Jリーグのスタジアムやクラブハウスなどで新型コロナウイルス感染予防のための調査(第二報)

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選手控室・スタッフ居室などのCO2濃度と密集・音圧の計測結果について

2021-01-25 産業技術総合研究所

ポイント

  • 5つのスタジアム、2つのクラブハウスで選手控室・スタッフ居室などのCO2濃度を計測し密集・密閉状況を評価
  • 選手控室での試合時の選手の行動(音圧・人数)とCO2濃度の関係を可視化
  • 国立競技場での画像センサー、音響センサーを使った選手控室の密集・密接状況を計測
  • 選手控室において、センサーで測定された滞在人数・音量とCO2濃度の相関を確認

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)地圏資源環境研究部門【研究部門長 光畑 裕司】地圏化学研究グループ 保高 徹生 研究グループ長、安全科学研究部門【研究部門長 緒方 雄二】リスク評価戦略グループ 篠原 直秀 主任研究員、内藤 航 研究グループ長、人工知能研究センター【研究センター長 辻井 潤一】社会知能研究チーム 大西 正輝 研究チーム長、坂東 宜昭 研究員は、日本プロサッカーリーグ【チェアマン 村井 満】(以下「Jリーグ」という)とFC今治、モンテディオ山形、北海道コンサドーレ札幌、川崎フロンターレ、FC東京、柏レイソルと連携し、Jリーグの試合やルヴァンカップ決勝戦をはじめとした5つのスタジアムでの試合時やクラブハウスなどでの新型コロナウイルス感染予防のための調査を進めてきた。本調査は、観客・選手やスタッフの新型コロナウイルス感染リスクを評価するために、換気状態(密閉)の指標としてCO2(二酸化炭素)濃度計測器や、人の密集・密接状態や観客の行動様式に関する指標としてレーザーレーダー、画像センサーや音響センサーなどを使用した3密(密集・密閉・密接)に関する計測調査である。

第一報では、「観客」に対する新型コロナウイルス感染リスクを評価するために、スタジアム内のCO2濃度とレーザーレーダーによる混雑具合の計測結果を報告した(第一報へリンク)。第二報となる今回の調査では、「選手やスタッフ」に対する新型コロナウイルス感染リスク評価のために、5つのスタジアムと2つのクラブハウス内の選手・スタッフらが立ち入るエリアのCO2濃度と国立競技場の選手控室の画像センサー・音響センサーによる人の密集・密接状態の計測結果について報告する。

5つのスタジアムの試合当日に、それぞれの選手控室、アップルーム、審判控室、運営本部などのCO2濃度を測定した。その結果、選手が多くの時間を過ごすスタジアムの選手控室のCO2濃度は、試合前、ハーフタイム、試合終了後に上昇し、試合中に低下することが確認され、CO2の最高濃度は800 ppm~2000 ppm程度とスタジアムによって大きく異なった。これは、各スタジアムにおける選手控室の大きさ、入室人数、換気状況が異なることから違いが生じたと考えられる。

国立競技場では CO2濃度以外に、画像センサー、音響センサーを使って選手控室の密集・密接状況を計測した。その結果、10人以上が選手控室内にいる時間は、延べ12分〜33分であり、ミーティングや試合終了後を除けば、選手控室内で選手は分散していたことが確認された。また、調査において選手控室での試合開始前から終了後までの選手の行動(音圧・人数)とCO2濃度の関係を可視化した結果、相関があることが確認され、選手控室内の密集・密閉状況の低減に向けて、広めの部屋の使用、人数制限などの対策が有効であることが示唆された。

クラブハウス内でのCO2濃度の測定結果からは、選手控室やミーティングルームでは、練習開始前や練習後、ミーティング実施時に一時的にCO2濃度が上昇すること、一部のスタッフ居室では選手控室などと比較して、CO2濃度が高い状態が維持されていることが確認された。今回得られた結果は、スタジアムなどでのスポーツイベントやクラブハウス内での日常活動における選手やスタッフの感染対策のガイドラインや感染リスク評価、対策効果の評価への貢献が期待される。

図1

図1 第二報における調査内容の概要

研究の社会的背景、研究の経緯及び全体の調査内容については、第一報を参照。(第一報へリンク

第二報における調査内容

5つのスタジアム(FC今治(ありがとうサービス.夢スタジアム)、モンテディオ山形(NDソフトスタジアム)、北海道コンサドーレ札幌(札幌ドーム)、川崎フロンターレ(等々力陸上競技場)、ルヴァンカップ決勝(国立競技場))の7試合を対象として、スタジアムでの試合時に、密集・密閉状況の目安としてCO2濃度計測器(全スタジアム)、人の密集・密接状況や行動様式を確認するために画像センサーと音響センサー(国立競技場:図2)を使用して、選手・審判の控室などでのCO2濃度、選手・スタッフ間の距離や発話状況の変化などを測定した。また、FC今治、モンテディオ山形のクラブハウスで、約20カ所のCO2濃度を測定した。

図2

図2:国立競技場の選手控室の画像センサー、音響センサー、CO2濃度計測器の設置状況(実計測中に画像と音声は取得していない)

スタジアム内の選手控室などのCO2濃度の調査結果

今回の実証試験の結果で得られた5つのスタジアムで測定した選手控室のCO2濃度(図3)は、試合前、ハーフタイム、試合終了後に上昇し、試合中に低下することが確認され、CO2濃度の最大値は800~2000 ppm程度であり、札幌ドーム、国立競技場が相対的に低い傾向にあった。また審判控室も同様の傾向を示し、CO2濃度(図4左)の最大値は800~2000 ppm程度であり、選手控室と同様に札幌ドーム、国立競技場が相対的に低かった。なお、試合に出場しない選手が滞在する選手観戦室のCO2濃度を等々力陸上競技場で測定したところ、最大で1250 ppmであった。

図3

図3 選手控室・アップルーム・選手観戦室のCO2濃度の変化(線の色はデータ採取地点の違いを示す)

一方、運営スタッフが出入りする運営本部のCO2濃度(図4中央)は400〜800 ppm程度であった。また、等々力陸上競技場の映像・メディア関係などの部屋(図4右)や、ボランティア、ボールパーソン、警備員の控室(図5左)については、多くの時間帯では、400-800 ppm程度であったが、一部の部屋では一時的に1000 ppmを超える時間帯が確認された。等々力陸上競技場の屋内グッズ売店(図5中央)は、最大濃度が800 ppm程度であった。この売店は、屋内であるが、入場人数制限をしており、かつグッズ売り場のドアを2箇所開放していたので、換気状態が良好であったと考えられる。国立競技場の屋外売店(図5右)は、400~800 ppm程度であった。

図4

図4 審判控室(左)、運営本部(中央)、等々力陸上競技場の映像・メディア関係の部屋(右)でのCO2濃度の変化

図5

図5 等々力陸上競技場でのボランティア・警備控室などの(左)、等々力陸上競技場の屋内グッズ売店(中央)、国立競技場の屋外売店(右)のCO2濃度の変化

選手控室などでのセンサー測定結果

ルヴァンカップ決勝戦時に国立競技場の選手控室で画像センサー、音響センサーで計測した柏レイソル、FC東京の選手控室内の人数、音量、CO2濃度の結果を図6に示す。選手控室内に選手が入ると、音量とCO2濃度が上昇する傾向があるのが確認された。選手控室内では選手到着時、アップ前、試合前、ハーフタイム、試合終了後に滞在人数が多くなっており、音量も滞在人数に比例して大きくなった。選手控室内の最大滞在人数はそれぞれ27人、22人と多い結果となったが、10人以上が選手控室内にいる時間帯は、それぞれ延べ12分、33分であり、ミーティングや試合終了後を除けば、選手控室内に滞在する選手は多くなかったことが確認された。Jリーグは、当日、選手控室以外に、監督室も含めて選手・スタッフの滞在場所としており、選手の分散に一定の効果があったことが推察され、選手の行動(音圧・人数)とCO2濃度の関係を可視化した結果、相関があることが確認され、選手控室内の密集・密閉状況の低減に向けて、広めの部屋の使用、人数制限などの対策が有効であることが示唆された。

図6

図6 国立競技場のセンサーによる音量、人数の測定結果とCO2濃度の関係

クラブハウス内のCO2濃度の調査結果

モンテディオ山形、FC今治のクラブハウス内の約20カ所で、11月下旬〜12月中旬までの期間、CO2濃度を測定した(図7)。クラブハウス内でのCO2濃度の測定結果からは、選手控室やミーティングルーム、トレーニングルームなどでは、練習開始前や練習後、ミーティング実施時に一時的にCO2濃度が上昇すること、上昇する時間は一時的(多くの場合2時間から3時間程度)であることが確認された。また、一部のスタッフルームでは選手控室などと比較して、CO2濃度が高い状態が維持されていることが確認された。各クラブの対策として定期的な窓の開放、工場扇などによる換気、空気清浄機の導入、2つの選手控室に分散しての利用などの工夫をしていることがヒアリングで確認された。

図7

図7 クラブハウス内でのCO2測定結果の一例

今回、5つのスタジアムで、選手・スタッフが立ち入るエリアを対象とした選手控室・アップルーム、審判控室、運営本部などのCO2濃度を測定し、国立競技場の選手控室、審判控室での画像センサー、音響センサーの結果を報告した。調査の結果から、選手やスタッフが利用する場所でのCO2濃度が高い時間帯が確認され、画像センサーと音響センサーから選手控室での音量と滞在人数との関係が確認された。選手控室の人数が増えると、音量やCO2濃度が上昇する傾向があるのが確認され、選手控室内の密集・密閉状況の低減に向けて、広めの部屋の使用、人数制限などの対策が有効であることが示唆された。また、クラブハウス内でも一時的に密な状況が生じている可能性が示唆された。

リスク低減の観点からは、複数人数が入室した状況でCO2濃度の大きな上昇などが一定時間以上継続して確認された部屋においては、人数制限や広めの部屋の使用、不織布マスク着用、換気頻度の増加や送風機の導入による換気回数の増大、もしくは空気清浄機の導入(すでに導入しているクラブも多数ある)などの対策も考えられる。また、選手、審判、監督、コーチ、一部のスタッフは2週間に一度の定期的なPCR検査を受けているが、スタッフやメディア関係者などは定期的なPCR検査を受けていない場合もある。PCR検査の受診状況でもリスクは変わることから、これらの状況も対策の検討時には考慮する必要があろう。今回得られた結果は、第一報で報告した結果と合わせて、大規模集客イベントなどでのスタジアムなどの対策の指針作りや新型コロナウイルス感染リスク評価、対策効果の評価への貢献が期待される。

今後の予定

今後は、得られたデータや環境データ、選手の活動状況を統合してスタジアムやクラブハウスでの観客、選手・スタッフの活動の際の新型コロナウイルス感染リスクとその対策の評価を行う。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
地圏資源環境研究部門 地圏化学研究グループ
研究グループ長 保高 徹生

安全科学研究部門 リスク評価戦略グループ
研究グループ長 内藤 航

人工知能研究センター 社会知能研究チーム
研究チーム長 大西 正輝

用語の説明
◆レーザーレーダー
レーザーを用いて対象物体までの距離を計測するセンサー。複数のレーザーを回転させることによって高い空間分解能で環境の三次元空間の情報を得ることができる。ライダー(LiDAR: Light Detection And Ranging)とも呼ばれる。
◆画像センサー
赤外パターンを投影する装置と画像を用いて画像だけではなく対象物までの距離を同時に取得することのできるセンサー。
◆音響センサー
複数のマイクロホン (マイクロホンアレイ) を用いて音の方向・音量を計測するセンサー。位置の異なるマイクロホン間の音量差・時間差を用いて、複数の音が混ざった信号から、個別の音源の方向や音量の情報を推定できる。本調査では、8本のマイクロホンを有するマイクロホンアレイを使用した。
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