光電子運動量顕微鏡:マイクロメートルの機能性材料の電子状態を空間・運動量分解能

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50 nm・0.01 Å-1で可視化

2020-05-19 分子科学研究所

概要

光電子分光は、X線を試料表面に照射し飛び出す光電子を計測し、試料の組成や電子物性を解明する分析法です。今回、UVSOR(1)に最新の光電子分光測定装置Momentum Microscopeを導入しました。不均一試料の微小部分を拡大して観察できる顕微(microscope)機能と試料の物性を決定づける電子のふるまい(運動量momentum)を可視化する機能を1つの装置で同時に実現します。本装置は主要な軽元素・遷移元素の内殻準位を励起できる高輝度放射光源に設置され、位置分解能50 nm 、運動量分解能0.01 Å-1 、エネルギー分解能20 meV を達成、試料を9 Kまで冷却でき、制限視野2 μmからの価電子帯分散(2)やフェルミ面を測定することができます。本装置で初めて可能になる運動量分解顕微光電子分光法は、表面・薄膜・配向分子・化合物結晶試料の原子レベルでの電子状態解析を通じ、ナノ材料科学・量子デバイス工学を展開するうえで重要な手法となります。本成果は5月8日にJapanese Journal of Applied Physics誌でオンライン公開されました。

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研究の背景

新規物性の現象の解明や機能性材料・デバイス開発を展開するうえで、ますます原子レベルからの計測に基づいた理解が重要になってきます。興味深い物質や有用なデバイスはマイクロメートルの多結晶組織や微細構造であることが往々にしてあり、従来の平均構造を測る分析法ではなく、顕微機能を併せ持った高性能電子状態計測装置が待ち望まれていました。本装置は顕微鏡で微小領域を拡大し、その重要な部分の物性をつかさどる電子の挙動をつぶさに解明する分析器で、UVSOR高輝度放射光施設(1)からの最適なエネルギーの光を用い、試料温度を自在に制御するなど様々な工夫が詰まったシステムです。超伝導や触媒活性が発現する箇所・条件を直接観察するなど、従来にない視点からの物性・機能解析を目指します。

研究の成果

この装置では表面・薄膜・配向分子・化合物結晶試料の元素種を分別した顕微像を得ることができます。特に選択した微小領域からの価電子帯分散(2)や組成分析の光電子分光測定が同時に行えるので、組成・構造・電子状態がどのように物性・機能に結びついていくか研究することができます。
位置分解能50 nm 、運動量分解能0.01 Å-1 、エネルギー分解能20 meV を達成、試料を9 Kまで冷却でき、制限視野2 μmからの価電子帯分散やフェルミ面を測定することができます。実空間・運動量空間の両方で拡大して計測できる光電子顕微鏡では放射光施設に導入された例として、世界最高性能を達成しています。試料温度を9 K (-264ºC)から400 K (127ºC)まで自在に変えられる点は本装置の大きな特徴で、物質の状態変化をその場観察できるようになります。

今後の展開・この研究の社会的意義

これまで結晶試料の価電子帯分散を計測する高分解能電子分析器や微細構造を観察する光電子顕微鏡が開発されてきましたが、これらを組み合わせて放射光施設にて活用する装置としては国内外でも先駆けとなるものです。基礎科学・応用研究への波及効果だけではなく、この新しく開拓された分析器・分析法が測定技術の革新の先端事例となることも目指しています。

用語解説

(1) 分子科学研究所UVSOR高輝度放射光施設
極端紫外光領域を中心としたエネルギー領域では世界的に最高水準の高性能を持つ放射光光源で、国内外の研究者に広く共同利用されている研究施設。極端紫外光は分子や固体の物性をつかさどる電子の挙動を観察するために最適なエネルギーとなっている。1周約50 mの電子蓄積リングから放射されるシンクロトロン光(放射光)は10数台の実験装置に導かれ、物理化学分野にとどまらず、バイオ分野や環境・エネルギー分野など、様々な研究が展開されている。1983年より稼働し、現役の放射光施設としては国内で2番目の古参光源であるが、2度の高度化を経て現在もトップの性能を維持している。

(2) 価電子帯分散
原子同士を結び付け、電子物性や化学反応性に中心的な役割を果たすのが価電子とよばれる電子で、そのふるまいはエネルギーと運動量の関係「価電子帯分散」に反映されている。光を試料に照射すると価電子はそのエネルギーを得て「光電子」として試料から飛び出すが、電子分析器による光電子の計測を通じて価電子帯分散を解析することができる。価電子帯分散が分かれば、超伝導・磁性・化学特性などの起源について原子レベルで理解できるようになる。

論文情報

掲載誌:Japanese Journal of Applied Physics
論文タイトル:“Photoelectron Momentum Microscope at BL6U of UVSOR-III Synchrotron”(「UVSOR-IIIシンクロトロン施設BL6Uの光電子運動量顕微鏡」)
著者:Fumihiko Matsui, Seiji Makita, Hiroyuki Matsuda, Takayuki Yano, Eiken Nakamura, Kiyohisa Tanaka, Shigemasa Suga, Satoshi Kera
掲載予定日:2020年5月19日(5月8日受理)
DOI:https://doi.org/10.35848/1347-4065/ab9184

研究グループ

分子科学研究所 極端紫外光研究施設

研究サポート

文部科学省科学研究費補助金(19KK0137, 18H03904, 17H02911)

研究に関するお問い合わせ

松井文彦(まついふみひこ)
分子科学研究所 主任研究員

解良聡(けらさとし)
分子科学研究所 教授
極端紫外光研究施設・施設長

報道担当

自然科学研究機構 分子科学研究所
研究力強化戦略室 広報担当

2004放射線利用
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