半導体ウエハー面内の転位分布・ひずみ分布の可視化に成功~半導体製造における検査工程の利便性向上や効率化に貢献~

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2022-06-30 新エネルギー・産業技術総合開発機構,名古屋大学,Mipox株式会社

NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」で名古屋大学原田俊太准教授(未来材料・システム研究所)とMipox(株)は、半導体基板を製造する際に発生する結晶欠陥(転位)をカウントするシステムの構築と、ウエハー全体の転位やひずみの分布を直感的に分かりやすく表示するヒートマップ表示機能の開発に成功しました。従来は転位部分を機械的に抽出できず、観察した像の定量的な評価が困難でしたが、本成果により、グレーのコントラストで形成された画像の中から転位の位置情報を抽出し、転位の数密度や分布の様子をカラースケールで可視化(ヒートマップ表示)することが可能になりました。これにより、半導体製造における検査工程の利便性や業務効率の向上に大きく貢献します。

なお、Mipox(株)は今回開発した二つの機能を組み合わせて、Mipox(株)の製品であるSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」に実装しました。

今回開発した転位カウントシステムとヒートマップ表示機能を実装したSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」の写真

図1 今回開発した転位カウントシステムとヒートマップ表示機能を実装した
SiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」

1.概要

NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、産学連携に取り組む若手研究者を支援する「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)※1」を実施しています。本事業の一環で、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の原田俊太准教授は、Mipox株式会社と共に非破壊・低コストで半導体結晶ウエハー内部の結晶欠陥(転位※2)を可視化し、製品の耐圧特性を劣化させる欠陥(キラー欠陥)を自動検査するシステムの共同研究を行い、転位をカウントするシステムの構築と、ウエハー全体の転位やひずみ※3の分布を直感的に分かりやすく表示するヒートマップ表示機能の開発に成功しました。

炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワー半導体※4デバイスは、家電製品から次世代自動車、鉄道、送配電機器まで幅広く搭載されている電力変換器の効率向上や小型化を実現できると期待されていますが、パワー半導体基板を製造する際には多くの転位が含まれることがあります。これらはキラー欠陥となり得るため、検査によって欠陥の領域や密度を的確に把握する必要がありますが、製品品質の確保とコストの観点から、高精度・高効率の欠陥検査技術が求められています。従来の技術では、転位部分を機械的に抽出できず、観察された像の定量的な評価が困難でした。本成果によりグレースケールのコントラストで形成された転位の位置情報を抽出して計数し、転位の数密度や分布の様子をカラースケールで可視化し定量化することが可能になりました。本成果は、パワー半導体ウエハーの検査コストを低減するとともに、利便性や業務効率の向上に大きく貢献します。

そのうえで、Mipox(株)は同社の製品であるSiC結晶転位高感度可視化装置「XS-1 Sirius」にこれら二つの成果をベースとした機能(転位カウント・ヒートマップ表示)を実装しました。これにより、ウエハーに含まれる転位の数を95%以上の検出率で測定することに成功しました※5。また、これらの新機能を撮像とマルチタスクで処理させることで検査時間を短縮し、ウエハーの全面検査において3インチウエハーで約4分、4インチで約7分、6インチ約15分という高速検査能力を実現しました。

2.今回の成果
(1)転位カウントシステムの構築

グレースケールで観察される像の中から転位の位置を特定しカウントするシステム※6を構築しました。転位の可視化には、偏光に伴う結晶特有の複屈折特性(レタデーション)※7を利用した偏光観察の技術とMipox(株)独自のリアルタイム位相演算処理を用います。観察される像はグレースケールによるコントラストとして形成されるため従来技術では背景と転位のコントラストの切り分けが困難でしたが、独自の画像処理フィルターを開発することにより貫通転位※8が形成するコントラストを選択的に抽出することを可能にしました。

図2 転位カウントシステムによる貫通転位の抽出の様子の写真

図2 転位カウントシステムによる貫通転位の抽出の様子

(2)ヒートマップ表示機能の開発

転位カウントシステムのカウント結果を活用し、ウエハー全体の転位の数密度やひずみの分布を直感的に分かりやすく表示するヒートマップ表示機能を開発しました。この機能ではウエハー中の転位密度や表示領域内のひずみの強弱をカラースケールで可視化します。これらは、半導体ウエハーや単結晶試料[SiC、GaN、ダイヤモンド、窒化アルミニウム(AlN)、サファイアなど]の内部の転位の観察、ウエハー内部のひずみの観察、エピウエハー内部の転位の観察へ活用できます。

図3 4インチSiCウエハーに含まれる貫通転位の数のヒートマップ表示の画像。 赤が貫通転位の多い領域、青が貫通転位の少ない領域となり、 ウエハー内での転位の分布が分かりやすく可視化される。

図3 4インチSiCウエハーに含まれる貫通転位の数のヒートマップ表示。
赤が貫通転位の多い領域、青が貫通転位の少ない領域となり、
ウエハー内での転位の分布が分かりやすく可視化される。

3.今後の予定

NEDOは引き続き、「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」による支援を行い、若手研究者の育成と半導体結晶検査装置の機能向上を通じた半導体製造技術の発展に貢献します。

【注釈】
※1 官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)
  • 事業名:共同研究フェーズ(環境・エネルギー分野)
    半導体製造の生産性を向上させるキラー欠陥自動検査システムの開発
  • 事業期間:2020年度~2022年度
  • 事業概要:若手研究者産学連携プラットフォーム
※2 転位
結晶欠陥の一種で、結晶格子内で線状の原子変位を伴う格子欠陥のことです。転位線と滑りの方向が垂直な転位を刃状転位、平行な転位をらせん転位と言います。
※3 ひずみ
固体中に力などが加わることなどによって生じるわずかな変形のことです。
※4 パワー半導体
電力の制御や変換を行う半導体の総称で、特に高電圧・大電流を扱うことのできる半導体です。近年では電力の無駄を極力少なくし、省エネ・省電力化に貢献するパワー半導体の需要がより高まっています。
※5 ウエハーに含まれる転位の数を95%以上の検出率で測定することに成功
A. Kawata, K. Murayama, S. Sumitani and S. Harada, Design of automatic detection algorithm for dislocation contrasts in birefringence images of SiC wafers, Jpn. J. Appl. Phys. 60(Sb) (2021).
※6 転位の位置を特定しカウントするシステム
原田俊太ほか、特願2020-053096「結晶欠陥評価方法及び結晶欠陥評価装置」
※7 偏光に伴う結晶特有の複屈折特性(レタデーション)
複屈折を持つ面に偏光を入射すると屈折率差により位相差が生じます。これをレタデーションと言います。このレタデーションを干渉パターンとして可視化することで転位の観察が可能になります。
※8 貫通転位
転位のうち転位線が結晶のc面を貫通するものです。半導体デバイスの性能・歩留まり劣化の原因であるキラー欠陥の一つと考えられています。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新領域・ムーンショット部 担当:板坂

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所
担当:原田

Mipox株式会社 担当:村山

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、坂本、橋本、鈴木

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