北海道より「苫前鉱(とままえこう)」を発見~プラチナを主成分とする新鉱物~

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2022-09-08 東京大学

  • 苫前町で採集された砂白金からプラチナを主成分とする新種の鉱物(新鉱物)を発見し、「苫前鉱(とままえこう、学名:Tomamaeite)」と命名した。
  • 北海道で産出する砂白金から、苫前鉱を含む40種を超える白金族鉱物が見いだされ、北海道産の砂白金は単純ではなく、多様な鉱物の集合体であることが明らかとなった。
  • 天然におけるプラチナの存在様式の一つが明らかとなった。
発表概要:

東京大学物性研究所の浜根大輔技術専門職員はアマチュア鉱物研究家の斎藤勝幸氏と共同で、北海道で産出する砂白金(図1、注1)から40種を超える白金族鉱物を見いだし、砂白金は多様な鉱物の集合体であることを明らかにしました。また、苫前町で採集された砂白金には新種の鉱物(新鉱物)が含まれることを、電子顕微鏡による化学組成分析と結晶構造解析によって突き止め、発見地にちなんで「苫前鉱(とままえこう、学名:Tomamaeite)」と命名しました。

苫前鉱はプラチナを主成分とする新鉱物です。本鉱物は、現代社会において触媒や電極など工業的に重要な役割を果たしているプラチナが、天然ではどのように存在しているかを示す、答えの一つを体現した鉱物になります。

本研究の成果は日本鉱物科学会が発行する学術雑誌「Journal of Mineralogical and Petrological Sciences」の2022年9月8日号に掲載されました。

図1: 本研究の調査地域で得られた砂白金(左右3cm)
砂白金は一様な粒子に見えていても、多様な白金族鉱物が包有されていることが非常に多い。

発表内容:
①研究の背景

日本では明治中期に北海道において砂白金の産出が初めて確認されたのち、しばらくは砂金に混じる不純物として廃棄されていましたが、大正期に入ると万年筆のペンポイントへの利用法が開発されたことから積極的に採掘されるようになりました。その後、戦時中には触媒の原料とするために数十万人を使役した大規模な開発が行われ、北海道の砂白金はやみくもに消費され尽くしてしまいました。その結果、近代においてはもはや研究試料が手に入りづらくなってしまい、自国から産出する砂白金がどのような鉱物で構成されているかについてすら、理解があまり進まなかった経緯があります。

本研究チームは戦時中の乱獲を免れた砂白金鉱床が北海道北西部に残っていることを期待し、探索を行いました。その結果、南北に70km、東西に30kmの範囲にまたがった調査において計8か所で砂白金を採取することに成功しました。その砂白金を用い、北海道の砂白金がどのような鉱物で構成されているのかについて本格的な調査を始めることにしました。

②研究内容

砂白金は表面だけでなく内部まで詳細に調査されました。その調査の要となったのが電子顕微鏡であり、物性研究所電子顕微鏡室に設置されている走査型と透過型の電子顕微鏡が活躍しています。結果的に砂白金から40種を超える白金族鉱物が見いだされ、日本の砂白金は決して単純ではなく、実に多様な鉱物で構成される集合体であることが明らかとなりました。

苫前鉱も砂白金を構成する鉱物の一つで、苫前町の海岸で採集された砂白金に包有される最大20μm程度の微細粒子として見つかりました。それはプラチナと銅が1:3となる化学組成であることが走査型電子顕微鏡による分析で明らかとなり、そのような化学組成をもつ鉱物はこれまで知られておらず、新種の可能性が浮かびあがりました。
そこで、より詳細に調べるため本鉱物の結晶構造解析を行いました。一般に、20μm程度以下の大きさしかない鉱物の結晶構造を明らかにすることは、たいへん難しい課題です。本研究では、それよりも小さい大きさであっても観察できる透過型電子顕微鏡を用いて、電子線回折や高分解能像を取得・解析することによって、苫前鉱の結晶構造を明らかにすることに成功しました(図2)。苫前鉱の結晶構造のイメージは、立方体の角にプラチナを置いて各面の中央に銅を置いた姿に一致します。

本結果を、国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名分類委員会に鉱物学的な証明と命名の理由(注2)を添えた申請書を提出し、審査(注3)を経て「苫前鉱」が正式に承認されました。

fig2

図2: 苫前鉱を含む砂白金(a)、苫前鉱が密集する箇所の走査型電子顕微鏡写真(b)、苫前鉱の透過型電子顕微鏡写真(c)とそのシミュレーション像(cインセット)、および苫前鉱の結晶構造(d)。
苫前鉱は砂白金(a)を構成する鉱物の一つで、最大で20μm程度の不定形な微細粒子として含まれており(b)、透過型電子顕微鏡を用いて主成分であるプラチナ(Pt)と銅(Cu)の配列が観察された(c)。その結晶構造はサイコロのような立方体の隅にプラチナ原子を置き、面の中央に銅原子を置いた姿となる(d)。

③社会的意義・今後の予定

プラチナは装飾品に多く利用されるほか、触媒としても工業的に多方面で用いられる重要な元素です。一方で、プラチナは天然に産出する鉱物から抽出されたものであり、どういう鉱物にどのように存在するかを明らかにすることは、鉱物学上で重要な課題であるとともに、資源のあり方を見つめるうえで社会的にも重要なテーマです。苫前鉱はプラチナの天然における新しい存在様式であるために、それを生み出したユニークな地質環境があったと考えられます。今後はその解明や未知の鉱物の発見に取り組んでいきたいと考えています。

発表雑誌:

雑誌名:Journal of Mineralogical and Petrological Sciences (2022) 117:009
論文タイトル:Platinum-group minerals in the placer deposit in northwestern Hokkaido, Japan: description of a new mineral, tomamaeite
著者:Daisuke Nishio-Hamane*, Katsuyuki Saito
DOI:https://doi.org/10.2465/jmps.220309

用語解説:
(注1)砂白金:
漂砂として堆積した、白金族元素を主成分とする鉱物を主体とする銀白色の粒子。一般には数mm程度以下の大きさで不定形であることが多いが、ごくまれに六角形など規則的な形状を示す。その一粒が単一の鉱物である場合や、複数の鉱物から構成された集合体の場合がある。
(注2)命名の理由:
新鉱物は鉱物学的なデータの内容だけでなく、命名の適切性や理由もまた審査される。このたびは苫前町で発見されたことから苫前鉱としたい旨を申請書に記し、公式に認められた。なお苫前(とままえ)についてはアイヌ語で「トマ・オマ・イ(エゾエンゴサクの・ある・ところ)」が由来とされている。
(注3)新鉱物の審査:
鉱物の新種(新鉱物)は論文での発表に先立って、国際鉱物学連合の新鉱物・鉱物・命名分類委員会において審査され、その承認を得る必要がある。
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