分子で探るモアレの化学 ~「不整合二層炭素膜」を選んで組み上げ~

ad

2021-03-10 東京大学,科学技術振興機構

 

ポイント
  • 炭素膜2枚をずらして重ねることで生じる「モアレ(ずれの周期性)」は超伝導物質などの材料科学分野で注目されています。本研究では、この「モアレ」を「ナノカーボン分子」で実現することに世界で初めて成功しました。
  • 数種類の組み合わせが想定されるずらした構造のうち、特定の二層膜構造が選択的に得られることを発見しました。
  • 明確で一義的な構造を持つカーボンナノチューブ分子を用いたことで、定説とは異なる選択性が生じることが明らかとなりました。長い二層型カーボンナノチューブの研究からは知り得なかった事実です。

東京大学 大学院理学系研究科の磯部 寛之 教授の研究グループは、ずれから生じる周期性「モアレ」を、分子の世界に登場させました。最近、物理学分野で注目されている「モアレ(ずれの周期性)」を初めて分子で実現したものです。研究グループは、カーボンナノチューブの部分構造を持った分子を、大小2種類の筒状分子として設計・合成したところ、それらを混ぜるだけで二層型カーボンナノチューブが組み上がりました。用いた筒状分子には、それぞれ炭素の並びに「右巻き」と「左巻き」の種類があるため、原理的には、二層型カーボンナノチューブに、4種類の組み合わせが生じるはずです。しかし、実験的に得られた二層型カーボンナノチューブは「右巻きと左巻きの組み合わせ」のみでした。二層型カーボンナノチューブの組み上げの際に、構造の選択性が存在することを示す初めての発見です。さらに、生じた二層型カーボンナノチューブは、炭素の六角形の並びに「不整合」と呼ばれる「ずれ」があり、組み合わせる前にはなかった新しい周期性が出現しました。「不整合組み合わせ」は、新しい超伝導物質などとして、特にナノカーボンを扱う物理学、材料科学分野で注目されており、本成果は、こうした不整合性を分子の世界で実現できることを初めて明示したものです。今後の炭素材料が発展のために、重要な基礎的知見となることが期待されます。

本研究成果は、2021年3月10日(英国時間)に国際学術雑誌「Nature Communications」に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「磯部縮退π集積プロジェクト」および科学研究費助成事業の一環として進められました。X線回折による分子構造決定には、一部、大型放射光施設SPring-8の最先端設備が活用されています。

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Stereoselectivity in spontaneous assembly of rolled incommensurate carbon bilayers”
(不整合な筒状炭素二重層の立体選択的会合)
DOI:10.1038/s41467-021-21889-8
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
磯部 寛之(イソベ ヒロユキ)
東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 教授

松野 太輔(マツノ タイスケ)
東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻 助教

<JST事業に関すること>
加藤 豪(カトウ ゴウ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部

<報道担当>
東京大学 大学院理学系研究科・理学部
吉岡 奈々子(ヨシオカ ナナコ) 学術支援職員、飯野 雄一(イイノ ユウイチ) 教授・広報室長

科学技術振興機構 広報課

ad

1700応用理学一般
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました