すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Camで遠方超新星を多数発見

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2019-06-04  京都大学

前田啓一 理学研究科准教授、安田直樹 東京大学教授らは、東京大学、東北大学、甲南大学、国立天文台の研究者と共同で、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(HSC;ハイパー・シュプリーム・カム)を用いた半年間の観測により、赤方偏移1以上(約80億光年遠く)の遠方超新星58個を始め約1,800個もの超新星を発見しました。
近傍を含む大量の超新星を発見したことのみならず、遠方超新星を半年間という短期間の観測からこれほどの数発見できたことは、大口径のすばる望遠鏡の集光力と高解像度で広視野というHSCの特徴を合わせた、すばるHSCでの観測の強みが存分に活かされた成果と言えます。
本研究成果は、2019年5月30日に、日本天文学会の発行する「Publications of the Astronomical Society of Japan(欧文研究報告)」のオンライン版に掲載されました。

すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Camで遠方超新星を多数発見

図:今回発見した超新星の例(3 枚1 組の写真が一つの超新星の変化を示す)。左から順に爆発前、爆発後、超新星の様子を表す。(Credit:N. Yasuda et al.)

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1093/pasj/psz050

Naoki Yasuda, Masaomi Tanaka, Nozomu Tominaga, Ji-an Jiang, Takashi J Moriya, Tomoki Morokuma, Nao Suzuki, Ichiro Takahashi, Masaki S Yamaguchi, Keiichi Maeda, Masao Sako, Shiro Ikeda, Akisato Kimura, Mikio Morii, Naonori Ueda, Naoki Yoshida, Chien-Hsiu Lee, Sherry H Suyu, Yutaka Komiyama, Nicolas Regnault, David Rubin (2019). The Hyper Suprime-Cam SSP transient survey in COSMOS: Overview. Publications of the Astronomical Society of Japan, psz050.

詳しい研究内容について

すばる望遠鏡超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam で遠方超新星を多数発見!

1.発表概要
京都大学大学院理学研究科の前田啓一准教授は、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携 宇宙研究機構 (Kavli IPMU) の安田直樹 (やすだ なおき) 教授を中心とする Kavli IPMU、東北大学、甲南大学、国立天文台、東京大学大学院理学系研究科、京都大学の研 究者らからなる研究チームに参加し、ハワイのすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点 カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC; ハイパー・シュプリーム・カム) を用いた半年間の観 測により、赤方偏移 1 以上 (約 80 億光年遠く) の遠方超新星 58 個を始め約 1,800 個もの 超新星を発見しました。近傍を含む大量の超新星を発見したことのみならず、遠方超新星 を半年間という短期間の観測からこれほどの数発見できたことは、大口径のすばる望遠鏡 の集光力と高解像度で広視野という HSC の特徴を合わせた、すばる HSC での観測の強み が存分に活かされた成果と言えます。

本成果は、日本天文学会の発行する Publications of the Astronomical Society of Japan (欧文研究報告) のオンライン版に 2019 年 5 月 30 日付で公開されました。

2.発表内容
超新星爆発は星が一生の最期に起こす大爆発で、宇宙進化の原動力であることが知られて います。太陽の 10 億倍以上という銀河全体に匹敵する明るさで光り輝き、その後一カ月 から半年ほどで暗くなってしまいます。特に、Ia (いちえい) 型と呼ばれる超新星はその絶 対的な明るさがほぼ一定であるため、見かけの明るさの明暗により超新星までの距離を測 定することが可能です。この性質を利用して Ia 型超新星の観測によって宇宙の加速膨張が 1998 年発見され、この貢献により、米カリフォルニア大学バークレー校の Saul Perlmutter (ソール・パールムッター)、オーストラリア国立大学の Brian Schmidt (ブラ イアン・シュミット)、米ジョンズ・ホプキンス大学の Adam Riess (アダム・リース) の 3 氏に 2011 年ノーベル物理学賞が贈られています。また、近年では Ia 型超新星よりも 5- 10 倍も明るい超高輝度超新星と呼ばれる特殊な超新星が次々と発見されています。超高輝 度超新星は、その明るさのために非常に遠方のものまで観測できることから、宇宙初期に できた大質量星の性質を知るのに重要な手がかりになるとされています。

これらの超新星を効率よく発見し、その明るさの変化を測定するためには、空のできるだ け広い領域を長期間にわたって繰り返し観測して、新しく現れる天体を発見することが必 要です。超広視野主焦点カメラ Hyper Suprime-Cam (HSC) は、すばる望遠鏡の 8.2m の 大口径による集光力とシャープな像を撮れる解像度の高さを活かして遠くの非常に暗い天 体まで観測できることに加えて、満月 9 個分に相当する広い視野を一度に観測することが できます。現在、この HSC を使った大規模なサーベイ観測である大規模戦略枠観測プロ グラム (HSC-SSP) が Kavli IPMU、国立天文台、台湾中央研究院天文及天文物理研究所 (ASIAA)、米国プリンストン大学をはじめとする研究機関の研究者らによって共同で行わ れています。

今回、Kavli IPMU、東北大学、甲南大学、国立天文台、東京大学大学院理学系研究科、京 都大学の研究者らを中心とする研究グループは、この大規模サーベイ観測の一部として、 2016 年 11 月から 2017 年 4 月の半年間にわたり、ろくぶんぎ座方向の COSMOS 領域と 呼ばれる天域約 7.5 平方度 (HSC の視野 5 つ分) を繰り返し観測し、約 1,800 個の超新星 を発見しました。超新星の検出には機械学習などの手法が用いられています。

観測は青い波長 (473 ナノメートル) から赤い波長 (1005 ナノメートル) まで 5 つのフィ ルターで行われ、得られた多色の光度曲線をもとに超新星のタイプを判別したところ、う ち約 400 個が Ia 型超新星と考えられることが分かりました。このうち 129 個については 正確な赤方偏移が知られており、58 個は赤方偏移が 1 以上、つまり、約 80 億光年より遠 くにあることが分かりました。これまで、これほど遠くの Ia 型超新星は主にハッブル宇宙 望遠鏡が過去 10 年間に実行した観測で発見された 50 個弱が知られているのみです。つま り、HSC を用いた半年間の観測で、ハッブル宇宙望遠鏡が 10 年間で発見した遠方超新星 の数を超える数の超新星が、今回発見されたことを意味します。また、赤方偏移が2前後 より大きい (約 100 億光年ほどの距離)、超高輝度超新星も5個発見され、この時代にどの 程度発生するかの出現頻度が測定出来ました。

今後、発見されたこれら遠方の Ia 型超新星のデータを使って、より正確な宇宙加速膨張 の値を導き出し、ダークエネルギーが時間とともにどのように変化しているかを調べてい く予定です。

本成果について、研究の中心となった安田直樹教授は「すばる望遠鏡の Hyper SuprimeCam はダークマターの3次元分布の観測、原始ブラックホールの観測などで大きな成果 をあげていますが、今回、ハッブル宇宙望遠鏡が牽引してきた遠方超新星の探査でも、こ れまでの観測装置を凌駕する非常に高い能力を有していることが確認されました。このよ うな観測機会を与えて下さった HSC-SSP の共同研究者のみなさんに感謝したいと思いま す。今回得られたデータによって明らかにされる宇宙の姿を見るのが楽しみです」と述べ ています。

本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(A) (15H02075、代表:田中雅臣)、科学研究費補 助金 新学術領域研究「なぜ宇宙は加速するのか?」公募研究 (H1804345、代表:安田直 樹)、科学技術振興機構 CREST (JPMHCR1414、代表:吉田直紀) の援助を受けていま す。

3. 発表雑誌
雑誌名:Publications of the Astronomical Society of Japan (欧文研究報告)
論文タイトル:The Hyper Suprime-Cam SSP Transient Survey in COSMOS: Overview

著者: Naoki YASUDA (1), Masaomi TANAKA (2,1), Nozomu TOMINAGA (3,1), Ji-an JIANG (4), Takashi J. MORIYA (5), Tomoki MOROKUMA (4,1), Nao SUZUKI (1), Ichiro TAKAHASHI (1,6), Masaki S. YAMAGUCHI (3), Keiichi MAEDA (7,1), Masao SAKO (8), Shiro IKEDA (9,1), Akisato KIMURA (10), Mikio MORII (9), Naonori UEDA (10), Naoki YOSHIDA (11,1,6), Chien-Hsiu LEE (12), Sherry H. SUYU (13,14), Yutaka KOMIYAMA (5,15), Nicolas REGNAULT (16), David RUBIN (17,18)

著者所属:
1) Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe (WPI), The University of Tokyo Institutes for Advanced Study, The University of Tokyo, 5-1-5 Kashiwanoha, Kashiwa, Chiba 277-8583, Japan
2) Astronomical Institute, Tohoku University, Aoba, Sendai 980-8578, Japan
3) Department of Physics, Faculty of Science and Engineering, Konan University, 8-9-1 Okamoto, Kobe, Hyogo 658-8501, Japan
4) Institute of Astronomy, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-0015, Japan
5) National Astronomical Observatory of Japan, National Institutes of Natural Sciences, 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
6) CREST, JST, 4-1-8 Honcho, Kawaguchi, Saitama 332-0012, Japan
7) Department of Astronomy, Kyoto University, Kitashirakawa-Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606-8502, Japan
8) Department of Physics and Astronomy, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA 19104, USA
9) Research Center for Statistical Machine Learning, The Institute of Statistical Mathematics, 10-3 Midori-cho, Tachikawa, Tokyo 190-8562, Japan
10) NTT Communication Science Laboratories, 2-4 Hikaridai, Seika-cho, Keihanna Science City, Kyoto 619-0237, Japan
11) Department of Physics, Graduate School of Science, The University of Tokyo, 7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japan
12) Subaru Telescope, National Astronomical Observatory of Japan, 650 N Aohoku Pl., Hilo, HI 96720, USA
13) Max-Planck-Institut für Astrophysik, Karl-Schwarzschild-Str. 1, 85748 Garching, Germany
14) Physik-Department, Technische Universität München, James-Franck-Straße 1, 85748 Garching, Germany
15) Graduate University for Advanced Studies (SOKENDAI), 2-21-1 Osawa, Mitaka, Tokyo 181-8588, Japan
16) Sorbonne Université, Université Paris Diderot, CNRS/IN2P3, Laboratoire de Physique Nucléaire et de Hautes Energies, LPNHE, 4 Place Jussieu, 75252 Paris, France
17) Physics Division, Lawrence Berkeley National Laboratory, 1 Cyclotron Road, Berkeley, CA 94720, USA
18) Space Telescope Science Institute, 3700 San Martin Drive, Baltimore, MD 21218, USA

DOI: 10.1093/pasj/psz050 (2019 年 5 月 30 日オンライン版公開)

論文のアブストラクト(Publications of the Astronomical Society of Japan のページ) https://doi.org/10.1093/pasj/psz050

プレプリント (arXiv.org のウェブページ) https://arxiv.org/abs/1904.09697

4. 参考画像
画像は https://web.ipmu.jp/press/201905-HSC-SSP/ からダウンロード可能です。

また、今回発見された全ての超新星の画像については下記からご覧いただけます。 (※本ページの作成には国立天文台の小池美知太郎さんにご協力頂きました) https://web.ipmu.jp/press/201905-HSC-SSP/HSC_SNimages/


図 1. 今回発見した超新星(赤点)の分布。青い丸が HSC の視野。背景はスローン・デジ タル・スカイ・サーベイ (SDSS) の画像。領域の大きさの比較のために、満月の写真を右 上に表示している。(Credit: Kavli IPMU, Partial data supplied by: SDSS)

図 2. 今回発見した超新星の例 (3 枚 1 組の写真が一つの超新星の変化を示す)。左から順 に爆発前、爆発後、超新星の様子を表す。(Credit: N. Yasuda et al.)

1701物理及び化学
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