年間を通じた間断かんがいで農家の利益向上と 温室効果ガスの削減が可能に~メコンデルタにおける間断かんがい技術のメリットをLCAで評価~

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2022-06-23 国際農研

ポイント

  • メコンデルタにおいて、間断かんがい(AWD)の通年実施のメリットを評価
  • AWD実施農家は、通年で6%の増益、かつ38%の温室効果ガス(GHG)排出量の削減が可能
  • 農家の増益を実現しつつ、GHG排出を削減できるコベネフィットな技術1)として、アジアモンスーン地域2)への展開に期待

概要

国際農研は、ベトナム・メコンデルタの農村地域において、湛水と落水を繰り返す間断かんがい(AWD: Alternate Wetting and Drying)実施による農家の利益と温室効果ガス(GHG: Greenhouse gas)排出量削減の効果を、ライフサイクルアセスメント(LCA3):Life-Cycle Assessment)により評価しました。
本研究成果は、ベトナム・メコンデルタに位置するアンジャン省で稲作農家を対象に、AWD実施による農家の利益とGHG排出量を各作付け時期および通年で算定した結果、年間を通じてAWDを実施した場合、農家の利益はAWD未実施農家と比べ6%増益すること、また、GHG排出量は38%削減することを明らかにしました。
年間を通じたAWDの実施は、農家の増益と農業からの環境負荷軽減を両立するコベネフィットな農業システムであり、アジアモンスーン地域における気候変動の有望な緩和策および適応策として期待されます。

本研究の成果は、科学雑誌「Journal of Cleaner Production」オンライン版(日本時間2022年4月4日)に掲載されました。

関連情報
予算
運営費交付金プロジェクト「開発途上地域を対象とした農業分野の総合的気候変動対応技術の開発
発表論文
論文著者
A Leon, T Izumi
論文タイトル
Impacts of alternate wetting and drying on rice farmers’profits and life cycle greenhouse gas emissions in An Giang Province in Vietnam
雑誌
Journal of Cleaner Production
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jclepro.2022.131621
問い合わせ先など

国際農研(茨城県つくば市)理事長 小山 修
研究推進責任者:国際農研 プログラムディレクター 林 慶一
研究担当者:国際農研 社会科学領域 レオン 愛
国際農研 農村開発領域 泉 太郎
広報担当者:国際農研 情報広報室長 大森 圭祐
本資料は、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、筑波研究学園都市記者会に配付しています。

※国際農研(こくさいのうけん)は、国立研究開発法人 国際農林水産業研究センターのコミュニケーションネームです。
新聞、TV等の報道でも当センターの名称としては「国際農研」のご使用をお願い申し上げます。

開発の社会的背景

ベトナム南部に位置するメコンデルタは、肥沃な低地が広がり降水量も多く、国内最大の水稲作地域です。近年、イネの品種改良や氾濫防止用の高堤防整備によって、三期作栽培が行われるようになり、コメの作付面積が拡大しています。作付面積の拡大は、食料需要に応える有効な手段ですが、メタンをはじめとするGHG排出と水需要への対応策が求められています。
水田では、土壌内部が酸素のない嫌気的な環境になるため、嫌気性微生物の働きによりメタンが生成され、大気に放出されます。日本国内では、イネの生育途中に落水して土壌を乾かす中干し4)を行うことでメタン発生の抑制効果があることは知られています。一方、AWDは、播種後10~20日目までの10日間、施肥時期と開花期を除き、落水により水田の土壌を地表面から15cm程度乾燥させた後、5cm程度湛水する作業を一作期中に数回繰り返す水管理技術です(図1)。これによって土壌に酸素が供給され、メタン排出量が抑制されることから、多期作を行うアジアモンスーン地域では、かんがい水使用量とGHG排出量を同時に減らす技術として注目されています。

研究の経緯

国際農研は、みどりの食料システム戦略5) や、グローバル・メタン・プレッジ6) などを踏まえ、気候変動適応に貢献するためにアジアモンスーン地域でのAWDの更なる普及を目指した研究を実施しています。
これまで、メタン削減、かんがい用ポンプ運転経費削減や収量増加など、AWD実施によるメリットは、国際農研をはじめ多くの研究者により報告されてきました。一方、AWDのデメリットとして、一酸化二窒素(N2O)の増加や雨季の排水用ポンプ運転経費の増加が報告されています。しかし、農家の利益やGHG排出への影響を包括的に考慮した評価はほとんど行われておらず、AWDを通年実施するメリットは明らかではありませんでした。
そこで、国際農研では、ベトナム・メコンデルタに位置するアンジャン省の農家調査データを用い、各作付け時期および通年のAWD実施による農家利益とライフサイクル温室効果ガス(LC-GHG7): Life-Cycle Greenhouse gas)へのインパクト評価を行いました(図2)。

研究の内容・意義

  1. 2019~2020年における、夏秋作(早期雨季:栽培期間4月~8月)、秋冬作(後期雨季:栽培期間7月~11月)、冬春作(乾季:栽培期間11月~4月)の収穫後に、AWD実施・未実施農家それぞれ100戸、合計600戸(1,643ha)の農家を対象に調査を実施しました。調査では、各生産管理で発生する農業資材、農機具、燃料、賃金などを含む生産費と売り上げに関するデータを収集しました。
  2. 標本平均値に基づくと、生産管理費については、AWD実施農家の場合、水管理費や肥料費のコストが抑えられていました(図2)。
  3. AWDを実施した農家の利益は、未実施農家に比べ、夏秋作14%、秋冬作3%、冬春作1%、年間を通して6%増益することが算定されました(図3)。
  4. また、LCAに基づいたLC-GHG評価により、AWD実施農家では、夏秋作40%、秋冬作37%、冬春作35%、年間を通して38%のGHG排出量の削減が可能になることも明らかになりました(図4)。
  5. 作付け時期による農地管理の違いを考慮しても、AWD実施農家は未実施農家に比べ、利益が得られる一方で、LC-GHGの削減が可能になることから、年間を通してAWDを実施するメリットを示すことができました。

今後の予定・期待

水田稲作からのメタン排出削減が課題となっている中、本研究で得られた結果は、通年のAWD実施効果を裏付ける資料として用いることができます。
通年のAWD実施は、アジアモンスーン地域における農家の増益と農業からの環境負荷軽減を両立するコベネフィットな農業システムの構築に貢献し、気候変動の緩和または適応効果にも期待できます。

用語の解説
1) コベネフィットな技術
国際農研が実施している気候変動対応プロジェクトでは、気候変動対策と増収・安定生産による農家へのひ益のいずれにも貢献する技術を指し、気候変動対策と農家への利益の双方の実現を目指しています。
2) アジアモンスーン地域
南アジア、東南アジア、東アジアを含む地域です。この地域のコメの生産量は、アジア全体の99.7%を占めています。
3) ライフサイクルアセスメント(LCA)
ある製品・サービスのライフサイクル全体(資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル)、または、その特定段階における環境への影響を定量的に評価する手法です。
4) 中干し
穂にならない茎(無効分げつ)を抑制するなどの目的で、田植えから概ね1ヶ月後(目標とする穂数の80%が確保された時期)に水田の水を抜き、1~2週間水田の土壌を乾かします。
5) みどりの食料システム戦略
食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現するため、中長期的な観点から戦略的に取り組む農林水産省の政策方針であり、令和3年5月12日に策定されました。
水田の水管理については、以下URLのp.24,p.25に「水田の水管理によるメタン削減」として掲載されています。
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-7.pdf
6) グローバル・メタン・プレッジ
米国と欧州連合が主導するメタン削減のための国際的な枠組みで、世界のメタン排出量を2030年までに2020年比で30%削減することを目標としています。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で発足し、日本を含め100を超える国・地域が参加しています。
7) ライフサイクル温室効果ガス(LC-GHG)
コメ生産の様々な段階で発生する総GHG排出量を意味します。本研究では、肥料など農業資材の製造から収穫作業・稲わら処理に至る各段階のGHG排出量を集計しています(図2)。

図1 常時湛水と間断かんがい(AWD)における一作期中の水管理(例)

図2 農家データを用いた農家の利益とライフサイクル温室効果ガスの計算

農家の利益は、売り上げから生産費用を差し引いて計算しました。農家の利益を計算するため、各生産管理で発生する農業資材、農機具、燃料、賃金などを含む生産費と売り上げに関するデータを用いました。温室効果ガスを計算するため、肥料などの農業資材の投入量、稲わらの処理、栽培日数、燃料使用量、機械稼働時間などのデータを用いました。
「ライフサイクル温室効果ガス」は、次の5つのGHG量の合計と定義しました。①肥料など農業資材の製造時に発生するGHG量、②整地・栽培・収穫・稲わら処理で使用される機械の燃料消費時に発生するGHG量、③嫌気性微生物により生成された土壌由来のメタン(CH4)発生量、④施肥窒素などによる土壌由来の一酸化二窒素(N2O)発生量と⑤稲わらの処理で発生するGHG量です。

図3 AWD未実施農家とAWD実施農家の生産費用

図4 AWD未実施農家とAWD実施農家の利益

*    純粋にAWD実施だけによる農家の利益の効果を見るために、肥料や農薬など、その他の利益に及ぼす影響要因を同じにして解析しています。

図5 AWD未実施農家とAWD実施農家のLC-GHG排出量

*    図4同様、純粋にAWD実施だけによるLC-GHG排出量の効果を見るために、肥料や農薬など、その他のLC-GHG排出量に及ぼす影響要因を同じにして解析しています。

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