネル確率を指数関数的に増大可能
  • 酸化物半導体の禁制帯幅(バンドギャップ、電子が存在することができない領域)が大きいため、オフ状態の漏れ電流を小さくすることが可能となります。

さらに、TCADシミュレーション注6)により、電流値の変化の急峻性を示すS係数注7) において、最小値1mV/桁、0.3Vの動作領域全体での平均は40mV/桁を実現しうる、高いポテンシャルを持つことが明らかとなりました(図3)。

本研究では、高濃度に不純物を添加したSiもしくはGe上に、レーザーアブレーションによりZnOを堆積することで、実際にトランジスターを作製しました(図4)。その結果、既存の半導体作製プロセスにZnO堆積のみを追加することで、所望の構造を実現可能であることを実証しました(図5)。オン状態とオフ状態の電流比は8桁を上回り、これまでのトンネルFETと比べて約4倍となり、最大の値です(図6)。今後は、より詳細な材料選択とプロセスの最適化により、さらなるON電流の増大とS係数の低減を目指します。

<今後の展開>

論理演算回路の低消費電力化は、急速に発展するIoTの実現を左右する、世界的な課題です。トンネルFETの実用化による電子機器の消費電力削減は、半導体集積回路に与える影響は極めて大きく、インパクトのある成果です。特に、今回の提案は、Si系IV族半導体と酸化物半導体の組み合わせによって達成されるものです。Si系IV族半導体と酸化物半導体は、各分野ではすでに高い水準で技術構築が成されているため、従来の半導体素子作製工程との整合性が非常に高く、実用化への障壁は低いと言えます。

今回提案するトンネルFET構造は、量子トンネル効果が材料接合界面全域にわたり生じることを利用しています。このことにより、量子トンネル効果を活用した低消費電力化を達成すると同時に、素子寸法注8)に比例した大きなON電流を実現することが可能です。従来のMOS型半導体は、素子寸法の微細化によって高性能化が達成されてきましたが、現在、微細化では十分な低消費電力化が実現できないため、物理的な限界が訪れています。したがって、本研究で提案する新材料と新構造を組み合わせたトンネルFETにより、微細化技術に頼らない高性能かつ低消費電力な半導体素子実現への道が拓かれ、今後の半導体素子の継続的な発展において重要な役割を果たすことが期待されます。

また、酸化物半導体材料は、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム-ガリウム-亜鉛(IGZO)など多岐にわたります。今回の動作実証により、新規の材料の組み合わせの有効性が示されたことにより、新たな学術分野の創生にもつながる高い可能性を秘めています。酸化物半導体材料、半導体プロセス、分析・評価など、さまざまな専門家の知見の融合により、電気伝導機構の定量的な理解を通じ、材料の組み合わせや素子構造の最適化が急速に進むことが期待されます。

図1

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