2021-01-25 東京大学,金沢大学,理化学研究所,東北大学,科学技術振興機構
ポイント
- 世界最大の横磁気効果を持つ反強磁性体金属を発見しました。
- ワイル粒子と呼ばれる固体中の相対論的粒子が巨大な横磁気効果の起源であることを示しました。
- 漏れ磁場が少なく数百ガウスで磁化反転可能な反強磁性材料のため、高集積可能な新しい不揮発性メモリの材料として期待されます。
スマートフォンやタブレットなどの内蔵ストレージに採用されているメインメモリには、電源をオフにするとデータが失われる「揮発性メモリ」が使われており、データ保持に過度な電力消費をしてしまいます。消費電力削減のために、強磁性体の磁化方向を利用して電力供給せずともデータ保持が可能な不揮発性記憶素子を使用したメモリ開発が進んでいますが、今後急速に増える情報量とともに集積化が進めば、記憶素子間の漏れ磁場の影響によりメモリ容量の限界が来ると考えられています。
今回、東京大学 大学院理学系研究科の中辻 知 教授、見波 将 特任研究員と東京大学 物性研究所の冨田 崇弘 特任助教、Taishi Chen 特任研究員、Mingxuan Fu 特任研究員らの研究グループは、東北大学 大学院理学研究科の是常 隆 准教授、理化学研究所の北谷 基治 特別研究員、金沢大学 ナノマテリアル研究所の石井 史之 准教授、東京大学 大学院工学系研究科の有田 亮太郎 教授らの研究グループと協力して、マンガン化合物Mn3Geの反強磁性体において、これまでにないゼロ磁場での巨大な異常ホール効果を見いだし、同時にネルンスト効果と呼ばれる磁気熱量効果が反強磁性体の中で最大値を示すことを発見しました。
従来の強磁性体材料では磁化に比例した横磁気効果、すなわち異常ホール効果や異常ネルンスト効果が現れるのが一般的でしたが、従来の概念を打ち破り磁化がほぼない反強磁性体で従来の強磁性体金属と同程度のサイズの効果がゼロ磁場室温で見いだされました。従来の強磁性体の場合、自発磁化による漏れ磁場の影響がありましたが、反強磁性体の場合はスピンが反対向きにそろっているため全体のスピンが作り出す漏れ磁場はほとんどありません。特に、異常ホール効果は電流と垂直に得られる起電力応答のため素子構造が単純であること、マンガン化合物が二元系の廉価で毒性のない元素で構成されていることから不揮発性メモリ素子への展開が可能です。また反強磁性体材料は、理論的に強磁性体より高速動作が可能であることから、今後、消費電力を抑えたビッグデータの記録および高速処理をともに可能とする反強磁性不揮発性メモリ材料として期待できます。
本研究成果は2021年1月25日(英国時間)、国際科学誌「Nature Communications」オンライン版に掲載される予定です。
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)「トポロジカル材料科学に基づく革新的機能を有する材料・デバイスの創出」研究領域(研究総括:上田 正仁)における研究課題「電子構造のトポロジーを利用した機能性磁性材料の開発とデバイス創成」(課題番号:JPMJCR18T3、研究代表者:中辻 知)、CREST「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」研究領域(研究総括:谷口 研二、研究副総括:秋永 広幸)における研究課題「トポロジカルな電子構造を利用した革新的エネルギーハーヴェスティングの基盤技術創製」(課題番号:JPMJCR15Q5、研究代表者:中辻 知)、並びに文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域「J-Physics:多極子伝導系の物理」(課題番号:15H05882、研究代表:播磨 尚朝)における研究計画班「A01:局在多極子と伝導電子の相関効果」(課題番号:15H05883、研究代表者:中辻 知)、科研費「強相関物質設計と機能開拓-非平衡系・非周期系への挑戦-」(課題番号:16H06345)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) 「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/ワイル磁性体を用いた熱発電デバイスの研究開発」の支援を受けて行われました。
<論文タイトル>
- “Anomalous transport due to Weyl fermions in the chiral antiferromagnets Mn3X , X = Sn, Ge”
- DOI:10.1038/s41467-020-20838-1
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
冨田 崇弘(トミタ タカヒロ)
東京大学 物性研究所 量子物質研究グループ 特任助教
中辻 知(ナカツジ サトル)
東京大学 大学院理学系研究科 物理学専攻/東京大学 物性研究所 量子物質研究グループ/トランススケール量子科学国際連携研究機構 教授
<JST事業に関すること>
嶋林 ゆう子(シマバヤシ ユウコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ
<報道担当>
東京大学 大学院理学系研究科・理学部 広報室
東京大学 物性研究所 広報室
東京大学 大学院工学系研究科 広報室
金沢大学 総務部 広報室
理化学研究所 広報室
東北大学 大学院理学研究科・理学部 広報・アウトリーチ支援室
科学技術振興機構 広報課