生命が居住可能な系外惑星へのスーパーフレアの影響を算出

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ハビタブル惑星における宇宙線被ばくの定量化に成功

2019-07-16  日本原子力研究開発機構

概要

京都大学総合生存学館(思修館) 山敷庸亮 教授(筆頭著者)、国立天文台ハワイ観測所岡山分室 前原裕之 助教、アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センター(NASA/GSFC)Vladimir Airapetian博士・コロラド大学ボルダー校 野津湧太博士 (日本学術振興会海外特別研究員)、日本原子力研究開発機構(JAEA) 佐藤達彦 研究主幹、ライデン大学ライデン天文台 野津翔太博士 (日本学術振興会海外特別研究員)、京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室 佐々木貴教 助教、同附属天文台 柴田一成 教授らの国際共同研究グループは、太陽型恒星でのスーパーフレアの発生頻度とエネルギーおよび極紫外線を考慮した惑星放射線環境と大気散逸の定量的評価を世界で初めて行いました。また、フレアにより放出される高エネルギー宇宙放射線によって起こりうる地表面での被ばく量は、惑星が地球と同じ大気圧を備えている限り地球型生命にとって致命的なレベルにはならないことを明らかにしました。さらに、近年生命の居住可能性(ハビタブル)が議論されているプロキシマ・ケンタウリb(Proxima Centauri b)やトラピスト-I e(TRAPPIST-I e)などでは、惑星がより中心星に近い位置に存在することなどの理由で、大気散逸(大気が宇宙空間に流出すること)が地球に比して70倍前後になることから大気圧が十分ではなく、高エネルギー宇宙放射線が惑星表面に直接到達してしまうため、毎年 1 度発生する規模のフレアでも致命的な被ばくを受ける可能性があることが判明しました。したがって、これらの惑星においては、内部からのガス放出が継続するか、惑星磁場が形成されていない限り、ハビタブルであると評価することは困難であると考えられます。また、同じモデルを用いて観測史上最大級の太陽フレアが発生した場合の地球と火星における被ばく量を推定したところ、地球の方が太陽に近いものの強い磁場や大気に守られている分、被ばく量がはるかに小さくなることが分かりました。なお、生命の放射線耐性は種に大きく依存しますが、本研究では人間と同程度の耐性を持つ生命を想定しました。

本研究成果は、2019年7月中に米学術誌「The Astrophysical Journal」のオンライン版に掲載されます。

1.背景

生命体が居住可能な範囲(ハビタブル・ゾーン)に存在する太陽系外惑星(系外惑星) は、赤色矮星(M型星)の周囲で多く発見されています。これは、恒星の前を惑星が通過する際の減光を捉えるトランジット観測において、減光が大きく公転周期が短いために非常に発見が容易なためです。 そのため、ケプラー宇宙望遠鏡が役目を終えた今、次世代の惑星探査衛星TESS(トランジット系外惑星探索衛星)などの観測対象としてもっとも注目されています。 ところが、赤色矮星では頻繁にフレアが発生するため、これらの惑星では、フレアによる影響で生命が存在しないかもしれないという評価も多くありました。しかしながら今までは、実際のフレアの発生頻度やその規模、またフレアにより発生するコロナ質量放出(CME)に伴う惑星表面の宇宙放射線被ばく等において、定量的な評価はなされてきませんでした。その原因は、(1)系外惑星の主星におけるフレアの発生頻度と規模の評価が不十分であったこと、(2)ある一定規模のフレアが発生したとき、周回する惑星にどれくらいの影響が生ずるのかについて定量的な評価を行う手法が確立していなかったこと、(3)系外惑星の大気環境や磁場環境が不明確であったこと、(4)系外惑星の主星から出る宇宙放射線のスペクトルが不明であること、(5)一連のプロセスを統合的に評価できるシステムがないこと、が理由としてあげられます。

2.研究手法・成果

今回、本研究グループは、上記の五つの問題点を以下のような取り組みによって解決しました。

  1. (1)黒点面積および自転速度などの系外惑星の主星の観測情報と、従来のケプラー宇宙望遠鏡および関連の観測結果を用いて、それぞれの主星のフレアの発生頻度と規模を、(a)1年に1度のフレア、(b)観測された黒点に対する最大のフレア、(c)その温度条件で発生しうる(星の一生に一度観測される)最大のフレアに分けて、そのエネルギーの定量化を行なった。
  2. (2)電磁流体力学シミュレーション(MHD)や観測から推定されるCMEの飛行経路に基づいて、惑星の公転軌道面からの広がりの角度と、水平に飛散する方向を考慮して、惑星の主星からの距離や位置に従ってCMEによる宇宙放射線強度の比を算出する定式化を行い、簡単な計算でおおよその比率を求める工夫を行なった。
  3. (3)系外惑星の大気として想定される3つの代表的な大気組成(N2+O2, CO2, H2)を想定し、また地球規模の双極子磁場(二つの極が生む磁場)がある場合と、磁場がない場合などを想定し、放射線輸送計算コードPHITSを用いて大気中の宇宙放射線挙動を詳細に解析して想定被ばく量を定量化した。
  4. (4)過去に観測された太陽CMEで最も大気中の透過力の高かったイベント(GLE43)と同じエネルギースペクトルを想定した(図1)。
  5. (5)これらの一連の測定データと、PHITSによる計算手法および計算結果を、系外惑星データベースEXOKyotoに組み込むことにより、すべてのデータを統合的に評価できるシステムを構築した。これらの一連の工夫により、世界で初めて定量的に系外惑星における恒星フレアの影響を評価可能にした。

以上の結果、系外惑星のほとんどの表面環境では、1気圧の大気圧が備わっている限りにおいて、地表面での想定被ばく量は最大で1~数ミリシーベルト程度となり、地球型生命にとっては致命的でないレベルであることが示唆されました。また、惑星が地球のような双極子磁場を備えている場合、さらにその値が低くなるため、基本的にこれらの惑星は大気を十分に有している限りにおいて、CMEに伴う宇宙放射線被ばくの影響は少ないと評価しました。

しかしながら、以上の結果はこれらの惑星に十分な量の大気が備わっている場合であり、大気圧が十分でない環境 (例えばヒマラヤ山脈山頂部など、地球の表面上における最低気圧環境)の場合、生命にとって十分に危険なレベルまで放射線被ばく量が高くなることが算定されました(図2)。さらに、これらの系外惑星の大気散逸率を評価するため、主星からの極端紫外線(XUV)成分の定量評価を行い、大気散逸率を比較したところ、地球と比較して70倍前後の高い大気散逸率が算定されました。これらを考慮すると、M型星周りのハビタブルゾーンに存在する地球型の系外惑星は、十分な大気圧を有していない可能性が高く、さらに主星の重力により潮汐固定(惑星が常に同じ面を主星に向けること)されている可能性を考えると、十分な磁場も有していない可能性が想定されます。これらを考慮し、推定被ばく量を再算定すると(条件は「1/10気圧、磁場なし」)、ハビタブルと考えられている系外惑星プロキシマ・ケンタウリb(Proxima Centauri b)やトラピスト-I e(TRAPPIST-I e)であっても、毎年一度発生する頻度におけるCMEにおいて、地球型生命に危険な影響を及ぼすレベルの被ばく量(10 シーベルト)に近くなることが算定されました。

なお、今回の研究においては、上記(4)において、推定エネルギースペクトルをGLE43のものとしましたが、実際のM型星のフレアにおけるスペクトルは不明です。これらの星で推定されているフレアのエネルギー規模が大きいことを考慮し、かつ、フレアのエネルギーに比例して陽子が更に加速されると考えた場合、さらに大きな被ばく量が想定されます。また同時に、これらの星のフレア発生に伴う極端紫外線は、それほど致命的なものにならないことも今回の研究にて推定されました。

さらに、同じシステムを用いて太陽系の他の惑星のCMEによる被ばく量と頻度を推定することができ、それによると、地球のような磁場を持たず、大気圧が地球に比べ極端に小さい(0.007気圧)火星においては、GLE43と同等のCMEが発生してその宇宙放射線が火星に直撃した場合、火星表面での被ばく量が500ミリシーベルトに達する可能性があることが示唆されました。これは地上の想定被ばく量に比べて約100万倍、航空機飛行高度の推定被ばく量の約千倍にも及び、地球が大気と磁場によって危険な宇宙放射線から守られていることが定量的に明らかになりました。

図1 今回の計算に用いた宇宙放射線スペクトル(過去に観測された太陽CMEで最大規模といわれるCarringtonイベント(1859.9.1)と、過去に観測された太陽CMEで最も大気中の透過力の高かったイベント(GLE43)と同じスペクトル)

図2 地球型大気(N2+O2)を透過する推定被ばく量(Sv)の鉛直分布、過去に観測された太陽CMEで最も大気中の透過力の高かったイベント(GLE43)を想定。系外惑星はProxima Centauri b (緑の四角), TRAPPIST-1 e (青丸), Kepler-283 c (茶色い四角), Kepler-1634 b (青いクロス), Ross- 128 b (赤い四角) and GJ-699 b (ピンクの四角) で、比較のために地球 (blue square) と火星 (red plus)を配置している。それぞれ毎年1回起こる最大のフレア (a) (c) と、黒点面積から推定される最大のフレア(b)(d)による推定被ばく量を計算。単位は(Sv). 火星表面の大気圧は9g/cm2;地上最低気圧は 365g/cm2; 地上の気圧は1037g/cm2; 系外惑星の想定大気圧は1/10気圧、すなわち103.7g/cm2とした。

図3 スーパーフレア発生頻度および強度の予測方法

図4 系外惑星表面の想定被ばく量の定量化の手法

3.波及効果、今後の予定

本研究プロジェクトでは、系外惑星における恒星スーパーフレアの影響を定量的に評価する手法を世界で初めて開発し、それらを主要なハビタブルな系外惑星に適用し、様々なシナリオのもとに放射線環境について議論を行いました。また本手法は、EXOKyotoを通じて他の系外惑星への応用を可能とし、さらには同じ手法で太陽系内の惑星における被ばく量推定も可能であることを示しています。ただし、恒星スーパーフレアに起因するコロナ質量放出(CME)を実際に観測した例はなく、今後系外惑星のオーロラなどの観測や、恒星の磁場観測に基づいた電磁流体力学シミュレーション(MHD)の結果により、惑星の大気構造や粒子の加速メカニズムがより詳細に明らかになれば、今回の結果をさらに上回る評価が可能となると思われます。また、CMEに伴う宇宙放射線被ばくを予想し、危険性回避する方法を確立することは、将来の月や火星の探査において大変重要であり、有人宇宙開発に貢献することが期待されています。今後、さらにNASA/GSFCや関係機関との連携を強化し、これらの目標に向けて進んでゆきたいと考えています。

また、系外惑星に本当に生命がいるのか?あるいはいるとしたらどのような生命であろうか?遠い将来人類は移住先としてこれらの惑星を候補に挙げることができるのか?など、系外惑星の居住可能性に関しては様々な疑問が残されています。本研究はこれらの疑問に対する現時点での定量的な答えの一つですが、これからさらに具体的な議論と想像が高まることを期待しています。

4.研究プロジェクトについて

本研究は、日本学術振興会・文部科学省による下記の科研費補助金の支援のもとに実施されました。

JP16J00320, JP16J06887, JP16H03955, JP17H02865, JP17K05400, JP18J20048, JP18H01569 26106006

また合わせて、NASA- SEEC、京都大学全学経費(宇宙ユニット採択分)、有人宇宙システム(JAMMS)寄付金などのサポートを受けております。

また、本研究に関係する研究機関は下記のとおりです。

[国内]京都大学、国立天文台、日本原子力研究開発機構(JAEA)

[国外]アメリカ航空宇宙局ゴダード宇宙飛行センター(NASA/GSFC)、コロラド大学 ボルダー校、National Solar Observatory、ライデン大学、アメリカン大学、ブリストル大学

<用語解説>

フレア:

太陽などの恒星表面での爆発現象であり、表面にある黒点近傍に蓄えられた磁場エネルギーが突発的に解放されることで生じる現象と考えられています。太陽フレアに伴って発生するプラズマ噴出(コロナ質量放出、CME) が地球に衝突すると、磁気嵐などによって、大規模停電や通信インフラに障害が発生するなど人類社会に大きな影響が及ぶこともあります。2012年に発表者らの共同研究グループは、ケプラー宇宙望遠鏡が

取得した多数の恒星データの解析により、最大級の太陽フレアの100倍を超える様な巨大フレア(スーパーフレア)が太陽で発生する可能性を発表しました。その後も、ケプラー宇宙望遠鏡や米国アパッチポイント天文台などの観測データを用いた研究により、スーパーフレアを起こす星の詳細な性質や、太陽での発生可能性などを議論してきました。

これらのスーパーフレアの研究の詳細に関しては、発表者らの過去の研究成果・記者発表資料も合わせてご覧ください。

2019年記者発表:http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2019/190501_3.html

2012年記者発表:http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2012/120517_1.htm

放射線輸送計算コード「PHITS」:

原子力機構が中心となって開発を進めている理論計算コードで、あらゆる物質中での放射線の振る舞いをコンピュータ中で計算することができます。放射線施設の設計、医学物理計算、宇宙線科学など、工学・医学・理学の様々な分野で利用されています。

参考URL:http://phits.jaea.go.jp/indexj.html

地上観測レベル上昇事象(Ground Level Enhancement, GLE):

世界各地に設置された地上中性子モニターの計数率が太陽CMEにより上昇するイベント。地上中性子モニタによる観測は1950年代より開始され,これまで72回のGLEが観測されています。GLE43は1989年10月に発生した43回目のGLEで,世界各地で長時間に渡って大幅な中性子モニタ計数率の上昇が観測されました。

系外惑星データベース「EXOKyoto」:

京都大学で開発された初めての日本語対応系外惑星データベース。現在までに発見された4000を超える系外惑星の情報、想像図のほか、数10万個の恒星の情報、メシエ・NGC天体の情報を有する。恒星の黒点面積と自転周期を用いた恒星フレアの発生頻度・規模評価モジュールと、PHITSによる異なる3つの大気(N2+O2, CO2, H2)組成における被ばく量推定計算結果を組み込むことにより、恒星の観測データを有する星の周りを公転している惑星の推定被ばく量とフレアの発生頻度を推定することが可能となりました。

参考URL:http://www.exoplanetkyoto.org/

シーベルト:

ヒトの放射線被ばくによる影響を表す指標。本来は放射線防護の目的でのみ使用可能な指標だが、本研究では、地球型生命体の放射線影響を表す指標として利用しました。

<研究者のコメント>

本研究成果は、EXOKyotoが系外惑星研究の発展に貢献するために、京都大学としての戦略的な強みがどの研究分野にあるかを議論し、世界に冠たるスーパーフレア研究と、惑星のハビタビリティーとの関連を定量的に評価することが最も重要であるという目的を定めてから3年の年月をかけて達成したものです。その間NASA/GSFCと5往復し、国内協力機関と連携し、ようやくたどり着いた成果です。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Impact of Stellar Superflares on Planetary Habitability
(恒星スーパーフレアの惑星居住可能性に対する影響)

著者:Yosuke A. Yamashiki, Hiroyuki Maehara, Vladimir Airapetian, Yuta Notsu, Tatsuhiko Sato, Shota Notsu, Ryusuke Kuroki, Keiya Murashima, Hiroaki Sato, Kosuke Namekata, Takanori Sasaki, Thomas B. Scott, Hina Bando, Subaru Nashimoto, Fuka Takagi, Cassandra Ling, Daisaku Nogami,and Kazunari Shibata

掲載誌:The Astrophysical Journal DOI:未定

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