2021年シーズン国内発生高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

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2022-09-20 農研機構

ポイント

農研機構は、2021年11月10日から2022年5月14日まで国内の家きん飼養施設で確認されたH5亜型高病原性鳥インフルエンザ1)ウイルス(HPAIV)の遺伝子及び病原性解析を行いました。その結果、2021年シーズンは、H5N8亜型(2事例)及びH5N1亜型(23事例)の2つの亜型のウイルスが存在し、赤血球凝集素(HA)遺伝子の特徴から3つのグループのウイルスが同一期間中に国内に侵入していたことを明らかにしました。これらのグループのウイルスはいずれも鶏に高い致死性を示す一方で、感染性や伝播性はグループ間で異なっていました。当シーズンの発生はこれまでで最も長期間継続し、複数グループのウイルスの侵入がみられたことから、農場へのウイルス侵入機会も一層増加していたものと考えられます。このことから、今後もHPAIVの流行動向を注視し、ウイルスの国内及び農場への侵入に警戒する必要があります。

概要

2021年11月10日に秋田県、11月13日に鹿児島県の養鶏場で高病原性鳥インフルエンザ (highly pathogenic avian influenza: HPAI) 1)が発生し、斃死した鶏からそれぞれH5N8亜型2)及びH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス(highly pathogenic avian influenza virus: HPAIV)3)が分離されました(秋田株及び鹿児島株)。その後2022年5月14日までに、H5N8亜型及びH5N1亜型HPAIVによる発生がさらに23事例報告されました。

25事例の発生から分離されたHPAIVの全ゲノム配列を解読し、赤血球凝集素(HA)遺伝子分節について系統樹解析を行った結果、H5N8亜型HPAIVは「2020-2021年冬季アジア分離HPAIV(20A)」、H5N1亜型HPAIVは「2020-2021年冬季欧州分離HPAIV(20E)」または「2021-2022年欧州分離HPAIV(21E)」と近縁であり、20A、20E 及び21Eの3グループのウイルスが同一期間中に国内に侵入していたことを明らかにしました。また、全てのウイルスの推定アミノ酸配列には、既存の抗ウイルス薬への耐性や哺乳類への感染性を増大させる変異は認められませんでした。

家きんで分離されたウイルスの亜型・グループとそれらの発生時期との関連をみると、11月の上中旬にH5N8亜型の20Aが秋田県と鹿児島県、中旬にH5N1亜型の20Eが鹿児島県で検出され、これら2種類のグループによる発生がほぼ同時期に起こりました。20Aによる発生は11月の2例のみにとどまり、一方20Eは11月から2022年1月及び5月に検出され、当シーズンは、20Eによる発生数が最も多く地理的な偏りは特にありませんでした。21Eは、2022年2月中旬から5月中旬まで検出され、その発生は北海道と東北地方に限られていました。北海道、青森県、秋田県及び鹿児島県では、複数のグループのウイルスが家きんでの発生に関与していました。

野鳥または環境検体からも同期間の11月8日から5月14日までに、一部の検体から20A及び21EグループのH5亜型HPAIVが検出されています。

分類された3グループのウイルス、H5N8亜型の秋田株(20A)、H5N1亜型の鹿児島株(20E)及び岩手株(21E)について、国際獣疫事務局(OIE)が定める鶏への静脈内接種試験を行ったところ、高病原性であることを規定する75%の致死率を超えて、100%の高い致死率を示しました。また、これら3つの株について自然感染経路を想定して経鼻接種試験を行ったところ、感染した鶏には沈うつ、一部の鶏では顕著な肉冠のチアノーゼや神経症状が認められました。経鼻接種試験の結果、①感染致死性は最大で8倍程度の差であること、②全羽が感染して死亡したウイルス量の接種鶏の平均死亡日数は、最短2.2日から最長3.5日とその差は1.3日であること、③各ウイルスを接種した1羽の鶏から同居した6羽の鶏への伝播性は33.3-100%であることから、3グループのウイルス株間で感染性や伝播性が異なることを明らかにしました。

2021年シーズンでの家きん及び野鳥での発生情報及び検出されたウイルスの解析により、当シーズンの家きんでの発生は遺伝的背景や性質の異なるウイルスが国内に侵入し、これまでで最も長期間継続したことが明らかになったことから、野鳥によって国内に持ち込まれたウイルスが農場へ侵入する機会が一層増加していたことが考えられました。

問い合わせ先など

研究推進責任者 :

農研機構動物衛生研究部門 所長勝田 賢

研究担当者 :

同 人獣共通感染症研究領域 グループ長内田 裕子

同 人獣共通感染症研究領域 研究領域長真瀬 昌司

広報担当者 :

同 広報担当山田 学

詳細情報

背景

家きん飼養施設でのH5亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの感染が、2021年11月10日から2022年5月14日まで12道県25事例確認されました。同期間に野鳥においても8道府県107事例の感染が確認されています。11月上旬から始まった2021年シーズンの家きんでの発生は、これまでの発生の中では最も遅い5月中旬まで報告され、その発生期間は最も長いものでした。また、発生を引き起こしたウイルスの亜型は、H5N8亜型とH5N1亜型の2種類が確認されており、それぞれ2事例と23事例でした。同一期間中に異なる亜型のH5亜型HPAIVによる発生が起きたことから、当シーズンの発生要因を探るための情報として、これらのウイルスについて遺伝子解析によるウイルスの由来の推定及び鶏におけるウイルス感染動態を解析しました。

研究の内容・意義

1.当シーズンに家きん飼養施設から分離されたA型インフルエンザウイルスは、H5N8亜型及びH5N1亜型HPAIVであることが確認されました。25事例全てについてウイルス全ゲノム解読を行い、赤血球凝集素タンパク質(HA)分節の遺伝子系統樹解析を実施すると、H5N8亜型HPAIVは「2020-2021年冬季アジア分離HPAIV(20A)」、H5N1亜型HPAIVは「2020-2021年冬季欧州分離HPAIV(20E)」または「2021-2022年欧州分離HPAIV(21E)」と近縁でした。HA遺伝子の解析結果より、3グループのH5亜型HPAIVが同シーズンに国内に侵入したことが明らかになりました。

2.家きんで分離されたウイルスの亜型・グループとそれらの発生時期との関連をみると、2021年11月上中旬にH5N8亜型の20Aが秋田県と鹿児島県、11月中旬にH5N1亜型の20Eが鹿児島県で検出され、これら2種類のグループによる発生がほぼ同時期に起こりました(図1、2)。20Aによる発生は11月の2例のみにとどまり、一方20Eは2021年11月から2022年1月及び5月に検出され、当シーズでは20Eによる発生数が最も多かったものの、地理的な偏りは特にありませんでした(図2)。21Eは2022年2月中旬から5月中旬まで検出され、9事例の発生数は北海道と東北地方に限られていました。北海道、青森県、秋田県及び鹿児島県では、複数のグループのウイルスが家きんの発生に関与していました。

3.2021年11月に鹿児島大学が行った鹿児島県の死亡野鳥の調査や、12月に鳥取大学が鳥取県の環境材料の調査から得たH5N8亜型HPAIVのHA分節は、家きん発生事例のウイルス分類による20Aと一致しました。また、2022年1月から4月にかけて北海道で死亡した一部の野鳥の検体から分離されたH5N1亜型HPAIVは、21Eと全遺伝子分節の組み合わせが一致していました(図2)。

4.当シーズンの25事例の発生で分離されたH5N8亜型及びH5N1亜型ウイルスは、OIEの規定するHPAIVに特徴的なアミノ酸配列を保持していることを明らかにしました。HA遺伝子解析により分類されたH5N8亜型1グループ及びH5N1亜型2グループの代表ウイルス株(H5N8亜型(20A):秋田株、H5N1亜型:鹿児島株(20E)及び岩手株(21E))は、OIEが定める鶏への静脈内接種試験では、HPAIVの基準である75%の致死率を上回り、ウイルス接種鶏は100%死亡しました。

5.3グループの代表株について、鶏に106 50%鶏卵感染ウイルス量(EID504))を自然感染経路である経鼻接種すると、3グループのウイルス株で接種鶏は全羽死亡しましたが、平均死亡日数は秋田株、鹿児島株及び岩手株でそれぞれ3.5日、3.3日及び2.2日と異なりました。段階的に希釈したウイルス量の接種試験結果から、秋田株、鹿児島株及び岩手株はそれぞれ約1EID50の6,300倍、32,000倍及び50,000倍のウイルス量が50%の鶏を死亡(50%鶏致死ウイルス量(CLD505)))させるのに必要でした。ウイルス接種鶏と同居した鶏へのウイルス伝播率も異なり、秋田株は100%、鹿児島株は50%、岩手株は33.3%でした。

6.以上のことから、当シーズンのH5H8亜型及びH5N1亜型ウイルスはHA遺伝子の由来から3種類のグループに分類され、それらは全て高病原性でした。3種類のグループ代表ウイルス株の鶏への感染試験によると、高いウイルス量を接種した鶏は全て死亡するが、感染してから死亡するまでの期間やウイルスの感染性及び伝播性は3種類のウイルス株で異なることが明らかになりました。

今後の予定・期待

今回明らかになったHPAIVの全ゲノム配列解読・遺伝子解析及び鶏への病原性に関する情報を踏まえ、農研機構の所有する動物衛生高度研究施設6)において研究を実施し、越境性感染症であるHPAIVのウイルス学的性質に関する研究を迅速に推し進めることは、診断体制を含む国内のHPAI防疫体制の一層の強化につながると期待されます。

用語の解説
1)高病原性鳥インフルエンザ
高病原性鳥インフルエンザウイルスによって引き起こされ、鶏に高い致死率を示す家きんの疾病。
2)(A型インフルエンザウイルスの)亜型
ウイルス表面に存在する2つの糖タンパク質(赤血球凝集素タンパク質:HA、ノイラミニダーゼタンパク質:NA)の種類に基づくウイルスの分類型。HAには、H1からH18、NAにはN1からN11までの亜型が存在する。A型インフルエンザウイルスの種類はそれぞれの亜型を組み合わせて、H1N1、H3N2、H5N1等と記載する。
3)高病原性鳥インフルエンザウイルス
国際獣疫事務局(OIEの規定による分離ウイルスの鶏への静脈内接種試験やHAタンパク質の開裂部位における連続した塩基性アミノ酸の存在によって判定される、鶏に高い致死率を示すA型インフルエンザウイルス。H5及びH7亜型の一部のウイルスが主。
4)EID50(50% Egg Infectious dose)
50%鶏卵感染ウイルス量。鶏卵の50%を感染させるために必要なウイルス量。すなわち、1 EID50は、発育鶏卵の半分を感染させる能力を有するウイルス量。
5)CLD50(50% Chicken Lethal dose)
50%鶏致死ウイルス量。鶏の50%が死亡するウイルス量。
6)動物衛生高度研究施設
HPAIVなどのBiosafety level 3(BSL-3)にあたる畜産上重要な感染症病原体を取り扱うことが認められた農研機構内の高度封じ込め実験施設。OIEならびに世界保健機構(WHO)のラボラトリー・バイオセイフティー基準に適合した国内有数規模を誇るBSL-3施設です。
参考図

2021年シーズン国内発生高病原性鳥インフルエンザウイルスの特徴

図1. HA分節の遺伝子系統樹解析に基づくH5N8亜型及びH5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルスの分類と家きんでの発生時期

HA及びNA遺伝子分節の組み合わせによりH5N8亜型及びH5N1亜型に分類され、さらにH5N1亜型HPAIVはHA遺伝子の由来により2グループに分類されます。

図2. 国内の家きん及び一部の野鳥から検出されたウイルスのHA遺伝子解析分類による道県別分布図

家きんでの発生は北海道から鹿児島県まで認められ、3グループのウイルスが分離されています。一部の野鳥においても家きんで認められた2グループのウイルスが分離されています。

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