2022-05-11 金沢大学,名古屋大学,国立極地研究所,電気通信大学
金沢大学理工研究域電子情報通信学系の尾﨑光紀准教授、八木谷聡教授、今村幸祐准教授、金沢大学学術メディア創成センターの笠原禎也教授、名古屋大学宇宙地球環境研究所の塩川和夫教授、三好由純教授、大山伸一郎講師、国立極地研究所の田中良昌特任准教授、小川泰信教授、片岡龍峰准教授、門倉昭教授、電気通信大学の細川敬祐教授らの共同研究グループは、オーロラ現象の地上観測から、宇宙で発生するコーラス電磁波(注1)の発生域における周波数特性を明らかにしました。
半世紀以上にわたり世界中の科学衛星は、地球周辺の宇宙でプラズマを加速させる自然電磁波のコーラス電磁波を調べています。コーラス電磁波は、地球周辺のプラズマを放射線になるまで加速させるだけでなく、地球磁力線に沿ってプラズマを地上へ降下させフラッシュオーロラ(注2)などの特殊なオーロラ現象を発生させます。コーラス電磁波は、電子ジャイロ周波数(注3)の半分を基準に、高周波コーラスと低周波コーラスに分かれて観測されています。コーラス電磁波の周波数により、コーラス電磁波が影響を与える電子エネルギーは異なります。このため、宇宙の発生域におけるコーラス電磁波の周波数分布を明らかにすることは、地球周辺プラズマ環境の理解に重要です。しかし、コーラス電磁波は発生域から離れて伝搬するため、科学衛星による電磁波観測だけでは発生域と発生域から離れた位置のコーラス電磁波の周波数分布を区別することが困難でした。
本研究グループは、コーラス電磁波に伴い発生するオーロラ現象であるフラッシュオーロラの時間特性から、宇宙のコーラス電磁波の周波数分布を調べました。低いエネルギーのオーロラを光らせる電子は地上に遅く到達、高いエネルギーの電子は地上に速く到達し、電子エネルギーはコーラス電磁波の周波数と関係するため、オーロラの時間特性から宇宙のコーラス電磁波を調べられると考えました。オーロラ観測とコンピュータによる数値計算を駆使し、宇宙の発生域において低周波から高周波までコーラス電磁波の周波数分布が連続であると、観測されたフラッシュオーロラの時間特性を再現することができました。つまり、衛星位置が発生域かどうかを特定することが難しかったため、衛星位置において低周波コーラスと高周波コーラスは、それぞれ分かれて観測されることがありましたが、コーラス電磁波の発生から伝搬までの全ての物理過程を含んだフラッシュオーロラを解析したからこそ、遠くの宇宙で発生するコーラス電磁波の周波数特性を詳細に明らかにすることができました。
コーラス電磁波は、地球だけでなく磁石になっている他の惑星でも観測されています。しかし、磁石になっている水星においてコーラス電磁波はまだ調べられていません。現在、水星に向けて宇宙空間を航行中の水星磁気圏探査機「みお」との電磁波観測と本研究で明らかとなった地球での知見を比較することにより、水星におけるコーラス電磁波の電子への影響が明らかになることが期待されます。本研究成果は、2022年5月11日9時(米国東部標準時間)に米国地球物理学連合の発行する論文誌『Geophysical Research Letters』に掲載されました。
図1:本成果の概要
研究の背景
オーロラの基となる電子は、磁石になっている地球の磁場によって、通常は大気中に降下することができず、オーロラは生じません。このため、オーロラを調べることは、オーロラの基となる電子がどのような物理過程を経て地上へ降下してきたかを知る重要な手がかりとなります。アラスカでは、わずか数百ミリ秒しか発光しない雲状のフラッシュオーロラが観測されており、これは、宇宙のコーラス電磁波によって電子が瞬時的に揺さぶられることで発生していることが明らかにされていました。しかし、コーラス電磁波は、発生域から離れて伝搬するため、発生域でどのような周波数分布を有するかはよく分かっていませんでした。
研究成果の概要
研究グループは、アラスカに設置したハイスピードカメラ(1秒間に100枚)で撮影された暗いフラッシュオーロラの時間変化をレベルセット法と呼ばれる輪郭形状進化を追跡できる画像処理法を用いて詳細に調べました。レベルセット法は、詳細な輪郭形状進化を追跡できる画像処理法として、医用画像処理、防犯カメラ処理などにも使われていますが、画像解析が複雑なため処理時間が莫大になり、ハイスピードカメラ画像への適用が困難でした。研究グループは、レベルセット法の高速化を図り、従来よりも雑音の影響を受けることなくオーロラを詳細に解析できるようにしました。
詳細な画像解析の結果、水面に滴る水滴がつくる波紋のように徐々に水平方向の大きさを拡大させながら、最大サイズに広がった後に徐々に縮小するような発光変化を示すオーロラでは、オーロラの縮小する時間が拡大する時間よりも平均で1.7倍も長くなることを見出しました(図2)。この要因を明らかにするために、電離圏(注4)でのフラッシュオーロラ発光がどのように変化するか、宇宙のコーラス電磁波の特性を変えながら数値計算を行いました。そして、観測されたように、フラッシュオーロラの縮小する時間が拡大する時間よりも長くなるには、宇宙の発生域で低周波コーラスと高周波コーラスの周波数分布が連続している必要があることを明らかにしました(図3)。高周波コーラスは、より低いエネルギーの電子に影響するため、発生域から地球までの移動速度が遅くなる低いエネルギーの電子がオーロラの縮小する時間を決めていたことになります。
図2:フラッシュオーロラの形状変化の様子(観測は縮小に要する時間が長い)
図3:フラッシュオーロラの数値計算結果。(上:低周波コーラスのみで生じるフラッシュオーロラ、下:低周波コーラスと高周波コーラスによって生じるフラッシュオーロラは観測された縮小時間が長くなる特徴を再現)
今後の展開
コーラス電磁波は、地球だけでなく、地球と同じように磁石となっている木星や土星などの太陽系の惑星で観測されています。太陽に最も近い水星も磁石になっていますが、まだコーラス電磁波は観測されていません。水星のコーラス電磁波の有無を調べるために、金沢大学などが開発に携わった電磁波観測器を搭載した水星磁気圏探査機「みお」が水星に向けて宇宙を航行中です。地球周辺宇宙では、同じく金沢大学が開発に携わった電磁波観測器を搭載するジオスペース探査衛星「あらせ」がコーラス電磁波の観測を継続しています。水星の磁場の強さは、地球に比べて1%ほどしかないため、地球と水星でコーラス電磁波による電子への影響がどのように変わってくるのかよく分かっていません。このため、地球と水星のコーラス電磁波の観測比較により、今後、さまざまな惑星におけるコーラス電磁波による電子の加速やオーロラ現象の物理過程解明への貢献が期待されます。
注
注1:コーラス電磁波
電子が磁力線に沿って、らせん運動することによって生じる自然電磁波のこと。
注2:フラッシュオーロラ
カーテン状に揺らめくオーロラと異なり、1秒以下の発光時間で突発的に発光する雲状のオーロラ現象のこと。
注3:電子ジャイロ周波数
電子が磁場に対して回転運動する周波数のこと。
注4:電離圏
高度約60~300kmにおける地球大気が電子とイオンに電離した電離気体の層のこと。
発表論文
掲載誌:Geophysical Research Letters
タイトル:Slow contraction of flash aurora induced by an isolated chorus element ranging from lower-band to upper-band frequencies in the source region(発生域で低周波帯から高周波帯まで変動する孤立コーラスエレメントによって引き起こされるフラッシュオーロラのゆっくりとした収縮)
著者:
尾﨑光紀(金沢大学)
八木谷聡(金沢大学)
塩川和夫(名古屋大学)
田中良昌(国立極地研究所)
小川泰信(国立極地研究所)
細川敬祐(電気通信大学)
笠原禎也(金沢大学)
海老原祐輔(京都大学)
三好由純(名古屋大学)
今村幸祐(金沢大学)
片岡龍峰(国立極地研究所)
大山伸一郎(名古屋大学)
千田哲平(金沢大学)
門倉昭(国立極地研究所)
URL:https://doi.org/10.1029/2021GL097597
DOI:10.1029/2021GL097597
論文出版日:2022年5月11日
研究サポート
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(JP15H05747, JP16H06286, JP20H02162)の支援を受けて実施されました。
お問い合わせ先
(研究内容について)
金沢大学理工研究域電子情報通信学系 准教授 尾﨑光紀
名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授 塩川和夫
名古屋大学宇宙地球環境研究所 教授 三好由純
名古屋大学宇宙地球環境研究所 講師 大山伸一郎
国立極地研究所 特任准教授 田中良昌
国立極地研究所 教授 小川泰信
国立極地研究所 准教授 片岡龍峰
国立極地研究所 教授 門倉昭
電気通信大学 教授 細川敬祐
(報道について)
金沢大学理工系事務部総務課総務係
名古屋大学 広報室
国立極地研究所 広報室
電気通信大学総務企画課広報係