3次元放射光ナノイメージングとデータ科学の融合~酸素吸蔵・放出材料における酸化反応の軌跡可視化

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2019-04-26 理化学研究所,大阪大学,名古屋大学,北陸先端科学技術大学院大学,東北大学

理化学研究所(理研)放射光科学研究センター可視化物質科学研究グループ構造可視化研究チームの高橋幸生チームリーダー、広瀬真研修生、同グループ元素可視化研究チームの唯美津木チームリーダー、石黒志特別研究員(以上研究当時)、北陸先端科学技術大学院大学ダム・ヒョウ・チ准教授、グェン・ズオン-グェン大学院生らの共同研究グループ※は、硬X線タイコグラフィ[1]とコンピュータトモグラフィ(CT)[2]を組み合わせ、材料試料の3次元空間分解X線吸収微細構造(XAFS)[3]を取得する「3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3D-HXSP)法」を開発し、データ科学と連携した解析により、酸素吸蔵・放出材料[4]粒子内で起きる酸化反応の軌跡の可視化に成功しました。

本研究成果は今後、さまざまな先端機能性材料のナノ構造・化学状態分析に応用されるものと期待できます。

今回、共同研究グループは、2次元空間での試料の高空間分解能化学状態可視化技術である「タイコグラフィ-XAFS法」に、CTの手法を組み込んで3次元空間情報へと拡張した「3D-HXSP法」を新たに開発しました。大型放射光施設「SPring-8」[5]で測定を行ったところ、タイコグラフィの高空間分解能を維持したまま、セリウムを含む試料粒子の3次元空間分解XAFSスペクトルの取得と価数分布の3次元空間可視化に成功しました。さらに、この3次元価数情報を教師なし学習[6]と呼ばれるデータマイニング[6]と連携させることで、試料粒子内部での酸化反応を軌跡として可視化することにも成功しました。

本研究は、英国の科学雑誌『Communications Chemistry』のオンライン版(4月26日付け:日本時間4月26日)に掲載されます。

3D-HXSP計測とデータマイニングによる酸素吸蔵・放出材料粒子内の酸化反応軌跡の可視化の図

図 3D-HXSP計測とデータマイニングによる酸素吸蔵・放出材料粒子内の酸化反応軌跡の可視化

※共同研究グループ

理化学研究所 放射光科学研究センター
利用技術開拓研究部門 可視化物質科学研究グループ 構造可視化研究チーム
研修生(研究当時) 広瀬 真(ひろせ まこと)
(現大阪大学大学院 工学研究科 博士後期課程、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム 研修生)
研修生(研究当時) 下村 啓(しもむら けい)
(当時大阪大学大学院 工学研究科 博士後期課程)
チームリーダー(研究当時) 高橋 幸生(たかはし ゆきお)
(当時大阪大学大学院 工学研究科 准教授、現東北大学 多元物質科学研究所 教授、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム チームリーダー、現大阪大学大学院 工学研究科 招へい教授)
利用技術開拓研究部門 可視化物質科学研究グループ 元素可視化研究チーム
特別研究員(研究当時) 石黒 志(いしぐろ のぞむ)
(現東北大学 多元物質科学研究所 助教、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム 客員研究員)
客員研究員(研究当時) 松井 公佑(まつい ひろすけ)
(名古屋大学大学院 理学研究科物質理学専攻(化学系) 助教)
チームリーダー(研究当時) 唯 美津木(ただ みづき)
(名古屋大学大学院 理学研究科 教授)

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科
知識マネジメント領域 准教授 ダム・ヒョウ・チ(DAM,HieuChi)
(兼JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究者)
博士後期課程学生 グェン・ズオン-グェン(NGUYEN,Duong-Nguyen)

※研究支援

本研究は、理研放射光科学研究センター主催の放射光連携研究「可視化物質科学」(H26-H30)の一環として行われ、科学技術振興機構(JST)先端計測分析技術・機器開発プログラム「暗視野X線タイコグラフィ法の開発」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金および特別研究員奨励費などの支援を受けて行われました。

背景

X線の可干渉性(コヒーレンス)[7]を利用したイメージング技術である「X線タイコグラフィ」は、非常に高い空間分解能と感度を実現できるX線顕微法であり、放射光施設を中心に利用法の研究が進められています。X線タイコグラフィは、レンズを用いて試料像を結像する従来のX線顕微法とは異なり、試料の回折強度パターンに「位相回復計算」を実行して試料像を再構成します。そのため、これまでレンズ性能によって制限されてきたX線顕微法の空間分解能を飛躍的に向上させることができます。

一方、「X線吸収微細構造(XAFS)法」は、X線吸収原子の局所的な電子状態(価数、対称性)と局所構造を得る手法であり、放射光で最もよく用いられる分析法の一つです。共同研究グループは、2018年に「タイコグラフィ-XAFS法」の開発を行い、50ナノメートル(nm、1nmは10億分の1メートル)以下の空間分解能で、不均一な試料中の微小領域の電子状態を調べることが可能になりました注1)。しかし、得られる試料画像はX線の光軸方向に平均化された2次元データにとどまっていました。

また、近年、複雑化する材料の構造・機能情報を明らかにする必要性から、放射光計測は飛躍的に高分解能化、高次元化されてきており、量的に人間が直接扱える限界に達しつつあります。この課題を解決するためには、データ科学との連携による高効率な化学情報の解析法の確立が求められています。

注1)2018年1月12日プレスリリース「タイコグラフィ-X線吸収微細構造法の開発

研究手法と成果

共同研究グループがこれまでに開発を進めてきたタイコグラフィ-XAFS法では、試料によるX線の位相シフト量を反映した「位相像」に加えて、X線の吸収量を反映した「振幅像」を取得することで、ナノXAFSスペクトルを2次元計測できます。今回、このタイコグラフィ-XAFS法を3次元計測法へ拡張するため、コンピュータトモグラフィ(CT)法を組み合わせた「3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3-Dimensional Hard X-ray Spectro-Ptychography;3D-HXSP)法」を新たに開発しました(図1)。

実験では試料として、セリウム-ジルコニウム酸化物固溶体(Ce2Zr2Ox:以下CZ-Xと略)に触媒活性種となる白金ナノ粒子を担持させた触媒粒子(Pt/Ce2Zr2Ox:以下Pt/CZ-Xと略)を用いました。Pt/CZ-Xは、X=7-8の範囲で組成を変化させながら、粒子内部に酸素原子を高効率に吸蔵・放出する能力を持っています。この優れた特性からPt/CZ-X粒子は、自動車排ガス浄化三元触媒システムにおいて、系中の酸素濃度を制御しながら、酸化反応(炭化水素CHxと一酸化炭素COを二酸化炭素CO2に変換)と還元反応(窒素酸化物NOxを窒素N2に変換)を同時に進行させるために用いられています。今回は、意図的にPt/CZ-7からの酸化反応を中途状態で停止させたPt/CZ-X粒子を用意しました。

3D-HXSP法によるPt/CZ-X粒子の観察は、大型放射光施設「SPring-8」の理研ビームラインBL29XULで行いました。セリウム元素のL3吸収端を含む29の入射X線エネルギーについて、試料を2.5°ずつ150°まで回転させながら400nmの走査間隔で2次元走査した結果、合計11万枚を超える回折強度パターンを収集しました。これら全てに対して、独自に開発した位相回復計算を実行することで、回転角度およびエネルギーごとの2次元位相像と振幅像を再構成しました。

次に、エネルギーごとにCT再構成計算を行って3次元試料像を取得しました(図2a)。そして、3次元振幅像のエネルギー依存性から、ナノスケールの3次元空間分解XAFSスペクトルを抽出しました(図2b)。XAFSスペクトルは、3次元試料像のボクセル(3次元空間での正規格子単位)サイズが14nmであることから14×14×14nm3の領域ごとに得られ、全部で27,662,400個計測されました。これら一つ一つのXAFSスペクトルを解析することで、Pt/CZ-X粒子内の3次元セリウム価数分布(酸素吸蔵状態)像を取得できました(図2c)。粒子表面から内部に向かうにつれて、セリウム価数が4価から3価に変化する(Ce4+→Ce3+)ことが分かります。つまり、粒子表面から酸素吸蔵反応(セリウムの酸化反応)が進行している様子が可視化されました。

さらに、この3次元可視化されたセリウム価数分布のビッグデータから反応の鍵となる因子を抽出するために、「教師なし学習」と呼ばれるデータマイニングの解析手法を取り入れました。3次元空間内の任意の点(x,y,z)の周辺3×3×3ボクセル(42×42×42nm3)からなるドメイン(領域)内のセリウム価数の局所平均とその標準偏差(セリウム価数分布の局所的な勾配に相当)の間に潜む相関性を、452×450×136個の各ボクセルドメインをデータサンプルとして、教師なし学習により調べたところ、統計的にG1~G4の四つの相関グループに分けることができました(図3a)。それぞれセリウムの酸化反応において、G1はPt/CZ-7→Pt/CZ-7.5への反応第1段フェーズ、G2は中間相Pt/CZ-7.5付近での第2段フェーズ、G3はPt/CZ-7.5→Pt/CZ-8への第3段フェーズ、G4はPt/CZ-8での反応終了フェーズを表しています。そして、各グループに属するドメインを3次元空間に再描写したところ、G1~G4がG1→G2→G3→G4の順で、粒子の表面から内部へ伝播・進行していく様子が捉えられていました(図3b,c)。

今後の期待

本研究では、酸素吸蔵・放出材料の酸素吸蔵状態をナノスケール3次元観察すること、さらにデータマイニングとの連携により、反応過程の軌跡を可視化することに初めて成功しました。今後、3D-HXSP法は、さまざまな先端機能性材料のナノ構造・化学状態分析へ応用されると期待できます。

また、現状では一つの試料の3次元空間分解XAFSスペクトルの取得に1週間の測定時間を要しており、空間分解能も数十nmですが、次世代放射光施設では、数時間の測定時間で、数nmの空間分解能の3次元スペクトル計測の実現が期待されます。このような計測の高速化、高分解能化、高次元化が進むにつれて、情報量が爆発的に増加し、ますます測定データの解釈が難しくなることが予想されます。そこで、高次元計測とデータ科学の融合より、効率的に先端機能性材料の機能の根源が理解され、設計・開発が促進されるものと期待できます。

原論文情報

Makoto Hirose, Nozomu Ishiguro, Kei Shimomura, Duong-Nguyen Nguyen, Hirosuke Matsui, Hieu Chi Dam, Mizuki Tada and Yukio Takahashi, “Oxygen-diffusion-driven Oxidation Behavior and Tracking Areas Visualized by X-ray Spectro-ptychography with Unsupervised Learning”, Communications Chemistry, 10.1038/s42004-019-0147-y

発表者

理化学研究所 
放射光科学研究センター 可視化物質科学研究グループ 構造可視化研究チーム 
研修生(研究当時) 広瀬真(ひろせ まこと)
(現大阪大学大学院 工学研究科 博士後期課程、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム 研修生) 
チームリーダー(研究当時) 高橋幸生(たかはし ゆきお)
(当時大阪大学大学院 工学研究科 准教授、現東北大学 多元物質科学研究所 教授、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム チームリーダー、現大阪大学大学院 工学研究科 招へい教授) 

放射光科学研究センター 可視化物質科学研究グループ 元素可視化研究チーム 
特別研究員(研究当時) 石黒 志(いしぐろ のぞむ)
(現東北大学 多元物質科学研究所 助教、現理研RSC-リガク連携センター イメージングシステム開発チーム 客員研究員) 
チームリーダー(研究当時) 唯 美津木(ただ みづき)
(名古屋大学大学院 理学研究科 教授) 

北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科
知識マネジメント領域 准教授 ダム・ヒョウ・チ(DAM, Hieu Chi)
(兼JST戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究者)
博士後期課程学生 グェン・ズオン-グェン(NGUYEN, Duong-Nguyen)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当

大阪大学 工学研究科 総務課評価・広報係

名古屋大学 総務部 総務課 広報室

北陸先端科学技術大学院大学 大学戦略・広報室

東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室

補足説明

  1. X線タイコグラフィ
    コヒーレントX線回折イメージング手法の一つ。X線照射領域が重なるように試料を二次元的に走査し、各走査点からのコヒーレント回折パターンを測定する。そして、回折パターンに位相回復計算を実行し、試料像を再構成する手法。
  2. コンピュータトモグラフィ(CT)
    可視光、X線、電子線などが、対象を透過して出来る2次元の投影像をいろいろな方向から集め、その組から3次元構造を再構成する手法。対象の内部の構造が可視化できる。人体の断層写真の撮影など医療分野での利用も多い。CTは、Computed Tomographyの略。
  3. X線吸収微細構造(XAFS)
    X線吸収スペクトルの吸収端付近に見られる固有の構造。XAFSの解析によって、X線吸収原子の電子状態やその周辺構造などの情報を得ることができる。XAFSは、X-ray Absorption Fine Structureの略。
  4. 酸素吸蔵・放出材料
    条件によって酸素を吸蔵・放出する材料。自動車排ガス浄化などでは、系中の酸素量の制御が必須であり、用いられる。
  5. 大型放射光施設「SPring-8」
    兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す施設で、その利用者支援は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。
  6. 教師なし学習、データマイニング
    データマイニングは、大量のデータから統計処理・パターン認識などを網羅的に駆使して知識を抽出する技術を指す。教師なし学習は機械学習・データマイニング手法のなかの一つの技法である。「教師あり学習」は、入力xと出力結果yが既知な多数の訓練データ{(xi,yi)}から関数関係y=f(x)を「学習」し、その関数を未知データxuに適用して結果yuを求める解析手法である。一方、教師なし学習は出力結果yが未知のまま、多数のデータ群{xi}から、その背後に存在する本質的な相関性を抽出する解析手法であり、未知の事象の存在を予測するのに力を発揮する。
  7. 可干渉性(コヒーレンス)
    波と波が重なり合うとき、打ち消し合ったり、強め合ったりする性質。

3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3D-HXSP)法の概念図の画像

図1 3次元硬X線スペクトロタイコグラフィ(3D-HXSP)法の概念図

セリウムL3吸収端近傍のエネルギーの放射光X線を、全反射集光鏡によって500nmのスポットに集光する。集光点に配置された試料を、回転させながら2次元走査(ラスタースキャン)し、投影角度・走査点ごとに試料のX線回折強度パターンを2次元X線検出器で計測する。この回折強度パターンに「位相回復計算」を実行することで、各投影角度・入射X線エネルギーで「位相像」と「振幅像」を再構成する。各投影角度での「振幅像」をCT再構成計算により3次元再構成する。そして、3次元再構成された「振幅像」のエネルギー依存性から3次元空間分解された「X線吸収微細構造(XAFS)スペクトル」を導出する。

3D-HXSP法を用いたPt/CZ-X粒子の実験結果の図

図2 3D-HXSP法を用いたPt/CZ-X粒子の実験結果

(a) Pt/CZ-X粒子の位相像の3次元CT再構成像。6個の独立したPt/CZ-X粒子が存在していることが分かる。スケールバーは700nmを表す。
(b) 3次元空間分解XAFSスペクトルとその線形結合フィッティング解析結果。線形結合フィッティングにより、Ce3+とCe4+の比率が分かり、局所的なセリウム価数が算出される。(i)-(iii)の空間分解XAFSスペクトルは、cの位置(i)-(iii)に対応する。
(c) セリウム価数の3次元空間分布。粒子表面から内部に向かうにつれて、セリウム価数が4価から3価に変化していることが分かる。つまり、粒子表面から酸素吸蔵反応(セリウムの酸化反応)が進行している。

教師なし学習によるPt/CZ-X粒子の酸化反応傾向解析の結果の図

図3 教師なし学習によるPt/CZ-X粒子の酸化反応傾向解析の結果

(a) セリウム価数の3次元空間分布イメージ上の3×3×3ボクセル(42×42×42nm3)からなるドメイン(領域)内から算出したセリウム価数の局所平均とその標準偏差との間の相関散布図、および教師なし学習による相関グループの抽出。散布図の各点が3次元空間分布上の点(x,y,z)に対応する。教師なし学習によって統計的に妥当な四つの相関グループG1~G4に分けられ、そのうち支配的な領域をG1(赤)、G2(橙)、G3(緑)、G4(青)で示している。
(b) aで分けられた相関グループG1~G4に属する散布図上の点を、3次元空間上に再描画したもの。スケールバーは700nmを表す。
(c)粒子表面から深さに対する、相関グループG1~G4に属する点の存在割合プロファイル。bとともに、相関グループがG1→G2→G3→G4の順で、表面から粒子内部へ段階的に伝播・進行している様子が可視化されている。