2019/07/09 科学技術・学術政策研究所
執筆者:蒲生 秀典(特別研究員)
2019年6月13日、欧州委員会は「100 Radical Innovation Breakthroughs for the future」1)を公表しました。この調査はHorizon 20202)でのプロジェクト“Radical Innovation Breakthrough Inquirer (RIBRI)”(フィンランド・トゥルク大学、ドイツ・フラウンホーファー研究機構・社会イノベーション研究所、ルーマニア・未来研究所)による成果です。レポートでは、将来に向けグローバルな価値創造に大きな影響を及ぼし、社会的ニーズに重要な解決策を示す可能性のある、100のラジカル・イノベーション・ブレークスルー(RIB)を提示しています。RIBは、当初はフィンランドでの予測調査から生まれた概念ですが、OECDなど他の国際機関の調査でも使われるようになってきました。
100のRIBは、87の技術的ブレークスルーと13の社会的ブレークスルー(RSB)で構成され、世界中の技術予測調査結果と200のプラットフォームからの15万以上のニュース記事から、機械学習アルゴリズムと人間による評価を組み合わせた手順によって抽出されました。(図表1)さらに、現状の成熟度、2038年における普及の可能性、および研究とイノベーションにおける欧州の相対的な強さについて、専門家による評価結果を示しています。
図表1 100のRIB(グループ化された技術的RIBと社会的RIB(RSB))
主な調査結果として、AIが将来に大きなインパクトを与えると予測し、戦略的に欧州の立場を明確にすべきとして、AIに適応するために直接貢献する16のRIBを挙げています。(図表2)また、不確実性は高いが大きな変革をもたらす可能性のある13のRIBについて、欧州の相対的な強さの評価と併せて提示しています。(図表3)ここでは、未だ日本では注目度の低い植物コミュニケーション、アルミニウム系エネルギー、4Dプリンティングが挙げられています。革新的技術において欧州の競争力を維持しさらに発展させるためには、革新的なアイデアを支持し育成する環境を創ることが重要だとしています。
図表2 AIに適応するために直接貢献するRIB
図表3 不確実性は高いが大きな変革をもたらす可能性のあるRIB
さらにレポートでは、将来に向けグローバルな価値創造を可能にするシナリオとして、23のグローバルバリューネットワーク(GVN)を示しています。23の将来シナリオ(2038年)には共通して大きな2つの波が存在し、1つはSDGsに向けての進歩の必要性であり、もう1つはICT全般の影響、および、ユビキタスネットワーク、データ、人工知能の複合的な影響です。そして将来のグローバルな価値創造がSDGsによって大きく形成されることを期待し、その実現のために環境及び健康関連技術とICT(特にAI関連)技術の相互関係には十分留意し、それらの相乗効果を活用することが重要であるとしています。
参考文献
- 欧州委員会 HP; https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/research_and_innovation/knowledge_publications_tools_and_data/documents/ec_rtd_radical-innovation-breakthrough_052019.pdf
- 日欧産業協力センター Horizon2020 HP; https://www.ncp-japan.jp/about
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