アルミ酸化膜を用いた新しい不揮発メモリの電子状態の観測に成功
『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.62
図5-16 アモルファスアルミ酸化物の内部構造のイメージ図
アモルファスアルミ酸化物では、酸素原子とアルミニウム原子が不規則に空間配置しています。本研究では、メモリ動作に関わる電子が酸素サイト周辺に分布していることを明らかにしました。
図5-17 オン・オフのメモリ状態での吸収スペクトル
オン・オフのメモリ状態における酸素サイトとアルミニウムサイトの電子状態を構成元素ごとに調べるために、放射光 X 線を用いて(a)酸素と(b)アルミニウムの吸収スペクトルを測定しました。酸素の吸収スペクトルでは、顕著な電子状態の変化(サブバンドの生成・消滅)を観測しました。
現在数多く利用されているコンピュータの主記憶メモリは、電源供給がないと記憶の保持ができません。したがって、一定時間ごとに記憶を保持する動作が必要なために電力消費が大きいという問題を抱えています。この解決のために次世代不揮発メモリの研究が行われています。次世代不揮発メモリの候補として、遷移金属酸化物を用いた抵抗変化型メモリ(ReRAM;電圧の印加による電気抵抗の変化を利用したメモリ)が広く研究されています。しかし、一般的に、遷移金属酸化物では、メモリ動作時に遷移金属元素の価数が変わってしまう化学反応が起こります。その結果、副生成物が生じるために遷移金属酸化物を用いた ReRAM は、劣化しやすく書き換え回数に限界があると言われています。
一方、遷移金属酸化物ではないアルミ酸化物に関して、酸素空孔内への電子の出入りはエネルギー的に安定であるという理論計算を元にして、私たちは、アモルファスアルミ酸化物(図 5-16)を用いた ReRAM のメモリ動作を説明するための全く新しい「酸素空孔モデル」を提唱しています。アモルファスは、結晶とは異なり、原子が規則正しく並んでいない物質の状態です。本研究では放射光 X 線を用いて、アモルファスアルミ酸化膜の構成元素である酸素とアルミニウムの吸収スペクトル測定を行いました。最初に、電気が流れる状態(オン)と電気が流れない状態(オフ)における酸素の吸収スペクトル測定を行いました(図 5-17(a))。オン状態では、バンドギャップ内に顕著な電子状態の変化(サブバンド形成)を検出しましたが、オフ状態ではサブバンドは観測されませんでした。続いて、アルミニウムの吸収スペクトル測定を行いました(図 5-17(b))。オン状態とオフ状態では、アルミニウムサイトの電子状態の変化は、ほとんどありませんでした。測定結果は、アモルファスアルミ酸化膜では、メモリ動作時には酸素サイトの電子分布が変わりますが、アルミニウムサイトの電子分布は変わらないことを意味しています。このことは、化学変化を伴わないメモリ動作である「酸素空孔モデル」を支持するものとなっています。
本研究を通じて、アモルファスアルミ酸化膜が化学変化を起こすことなく、メモリ動作することが明らかになりました。また、酸素とアルミニウムは、地球上の地表付近に多く存在する元素であり、アモルファスアルミ酸化膜は環境に優しいといった特長もあります。したがって、今後、消費電力が非常に少ない次世代不揮発メモリとして、開発が進むことが期待されます。
(久保田 正人)
●参考文献
Kubota, M. et al., Direct Observation of Electronic Structure Change by Resistance Random Access Memory Effect in Amorphous Alumina, AIP Advances, vol.9, issue 9, 2019, p.095050-1–095050-4.