2022-06-21 国立天文台
ヘルクレス座τ流星群の明るい流星。2022年5月31日14時55分(日本時、現地時刻5月30日22時55分)、アメリカ・カリフォルニア州ユッカバレー郊外にて撮影。(クレジット:国立天文台)表示画像はトリミングしています。 オリジナルサイズ(15.6MB)
ヘルクレス座τ(タウ)流星群は、73P/Schwassmann-Wachmann(シュバスマン・バハマン)彗星(すいせい)(以下、73P彗星)を起源とする流星群です※。1930年に日本での出現記録がある他には、これまで目立った流星の出現がありませんでした。
※流星群の元になる塵(ちり)を放出した起源の天体を母天体(ぼてんたい)と言います。彗星である場合は、母彗星(ぼすいせい)とも言います。
2022年5月末、地球がダスト・トレイルに接近
流星の元となる塵(ちり)(ダストあるいは流星物質とも言う)は、ミリメートルからセンチメートルのサイズ(大きさ)だと考えられています。彗星から放出されたこのようなサイズの塵は、彗星の前後で太陽を周回(公転)しながら、チューブ状の細長い構造を形成します。これを「ダスト・トレイル」と呼んでいます。
2022年5月31日(日本時、以下同じ)には、母天体である73P彗星から1995年に放出された塵が形成するダスト・トレイルと地球が接近することが、複数の研究者のシミュレーションにより示されました。このため、ヘルクレス座τ流星群の活発な出現が期待されていました。一方で、今回接近する塵は、彗星からの放出速度が速い部分(毎秒約27メートル)に相当していました。一般的に流星群が大出現となるような塵は、毎秒20メートル以内で放出された場合です。このため、全く出現しないだろうと予想したり、また出現したとしても、小さいサイズによる非常に暗い流星しか出現しないと予想したりする研究者も多く見られる状況でした。
実は、塵が放出された1995年には、73P彗星がアウトバースト(急激に明るくなること)を起こしていました。彗星核が分裂したことが原因で、約6等級も明るくなったのです。彗星核が分裂すると、これまで太陽光にさらされていなかった核の新鮮な部分が新たに太陽光を浴びて、ガスや塵が活発に放出されるからです。このような状況から、国立天文台の渡部潤一(わたなべ じゅんいち)上席教授、佐藤幹哉(さとう みきや)広報普及員を中心とする研究グループは、大きなサイズの塵も相当数含まれている可能性が高いと推測しました。そこで、観測条件の良い場所で流星の出現を捉えるために、アメリカ・カリフォルニア州への遠征観測を実施することにしました。
活発な出現の観測に成功!
活発な出現が見られたヘルクレス座τ流星群。1分30秒の間に12個の群流星が写っている(緑色の丸で囲んだ部分)。2022年5月31日13時39分15秒から40分45秒(現地時刻30日21時39分15秒から40分45秒)に撮影した動画を比較明合成して作成。赤い丸は予報された放射点。長い経路の線は人工衛星の軌跡。(クレジット:国立天文台)オリジナルサイズ(3.5MB)、印を除いた画像(3.5MB)
流星群の極大は、5月31日14時(現地時刻30日22時)頃と予報されていました。当夜、カリフォルニア州ユッカバレー郊外に構えた観測隊は、薄明が残る明るい空のうちに、流星の出現を確認。さらに暗くなるにつれて多くの流星が捉えられるようになりました。
観測隊メンバーによる眼視観測では、31日13時30分から14時30分(現地時刻30日21時30分から22時30分)の1時間に、54個の群流星を記録しました(1時間当たり54個)。また、ビデオ観測では、速報値として13時40分(現地時刻30日21時40分)頃に1時間当たり100個を超える流星が記録されていました。詳細については現在も解析中ですが、全体としては、予報極大時刻の頃を中心に、出現のなだらかなピークがあったと推測されました。
マウナケアの映像でも確認
ハワイのマウナケア星空ライブカメラが捉えたヘルクレス座τ流星群の流星。2022年5月31日15時20分から16時30分(現地時刻30日20時20分から21時30分)に出現した流星部分を比較明合成。(クレジット:国立天文台ハワイ観測所、朝日新聞)
なお、ハワイのマウナケアでは、ちょうど極大時刻の頃に日の入りとなりました。同所にあるすばる望遠鏡の建屋に設置された「マウナケア星空ライブカメラ」(国立天文台ハワイ観測所、朝日新聞)にも、暗くなるにつれてこのヘルクレス座τ流星群の流星が写り始めました。極大の時間帯が昼間にあたり観測できない日本からも、多くの人がこのカメラの中継映像に注目したようです。極大後の時間帯ではありましたが、映像では多数の群流星が捉えられました。
今回の活発な流星の出現について、アメリカで遠征観測を行った渡部上席教授は、次のようにコメントしています。
「流星群の母天体が分裂して、その後流星群をもたらしたことの確実な例は、19世紀の3D/Biela(ビエラ)彗星によるアンドロメダ座流星群しかない。今回の流星群は、放出速度が通常よりも速い状況での流星物質(塵)による出現であった。このことから、彗星核の分裂時には、通常の彗星活動よりも相当に大きな放出速度を持ちうることが実証された、きわめて意義深い観測だ。今後、彗星の分裂過程の物理解明にも寄与することになるだろう」。
今後の詳細な解析・研究にもご期待ください。