国際協力で開発した光核反応データライブラリーの完成に貢献
2020-01-30 甲南大学,兵庫県立大学,日本原子力研究開発機構
【本研究成果のポイント】
- 原子核反応の基本的かつ重要な性質を表す「光核反応データ1)」には、アメリカとフランスで過去に測定されたデータ間に大きな矛盾があり、30年ものあいだ議論が続いていた。この問題を解決するために、国際原子力機関は光核反応データライブラリー2)の開発プロジェクトを2016年にスタートさせた。
- 本プロジェクトにおいて、甲南大学は兵庫県立大学とともにニュースバル放射光施設3)の世界最高性能のガンマ線ビームと新開発の平坦効率中性子検出器4)を用いた実験によって、光核反応データを取得し、この問題を解決に導いた。日本原子力研究開発機構は、得られた測定データなどを基に核反応理論モデル計算を実施し、光核反応データを整備した。測定・整備したデータを国際原子力機関に提供することで、光核反応データライブラリーの完成に大きく貢献した。
- 光核反応データの歴史的な不一致が解消されたことで、宇宙・原子核物理学の研究に大きく貢献するとともに、ガンマ線照射施設などの放射線遮へいに対する設計裕度の低減や放射線治療における人体へのガンマ線照射の最適化が可能になるなど実用的価値は今後ますます高まると期待される。
【発表の概要】
甲南大学理工学部物理学科の宇都宮弘章教授は、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所の宮本修治特任教授とともに、ニュースバル放射光施設において世界最高性能のレーザーコンプトンガンマ線5)ビームと新開発の平坦効率中性子検出器を用いて光核反応データを取得することにより、30年続いたアメリカとフランスの測定データ間の矛盾を解決しました。国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という)原子力基礎工学研究センターの岩本信之研究主幹は、本測定データなどを基に核反応理論モデル計算を行い、光核反応データを整備しました。測定・整備したデータを国際原子力機関(International Atomic Energy Agency、以下「IAEA」という)に提供することで、IAEAが主導して開発した光核反応のデータベース「IAEA光核反応データライブラリー2019」の完成に大きく貢献しました。
光核反応データは、原子核反応の基本的な性質を表す重要なデータで、原子核6)の構造や反応(原子核物理学)、元素の起源(宇宙核物理学)のような基礎研究だけでなく、電子線形加速器施設や医療放射線施設などの放射線遮へいの計算などにも使われます。しかし、光核反応データの測定を主導的に実施してきたアメリカのローレンスリバモア国立研究所とフランスのCEAサクレー研究所で得られた測定データ間には大きな矛盾があり、どちらが正しいのか30年ものあいだ議論が続いていました。そこで、IAEAでは、この問題を解決するために、光核反応データライブラリーの開発プロジェクトを5年計画として2016年にスタートさせました。
本プロジェクトへの招へいを受けた甲南大学はアメリカとフランスの測定データ間にあった矛盾の主因が、照射するガンマ線ビームと中性子検出器にあったことを見出し、これらを改善した光核反応実験を行うため、兵庫県立大学とともにPHOENIX(フェニックス)国際共同研究を立ち上げました。実験には、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営するニュースバル放射光施設の世界最高性能のガンマ線ビームを用い、さらに光核反応で放出される中性子の多重度7)を決定するための革新的な手法を考案しました。この手法を基に開発した平坦効率中性子検出器を使って光核反応データを取得することにより、この問題を解決に導きました。同じく招へいを受けた原子力機構では得られた測定データなどを基に核反応理論モデル計算を実施し、光核反応データを整備しました。測定・整備したデータをIAEAへ提供することで、実験・理論の両面から「IAEA光核反応データライブラリー2019」の完成に大きく貢献しました。
今回、光核反応データの歴史的な不一致が解消されたことで、宇宙・原子核物理学などの科学的研究や工学、放射線医学などの実用的な面にも大きく貢献することが期待されます。特に放射線医学の分野では、精度の高い光核反応データにより、ガンマ線照射施設などの放射線遮へいに対する設計裕度の低減や放射線治療における人体へのガンマ線照射の最適化が可能になることが期待されます。
この研究成果は、「Nuclear Data Sheets誌, Special Issue on Nuclear Reaction Data」2020年1月号に掲載されます(電子版は2020年1月27日に公開されました)。光核反応のデータベース「IAEA光核反応データライブラリー2019」はIAEA核データサービスのWebサイトより公開予定です。
【研究の背景】
光核反応は、高エネルギーのガンマ線を原子核に照射したときに起こる現象(図1)であり、光核反応データは、原子核構造や反応(原子核物理学)、元素の起源(宇宙核物理学)のような基礎研究のみならず、電子線形加速器施設や医療放射線施設の放射線遮へい計算などにも使われる基盤データの一つである。
光核反応データの整備のために、1950年代から高エネルギーのガンマ線を照射し、原子核の巨大共鳴8)を励起する実験が始まった。この研究を主導してきたのが、アメリカ・ローレンスリバモア国立研究所(以下「リバモア」という)とフランス・CEAサクレー研究所(以下「サクレー」という)であった。リバモアは83核種、サクレーは81核種のデータをそれぞれ取得し、そのうち42核種が共通に測定された。1988年にリバモアがまとめた最初の光核反応データベースにおいて、両研究所で共通に測定された42核種の光核反応データすべてに不一致が存在することが明らかとなった。その後、IAEAが1999年に出版した光核反応データライブラリーでは、核反応理論モデル計算によって不一致の分析がなされたが、原因の究明には至らなかった。これ以降も不一致を理論的に解消するための研究は続けられたが、42核種のうち特に19核種で不一致は極めて深刻であり、その解決は焦眉の研究課題となった。また、両研究所のデータ間に最大60%もの差異が存在することは、実用面において遮へい材の厚さをより厚くしたり、放射化量を大きく見積もったりすることが必要になるなど、大きなデメリットになっていた。そこで、この問題解決のために、IAEAは2016年に新しい光核反応データライブラリーの開発に向けてプロジェクトをスタートさせた。
図1 ガンマ線と原子核との1回の光核反応に対するイメージ図(青:中性子、黄:陽子)
【研究の内容・成果】
本プロジェクトへの招へいを受けた甲南大学理工学部物理学科の宇都宮弘章教授はアメリカとフランスの測定データ間にあった矛盾の主因が、照射するガンマ線ビームと中性子検出器にあったことを見出し、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所の宮本修治特任教授とともに、光核反応実験によって本プロジェクトを進めるためPHOENIX(フェニックス)国際共同研究を立ち上げた。本国際共同研究には、オスロ大学(ノルウェー)、ブリュッセル自由大学(ベルギー)、IFIN-HH研究所(ルーマニア)、モスクワ大学(ロシア)、上海応用物理学研究所(中国)が参加し、兵庫県にある大型放射光施設SPring-8に併設されたニュースバル放射光施設(図2)において光核反応データを取得した。
図2 兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営するニュースバル放射光施設
この問題を解決させた革新的技術が二つある。一つはニュースバル放射光施設で生成される世界最高性能のレーザーコンプトンガンマ線ビームである。レーザー光子を光の速さに匹敵するエネルギーを持った電子ビームに衝突させることで、レーザー光子ビームはエネルギーが1000万倍以上に増強されたガンマ線ビームに変換される(図3)。このガンマ線は、ガンマ線のエネルギー、エネルギー分布およびフラックス強度9)を高精度で決定できる点で世界最高性能を有している。ガンマ線ビームの生成には、甲南大学の2つのレーザー装置(波長1064nmの「INAZUMA(イナズマ)」レーザーと波長532nmの「Talon(タロン)」レーザー)が使われている(図4)。Talonレーザーが45MeVまでの高エネルギーガンマ線ビームの生成に威力を発揮し、中性子多重度測定の成功に貢献している。
図3 レーザー光子と電子の衝突によるガンマ線ビームの生成
図4 レーザー装置(INAZUMA(奥側)とTalon(手前側)レーザー)
レーザーコンプトンガンマ線ビームは、バックグランドガンマ線の影響を受けない最もクリーンなガンマ線である。かつてリバモアとサクレーで実験に用いられたガンマ線は高エネルギー陽電子を電子と対消滅させて生成したものであったため、陽電子による制動放射バックグランドガンマ線が残留していた(図5)。ニュースバル放射光施設で利用できるレーザーコンプトンガンマ線ビームは、この点で大きな優位性を有している。
図5 照射したガンマ線ビームのエネルギー分布の比較。黒線が陽電子によるガンマ線、赤線がレーザーコンプトンガンマ線を表す。
二つ目は、甲南大学による中性子多重度を決定するための革新的な実験的方法論の考案と、方法論を実現するための平坦効率中性子検出器の開発である。1回の光核反応で複数の中性子が放出される場合に、それぞれの中性子が持つエネルギーは異なるため、検出器の中性子検出効率がエネルギーに依存しないことが望まれる。しかし、検出効率は通常、中性子のエネルギーに強く依存する。この課題を解決するために、本検出器の開発では中性子減速材と中性子検出器(ヘリウム3(3He)比例計数管)を組み合わせて用い、比例計数管を三重リング状に並べるなど配置を工夫した(図6)。さらに配置するリングの半径と計数管の本数をシミュレーションで最適化することで、0~7MeVの中性子エネルギーに対して依存性の小さい検出効率を実現した。これにより、例えば、リバモアの中性子検出効率の変化は0~5MeVの中性子エネルギー範囲において33%であったが、新開発の検出器では13%となり、中性子のエネルギー依存性を大幅に低減することに成功した。
測定した30核種の試料のうち11核種は天然存在比が99.9%以上の同位体である。この11核種のうち5核種にリバモアとサクレーで深刻な不一致があった。大きな存在比をもつ核種は高純度の測定試料が準備できるため、精度の高い測定が可能であると期待される。PHOENIX国際共同研究では、光核反応データライブラリーの開発のために、これらの11核種に対し中性子多重度測定を、また、他の19核種に対しては中性子多重度1の反応断面積測定を、ニュースバル放射光施設のガンマ線ビームラインに設置された甲南大学のガンマ線照射室GACKO(月光)で行った(図7)。解析された30核種の測定データはIAEAへ提供され、光核反応データライブラリーの開発において重要な基礎データとなった。
図6 平坦効率中性子検出器。高密度ポリエチレン中性子減速材中に10気圧の3He比例計数管31本を三重リング状に(半径5.5cmのリングに4本、13.0cmのリングに9本、16.0cmのリングに18本)配置してある。
図7 ガンマ線照射室GACKO(月光)
リバモアとサクレーのデータの矛盾を解決した典型例として、テルビウム159(159Tb)の光核反応データを紹介する。図8の青点がサクレーのデータ、赤点がリバモアのデータである。中性子を1個放出する多重度1の光核反応に対してはサクレーがリバモアより大きな反応断面積を与え、中性子を2個放出する多重度2の光核反応では、逆にリバモアがサクレーより大きな反応断面積を与えている。この傾向は他の核種にも見られる一般的な傾向である。黒点が本プロジェクトで得たデータである。多重度1の反応断面積はサクレーのデータに近くリバモアのデータは小さすぎる。一方、多重度2の反応断面積はリバモアに近くサクレーのデータは小さすぎる。今回初めて広いエネルギー範囲で測定された多重度3の反応断面積は、低エネルギー領域で測定されたサクレーのデータと一致している。
本プロジェクトで得た光核反応データとリバモア、サクレーのデータを分析した結果、この傾向は他の核種に対しても成り立つことが判明した。すなわち、リバモアとサクレーのデータは部分的には正しいが全般的には正しくないと結論づけることができた。
図8 159Tbの光核反応データ(ガンマ線エネルギーに対する中性子多重度1(a)、2(b),3(c)の反応断面積)。黒点:ニュースバル放射光施設で得られた測定データ、青点:サクレーの測定データ、赤点:リバモアの測定データ
本プロジェクトへの招へいを受けた原子力機構の岩本信之研究主幹は、光核反応データライブラリー開発のために核反応理論モデルに基づいた光核反応データの整備を担当した。
上述の多様な応用分野での利用には、幅広いガンマ線エネルギー領域を網羅した光核反応データが必須となる。これを実験だけで行うのは難しいため、理論モデルによって補間することが極めて重要となる。原子力機構では、本ライブラリーの開発にあたって核反応理論モデルや核構造データなどに関する最新の知見を投入した。特に原子核のガンマ線吸収や放出のしやすさを表すガンマ線強度関数という物理量がカギとなる。ガンマ線強度関数を表現する形状はいくつか提案されているが、どの形状が原子核のガンマ線吸収量を説明するのに適切であるかは不明であった。そこで、様々な核種やガンマ線エネルギーの測定データを解析することにより、最適な形状を見つけ出すことで精度の高い光核反応データを計算可能にした。これにより、測定が全く行われていない光核反応やエネルギー領域に対しても、信頼性を高めた予測値を与えることが可能になった。
本プロジェクトで得た測定データおよび既存データを基に140核種について核反応理論モデルを用いた評価計算を実施した。測定データを精度よく再現するとともに、中性子などの粒子放出が起こるエネルギー範囲については実用上十分なエネルギーをカバーするようガンマ線エネルギーとして1MeVから200MeVまで拡張した光核反応データを作成した。特に電子線形加速器により発生するガンマ線と標的試料や構造材(鉄、ニッケル、銅など)を構成する核種との光核反応で問題となる中性子が放出される巨大共鳴領域について、測定データを精度良く再現しており実用性が向上している。
図9に、ランタン139(139La)に対して今回得られた測定データ(黒点)と評価した光核反応データ(中性子多重度に対する反応断面積、赤線)を示す。理論モデル計算により、本プロジェクトで得られたデータと非常によく整合する結果が得られている。一方、青・緑点はサクレーで測定されたデータである。159Tbの場合と同様に中性子多重度1の反応断面積では、本プロジェクトの測定データは15MeVあたりで光核反応による中性子の放出量が多く、サクレーのデータは中性子の未検出量が多くなっていたことが分かる。また多重度2の反応断面積からは多重度1と2を弁別する精度が低かったことが分かる。
図9 139Laの光核反応データ(ガンマ線エネルギーに対する中性子多重度1(a)、2(b),3(c),4(d)の反応断面積)。赤線:IAEA光核反応データライブラリー2019(原子力機構整備)、黒点:ニュースバル放射光施設で得られた測定データ、青・緑点:サクレーの測定データ
本プロジェクトで開発した「IAEA光核反応データライブラリー2019」には重水素(2H)からプルトニウム241(241Pu)までの219核種の光核反応データが収録されているが、今回の新たなデータ140核種に加え、従来の評価データ7核種も提供しており、全体の7割近く(67%)が原子力機構からの提供である。
以上の通り、本ライブラリー開発における日本の貢献は多大なものであり、国際的な基盤データベースの整備で不可欠な役割を果たしている。
【今後の展望】
本プロジェクトに貢献したPHOENIX国際共同研究は、ニュースバル放射光施設で実験を継続している。核燃料物質であるウラン238(238U)やプルトニウム239(239Pu)などでは、核分裂反応に伴って中性子が放出される。数MeVのガンマ線エネルギー領域では、巨大共鳴が励起された場合に中性子は通常1個しか放出されないが、核分裂反応が誘起された場合には、中性子が複数個放出される。そのため、核分裂を起こす核種については、多重度を直接測定することで、巨大共鳴と核分裂反応の断面積を分離測定することが可能となり、中性子測定による核分裂反応などの断面積測定研究へ新たな道を拓くものと期待される。このような研究は、リバモアとサクレーで深刻な矛盾のあった19核種のうちトリウム232(232Th)と238Uに対して、上海応用物理学研究所などの参加により行われつつある。また、本プロジェクトでは天然存在比が99.9%以上の同位体の中性子多重度を測定したが、これを濃縮同位体に拡張する実験がダルムシュタット工科大学(ドイツ)などの参加により進められ、同じく19核種に含まれるスズ同位体(112Sn, 116Sn, 120Sn, 124Sn)と鉛208(208Pb)に適用されようとしている。
2020年からニュースバル放射光施設専用の電子線形加速器を建設する予定である。完成後には電子蓄積リングの電流値を一定に保つ運転(トップアップ運転)が1GeV以下の広いエネルギー範囲で可能になる。これにより、光核反応データの測定時間や試料の量を現在と比べて1/3程度に低減できるため、希少な核種にまで測定対象を広げることができるようになる。これらの利点を活かして、今後、ニュースバル放射光施設を軸に、甲南大学が開発し確立した測定技術を用いた光核反応研究が世界に展開していくと期待される。
光核反応データライブラリーは、宇宙・原子核物理学の研究に寄与する科学的価値と、放射線計測・放射線医学・工学・原子力の分野に寄与する実用的価値があり、多元的に活用されている。特に高エネルギーガンマ線と原子核との光核反応データは、実用面では電子線形加速器施設の遮へい設計や放射化量推定、放射線治療における人体への吸収線量評価などを実施するために需要が高まっている。歴史的な不一致が解消された光核反応データにより設計・推定・評価の信頼性が向上することで、設計裕度の低減やガンマ線照射の最適化が可能になるなど実用的価値は今後ますます高まると期待される。
【論文情報】
掲載誌:Nuclear Data Sheets誌, Special Issue on Nuclear Reaction Data vol.163, p.109, January 2020
論文タイトル:IAEA Photonuclear Data Library 2019
著者:T. Kawano, Y.S. Cho, P. Dimitriou, D. Filipescu, N. Iwamoto, V. Plujko, X. Tao, H. Utsunomiya, V. Varlamov, R. Xu, R. Capote, I. Gheorghe, O. Gorbachenko, Y.L. Jin, T. Renstrøm, M. Sin, K. Stopani, Y. Tian, G.M. Tveten, J.M. Wang, T. Belgya, R. Firestone, S. Goriely, J. Kopecky, M. Krtička, R. Schwengner, S. Siem and M. Wiedeking
【ライブラリーのWeb公開情報】
タイトル:IAEA Photonuclear Data Library 2019
【用語解説】
1) 光核反応データ
原子核がガンマ線を吸収したときに起こる種々の反応(光核反応)の起こりやすさ(「断面積」という)をまとめたものである。データには、原子核においてガンマ線の吸収のしやすさを表す光吸収断面積や中性子などの粒子を放出する反応を起こす断面積(中性子の多重度7)1の反応断面積など)、粒子を放出して残る原子核(残留核)の生成断面積や粒子が放出されたときに持つエネルギー分布などの情報がある。光核反応データは原子核ごとに異なるため、原子核ごとに整備する必要がある。
実験では、ある光核反応に対するデータのみを取得できるが、実用的には光核反応で起こるデータが網羅されている必要があるため、測定で得られたデータを基に理論モデルを利用して光核反応データの整備が行われる。
2) 光核反応データライブラリー
原子核ごとに整備した光核反応データをまとめて収録したものを光核反応データライブラリーという。
3) ニュースバル放射光施設
兵庫県が大型放射光施設SPring-8の敷地内に設置し、兵庫県立大学高度産業科学技術研究所が運営している。SPring-8の電子線形加速器で1GeVに加速された電子ビームがニュースバル放射光施設の電子蓄積リングへ供給されている。蓄積リングでは、供給された電子ビームを0.5GeVまで減速、または1.5GeVまで加速することができる。現在、9つのビームラインが運用されており、本プロジェクトの実験は「ガンマ線ビームラインBL01」で行われた。
4) 平坦効率中性子検出器
中性子検出器とは、中性子を検出するための装置のことである。新開発の検出器には、ポリエチレン中性子減速材と3He比例計数管が採用されている。検出器が中性子を検出する割合を検出効率というが、この検出効率は通常、中性子が持つエネルギーごとに異なる。本検出器では、検出効率のエネルギー依存性が可能な限り小さくなるように設計された。
5) レーザーコンプトンガンマ線
光に匹敵する速さ(ニュースバル放射光施設では0.5~1.5GeVのエネルギーに相当)の電子ビームとレーザー光子が衝突することで、レーザー光子ビームはエネルギーが1000万倍以上に増強されたガンマ線ビームに変換される。このガンマ線をレーザーコンプトンガンマ線といい、電子ビームの進行方向へ高い集束性をもって放出される(図3)。
6) 原子核
陽子と中性子で構成され、陽子と中性子は大きさ約10-12cmの中に核力で閉じ込められている。陽子の個数は原子番号と同数であり、中性子の個数は原子核を構成する陽子と中性子の総数(質量数)から陽子の個数を引いた数となる。
7) 中性子の多重度
1回の光核反応で放出される中性子の個数のこと。原子核に照射されるガンマ線のエネルギーに応じて放出される中性子の個数は変化する。多重度1の反応断面積とは、中性子を一つ放出する光核反応の断面積のこと。
8) 巨大共鳴
ガンマ線が原子核に照射されたときに、原子核を構成する陽子と中性子が集団的に逆位相で運動する現象のこと。巨大双極子共鳴ともいう。ガンマ線エネルギーで10MeVから20MeVまでの範囲において、中性子の放出を伴う光核反応に対し大きな断面積を持つため、この現象を理解することは科学的な価値のみならず、実用的な価値においても極めて重要である。
9) フラックス強度
ガンマ線ビームが単位時間に単位面積を通過したときのガンマ線(高エネルギーを持つ光子)の個数のこと。光核反応が起こった割合を導出するには、フラックス強度の正確性が非常に重要になる。