2022-05-15 国立天文台
すばる望遠鏡とCFHTが捉えた323P/SOHO。2020年12月21日に太陽に近づく前にすばる望遠鏡が撮影した彗星が、中央に点状で捉えられています(左)。2021年1月に太陽に最接近した後の2021年2月11日にCFHTが撮影した彗星は、長い尾を伴っています(右)。(クレジット:ハワイ観測所/CFHT/Man-To Hui/David Tholen)
すばる望遠鏡をはじめとするマウナケア天文台群の望遠鏡による観測で、太陽のごく近くを通る周期彗星(すいせい)が塵(ちり)を放出する様子が、初めて明らかになりました。この観測結果は、太陽に近づく周期彗星が少ない理由を説明する一方で、新たな謎も示しています。
彗星のなかでも、水星の公転軌道よりも太陽の近くを通るものは、宇宙空間にある太陽観測望遠鏡SOHOなどで偶然に発見される場合がほとんどです。観測の難しさを考慮しても、そのような彗星の数は理論的な予想よりもはるかに少ないことから、何らかの作用によって彗星が壊されていると考えられます。
マカオ、アメリカ、ドイツ、台湾、カナダの研究者から成る研究チームは、ハワイ島マウナケア山頂にあるすばる望遠鏡、カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(CFHT)、ジェミニ北望遠鏡等を用いて、太陽にとても近づく周期彗星323P/SOHO(以下、323P)の姿を鮮明に捉えることに成功しました。太陽に最接近する前は、軌道が不確かで、推定位置の誤差が大きかったにもかかわらず、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラHSCの広い視野と感度を生かしてこの彗星を捉えることができました。この観測によって精度良く軌道を決定できたため、彗星が太陽から遠ざかるときの姿を他の望遠鏡を用いて追観測をすることができたのです。
観測の結果、太陽に接近する前は点状だった彗星の姿が、接近後は、塵を放出し長い尾を引いた姿として捉えられました。この塵は、太陽に最接近した際、太陽からの強い放射によって彗星の核に圧力がかかり、一部が崩壊したために放出されたと考えられます。太陽に近づく周期彗星が数少ないのは、このように彗星本体が壊れることが大きな要因の一つであることが、観測で示されたことになります。さらに、推定される今後の軌道の変化から、この彗星は2000年以内に太陽に衝突して消滅することも導き出しました。
一方、323Pは、既知の彗星のなかでは最も速い30分の周期で自転していること、他の彗星とは大きく異なる色をしておりそれが時間と共に著しく変化していることなども、分かりました。これらの特徴は、太陽にごく近い環境でのみ生じる物理的プロセスによって生み出されたのかもしれません。観測例がまだ少ない太陽に近づく彗星には、解明すべき謎がまだたくさん残されています。
この研究成果は、Hui et al. “The Lingering Death of Periodic Near-Sun Comet 323P/SOHO”として、米国の天文学専門誌『アストロノミカル・ジャーナル』に2022年6月14日付で掲載されました。