マグネターは超強磁場を持つ大気のない中性子星~磁石星からのX線偏光を世界で初めて観測~

ad
ad

2022-11-25 理化学研究所,東京理科大学

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室の内山 慶祐 研修生(東京理科大学大学院 理学研究科 博士課程学生)、開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室の玉川 徹 主任研究員(仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室 室長)らの国際共同研究グループは、宇宙で最も強い磁場を持つ中性子星[1]「マグネター(磁石星)[2]」からのX線偏光[3]を世界で初めて観測しました。

本研究成果は、地上では決して到達することができない超強磁場下における物質の性質や、超強磁場によりゆがめられた特異な真空状態を理解する鍵となるものと期待できます。

これまでさまざまな方法で、マグネターに超強磁場が存在している可能性が示されていましたが、観測的に実証されていませんでした。

今回、国際共同研究グループは、地球磁気の26兆倍(130億テスラ)もの強い磁場を持つとされる、カシオペア座の方向13,000光年の位置にあるマグネター4U 0142+61を、X線偏光観測衛星IXPE[4]により観測し、X線偏光の偏り方向(偏光角[3])とその偏り度合い(偏光度[3])を測定しました。得られた偏光角と偏光度は、マグネターが超強磁場を持つと仮定した理論モデルから予想される値と一致し、マグネターが実際に超強磁場を持つことが裏付けられました。また、中性子星の表面には大気がなく、固体の地殻が宇宙空間にむき出しになっていると考えると、観測結果をうまく説明できることも分かりました。

本研究は、科学雑誌『Science』オンライン版(11月3日付)に掲載されました。

マグネター(磁石星)の想像図(Image credit:ESO/L. Calçada)

背景

中性子星は太陽の10倍もの質量を持つ恒星が、一生の最後に大爆発を起こし、その後に残される天体です。太陽と同程度の質量を持ちますが、半径はわずか10km程度しかなく、その内部は、宇宙において最も高密度な物質で満たされています。多くの中性子星は、地球上では決して達成できない、太陽の数十億倍もの強力な磁場を持つことから、極限状態における物質の性質を探ることができる宇宙の実験室と考えられています。

中性子星の中には、1秒の間に、太陽が1年間で放出する何百万倍ものエネルギーを放出する強力なフレア(爆発現象)を発生させるものがあります。それらは通常の中性子星よりもさらに1,000倍ほど大きな100億テスラにも及ぶ超強磁場を持ち、その磁気エネルギーを解放することで輝いているとされ、「マグネター(磁石星)」と呼ばれています。しかし、中性子星表面の磁場を直接観測することは非常に難しく、マグネターが本当に100億テスラもの超強磁場を持っているのかは明らかになっていませんでした。

そこで2021年12月9日、マグネターの超強磁場の検証などを目的とした、世界初の高感度X線偏光観測衛星IXPEが米国航空宇宙局(NASA)とイタリア宇宙機関(ASI)によって打ち上げられました注1)。理研を含む日本グループも、主要観測装置の一部を提供するとともに、X線偏光観測とデータ解析に参加しています注2)

注1)2021年12月8日プレスリリース「ブラックホールを観測する新しい手段の開拓
注2)2021年4月23日プレスリリース「X線偏光観測衛星IXPEで紐解くダイナミックな宇宙

研究手法と成果

国際共同研究グループは、X線偏光観測衛星IXPEに搭載したX線偏光計[5]を用いて、地球磁気の26兆倍(130億テスラ)もの強い磁場を持つとされるマグネター4U 0142+61を観測し、放射されるX線偏光の偏り方向(偏光角)と偏り度合い(偏光度)の測定に成功しました。マグネター4U 0142+61は、カシオペア座の方向に、地球から約13,000光年離れた天体です。

IXPE衛星は、2~8キロ電子ボルト[6]のエネルギーを持つX線の、エネルギーと偏光を同時に観測できます。図1に示す観測結果から、X線の偏光度は低エネルギー側では約15%であり、5キロ電子ボルト付近でいったん0%程度まで低下した後、高エネルギー側では約30%まで上昇する様子が確認できました。さらにX線の偏光角は、低エネルギー側と高エネルギー側でちょうど90度方向が異なり、偏光度が0%になる5キロ電子ボルト付近で、偏光角が90度回転していることが分かりました。

マグネター4U 0142+61において観測されたX線の偏光度と偏光角の分布の図

図1 マグネター4U 0142+61において観測されたX線の偏光度と偏光角の分布

×、★はそれぞれ別の方法で解析した偏光度と偏光角を示す。偏光度は低エネルギー側(2~3キロ電子ボルト)では約15%であり、5キロ電子ボルト付近でいったん0%近くまで低下した後、高エネルギー側(5.5~8キロ電子ボルト)では約30%まで上昇した。偏光角は、低エネルギー側(2~4.8キロ電子ボルト)と高エネルギー側(4.8~8キロ電子ボルト)でちょうど90度方向が異なり、偏光度が0%になる5キロ電子ボルト付近で90度回転した。


観測前、多くの研究者は、X線のエネルギーの高低により偏光角が大きく変わるとは予想していませんでした。電磁波の偏光が90度回転するというのは特徴的で、5キロ電子ボルトより低エネルギー側と高エネルギー側で全く異なる成分のX線放射が起きていることを示しています。中性子星表面の温度を考慮すると、低エネルギー側のX線放射は中性子星表面からのもので、その一部が中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子と散乱し、エネルギーを受け取ることで、高エネルギー側のX線放射を生み出していると考えられます(図2)。これはマグネターが超強磁場を持つとした理論モデルの一つで、うまく説明することできます。

マグネターから放射されたX線が偏光するメカニズムの図

図2 マグネターから放射されたX線が偏光するメカニズム

中性子星の表面からは、磁力線に平行に偏光する低エネルギーX線が放射される。この低エネルギーX線の一部は放射される途中で、中性子星の磁気圏で加速された荷電粒子と散乱することでエネルギーを受け取り、磁力線に垂直に偏光する高エネルギーX線となる。黒矢印は磁力線を表している。


低エネルギー側の偏光度がこれほど低いことも、多くの研究者は予想していませんでした。マグネターの表面には大気が存在すると考えられており、超強磁場中の大気が効率良くX線偏光を生み出すために、偏光度は80~100%になると予想されていました。今回の低エネルギーX線が約15%の偏光度を持つという観測結果は、中性子星表面の物質が超強磁場により凝縮状態[7]になっているとした理論モデルの結果と一致しています。つまり、マグネター表面には大気は存在せず、超強磁場により凝集された固体地殻が宇宙空間にむき出しになっている可能性が高いことが観測から明らかになりました。

今後の期待

本研究では、IXPE衛星によるマグネターのX線偏光観測を初めて成功させ、観測から得た偏光度と偏光角の結果が、超強磁場を仮定した理論モデルの結果と合致していることから、マグネターに超強磁場が存在する証拠を得ました。また、マグネターの表面は超強磁場によって凝縮状態にあることを示しました。これまでとは違う切り口の観測ができたのは、新しい宇宙の観測手段であるX線偏光が捉えられるようになったからにほかなりません。

130億テスラもの強い磁場は、地球上では決して実現することができません。マグネターは、私たちの知っている電磁気学の枠組みが、身の回りの世界だけでなく、超強磁場中でも本当に成り立っているのかの検証にも使えると期待できます。宇宙は天然の実験場を提供してくれるのです。

これまでにデータ解析を終えたのは4U 0142+61のみです。IXPE衛星プロジェクトでは今後、4U 0142+61以外のいくつかのマグネターの観測を予定しており、サンプル数が増えることにより、中性子星の超強磁場や中性子星の表面状態についての理解がより深まると期待できます。また、IXPE衛星によるX線偏光観測はマグネターのみならず、ブラックホールや他の種族の天体においても実施されています。今後1~2年で、これまで他の方法で見ることができなかった新しい宇宙の姿を、私たちに見せてくれると期待できます。

補足説明

1.中性子星
太陽質量の10~30倍程度の恒星が、一生の最後に大爆発した後に残される、宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、太陽の1.4倍程度の質量を持つ。ブラックホールと異なり、半径10km程度の表面が存在する。一般に強い磁場を持つものが多い。

2.マグネター(磁石星)
中性子星の一種であり、10秒程度の自転周期を持ち、主にX線で輝く天体。100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されており、磁気エネルギーを解放することで輝くと考えられている。

3.X線の偏光、偏光度、偏光角
偏光とは電磁波の持つ性質の一つである。電磁波は電場と磁場が交互に波打ち、空間を伝わる。電磁波の偏光は、波の電場がどのくらい偏っているのかの度合いを表す「偏光度」と、偏りの方向を表す「偏光角」の二つの情報からなる。例えば、電球などから放射される電磁波は、電場があらゆる方向を向いて偏っていないため、無偏光である。X線も目で見える光(可視光)と同じ電磁波なので、偏光という性質を持つ。多くの天体から放射されるX線は、波の振動する面がほとんど偏らない無偏光であるが、特殊な状況で放射されたX線は振動面が偏り、偏光したX線となる。偏光度は0%(無偏光)から100%までの値を取り、偏光角は-90度から+90度までの値を取る。

4.X線偏光観測衛星IXPE
2021年12月9日に米国航空宇宙局(NASA)とイタリア宇宙機関(ASI)によって打ち上げられた、世界初の高感度X線偏光観測衛星。日本グループは、主要観測装置の一部を提供するとともに、マグネターをはじめとするさまざまな天体のX線偏光観測とデータ解析に参加している。IXPEはImaging X-ray Polarimetry Explorerの略である。

5.X線偏光計
X線の偏光を捉えることができる検出器。目で見える光(可視光)は波としての性質が強いため、市販されている偏光板でも容易に偏光が観測できるが、天体からのX線は波の性質が弱く、その量子性が強く見える(光子)ため、単純な偏光板は使えない。アインシュタインが光量子仮説により説明した「光電効果」を利用する、特殊な計測装置を用いる。

6.電子ボルト
光の持つエネルギーの単位。可視光の光子1粒が持つエネルギーは1電子ボルト程度であり、X線の光子1粒が持つエネルギーはその1,000倍以上の1キロ電子ボルト程度である。

7.凝縮状態
中性子星の超強磁場により、中性子星表面にある物質が磁力線に沿って閉じ込められ、一列に並んだ分子鎖を作る状態のこと。表面にある物質は、最も安定な元素である鉄が有力だと考えられているが、今後のさらなる研究が期待されている。

国際共同研究グループ

理化学研究所
開拓研究本部
玉川高エネルギー宇宙物理研究室
主任研究員 玉川 徹(タマガワ・トオル)
(仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室 室長)
研究員 北口 貴雄(キタグチ・タカオ)
榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム
理研白眉研究チームリーダー 榎戸 輝揚(エノト・テルアキ)
仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室
研修生 内山 慶祐(ウチヤマ・ケイスケ)
(東京理科大学大学院 理学研究科 博士課程学生)

山形大学 理学部
教授 郡司 修一(グンジ・シュウイチ)

大阪大学大学院 理学研究科
准教授 林田 清(ハヤシダ・キヨシ)

中央大学 理工学部
助教 岩切 渉(イワキリ・ワタル)

名古屋大学大学院 理学研究科
講師 三石 郁之(ミツイシ・イクユキ)
名誉教授 田原 譲(タワラ・ユズル)

広島大学 宇宙科学センター
准教授 水野 恒史(ミズノ・ツネフミ)

パドヴァ大学(イタリア)物理・天文学科
教授 ロベルト・トゥローラ(Roberto Turolla)
研究員 ロベルト・タヴェルナ(Roberto Taverna)

上記機関のほか、国立天体物理学研究所INAF宇宙天体物理・惑星科学研究所(イタリア)、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)、ロンドン大学(英国)、ピサ大学(イタリア)、イタリア国立核物理研究所INFNトリノ、INFNフィレンツェ、INFNローマ、INAFカリャリ天文台、INAFローマ天文台、INAF アルチェトリ天文台、INAFブレラ天文台、ウォルター・バーク理論物理学研究所(米国)、スタンフォード大学(米国)、テュービンゲン大学(ドイツ)、ワシントン大学(米国)、メリーランド大学(米国)、NASAゴダード宇宙飛行センター(米国)、NASAマーシャル宇宙飛行センター(米国)、マサチューセッツ工科大学(米国)、アンダルシア天体物理学研究所(スペイン)、イタリア宇宙庁宇宙科学データセンター、ローマ・トレ大学(イタリア)、トリノ大学(イタリア)、フィレンツェ大学(イタリア)、チェコ科学アカデミー天文研究所、カリフォルニア工科大学(米国)、ボストン大学(米国)、サンクトペテルブルク大学(ロシア)、フィンランド天文センター、トゥルク大学(フィンランド)、ストラスブール大学(フランス)、香港大学、ペンシルベニア州立大学(米国)、ロシア宇宙科学研究所、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(米国)、ローマ・トル・ヴェルガータ大学(イタリア)、アムステルダム大学(オランダ)、広西大学(中国)が参加。

研究支援

本研究は、科学研究費助成事業基盤(S)「X線・ガンマ線偏光観測で開拓する中性子星超強磁場の物理19H05609(研究代表者:玉川 徹)」、同基盤研究(C)「X線偏光測定による宇宙ジェットのエネルギー源の解明(19K03902、研究代表者:北口 貴雄)」、同基盤研究(A)「X線偏光観測による回転するブラックホールの時空構造の解明(19H00696、研究代表者:郡司 修一)」、稲盛財団研究助成(三石 郁之)、小笠原科学技術振興財団一般研究助成事業(三石 郁之)、ウシオ電機株式会社寄付金(三石郁之)による助成を受けて行われました。

原論文情報

Roberto Taverna, Roberto Turolla, Fabio Muleri, Jeremy Heyl, Silvia Zane, Luca Baldini, Denis González-Caniulef, Matteo Bachetti, John Rankin, Ilaria Caiazzo, Niccolò Di Lalla,Victor Doroshenko, Manel Errando, Ephraim Gau, Demet Kırmızıbayrak, Henric Krawczynski, Michela Negro, Mason Ng, Nicola Omodei, Andrea Possenti, Toru Tamagawa, Keisuke Uchiyama, Martin C. Weisskopf, Ivan Agudo, Lucio A. Antonelli, Wayne H. Baumgartner, Ronaldo Bellazzini, Stefano Bianchi, Stephen D. Bongiorno, Raffaella Bonino, Alessandro Brez, Niccolò Bucciantini, Fiamma Capitanio, Simone Castellano, Elisabetta Cavazzuti, Stefano Ciprini, Enrico Costa, Alessandra De Rosa, Ettore Del Monte, Laura Di Gesu, Alessandro Di Marco, Immacolata Donnarumma, Michal Dov iak, Steven R. Ehlert, Teruaki Enoto, Yuri Evangelista, Sergio Fabiani, Riccardo Ferrazzoli, Javier A. Garcia, Shuichi Gunji, Kiyoshi Hayashida, Wataru Iwakiri, Svetlana G. Jorstad, Vladimir Karas, Takao Kitaguchi, Jeffery J. Kolodziejczak, Fabio La Monaca, Luca Latronico, Ioannis Liodakis, Simone Maldera, Alberto Manfreda, Frédéric Marin, Andrea Marinucci, Alan P. Marscher, Herman L. Marshall, Giorgio Matt, Ikuyuki Mitsuishi, Tsunefumi Mizuno, Stephen C.-Y. Ng, Stephen L. O’Dell, Chiara Oppedisano, Alessandro Papitto, George G. Pavlov, Abel L. Peirson, Matteo Perri, Melissa Pesce-Rollins, Maura Pilia, Juri Poutanen, Simonetta Puccetti, Brian D. Ramsey, Ajay Ratheesh, Roger W. Romani, Carmelo Sgrò, Patrick Slane, Paolo Soffitta, Gloria Spandre, Fabrizio Tavecchio, Yuzuru Tawara, Allyn F. Tennant, Nicholas E. Thomas, Francesco Tombesi, Alessio Trois, Sergey S. Tsygankov, Jacco Vink, Kinwah Wu, Fei Xie, “Polarized x-rays from a magnetar”, Science, 10.1126/science.add0080

発表者

理化学研究所
開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
主任研究員 玉川 徹(タマガワ・トオル)
(仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室 室長)
仁科加速器科学研究センター 高エネルギー宇宙物理研究室
研修生 内山 慶祐(ウチヤマ・ケイスケ)
(東京理科大学大学院 理学研究科 博士課程学生)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
東京理科大学 経営企画部 広報課

コメント

タイトルとURLをコピーしました