高温で動作する酸化ガリウムダイオードを開発

ad

耐環境性に優れたパワーデバイス・IoT用センサー実現へ

2019-10-19 東北大学 金属材料研究所,科学技術振興機構

ポイント
  • 次世代のパワーデバイス向け半導体として注目されている酸化ガリウムと、層状構造の酸化物電極(PdCoO)で構成されたダイオードを開発。
  • 金に匹敵する高い電気伝導度を示し、優れた耐熱・耐環境性を持つ。
  • このダイオードは、自動車・工業プラントなど、IoTで拡大する多様な素子動作環境に対応できるため、パワーデバイス制御やセンサー用途への応用が期待。

東北大学 金属材料研究所の原田 尚之 助教、伊藤 俊 技術職員、塚﨑 敦 教授らの研究グループは、パラジウムとコバルトからなる金属酸化物(PdCoO)と酸化ガリウム(Ga注1)を原子レベルで接合し、350℃の高温で7桁以上のオン/オフ比注2)を示す、高温動作可能な整流素子(ダイオード)を開発しました。

自動車エンジンなどの電力制御やセンサー用途において、高温や反応性ガス中などの過酷な環境で動作する半導体素子の需要が高まっています。なかでも、Gaは大きなバンドギャップ注3)を有する上、安定でバルク結晶も入手しやすいことから、次世代パワーデバイス向け半導体として期待されています。適切な半導体と金属の組み合わせを積層(ショットキー接合注4))すると、ダイオードとして動作します。そのためこれまでさまざまな金属とGaの接合が研究されてきましたが、高温動作特性が優れないという問題がありました。

本研究グループは、単体金属の代わりに高い電気伝導性・耐熱性を有する層状金属酸化物PdCoO(図1)に着目し、Gaとの境界(界面:図2)を原子レベルで制御する方法を見いだしました。これによりダイオードの高温動作の鍵となる界面のエネルギー障壁(ショットキー障壁高さ)を、従来の限界値を大きく超える1.8eV(電子ボルト)にすることに成功し、350℃の高温で7桁のオン/オフ比を実証しました。高い耐環境性を持つこの新しい酸化物ダイオードは、さまざまな環境で動作を求められるIoT向けセンサーやパワーデバイスへの応用が期待されます。

本研究成果は、2019年10月18日(米国東部夏時間)に、米国科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載されます。

本研究は、科学技術振興機構(JST) CREST(課題番号:JPMJCR18T2)、科学研究費補助金(課題番号:18K14121、15H02022、25000003)、公益財団法人 前川報恩会、一般財団法人 田中貴金属記念財団からの支援を受けて実施されました。

<研究背景>

モノのインターネット(IoT)や自動車の自動運転など、通信やセンサー、電子制御技術の発展に伴い、私たちの生活は大きく変わろうとしています。こうした次世代技術を支えるのが半導体素子です。例えば、電気自動車の動力制御には、大電力を制御するパワー半導体素子が用いられています。自動車の動力部は200℃を超える高温になるので素子の高温耐性が重要になります。さまざまなモノに半導体素子が搭載された近い将来には、自動車や産業機器などの身近な例以外にも、宇宙利用などのさまざまな用途で素子の耐環境性は重要になります。そこで、高温環境で安定に動作し、化学的に安定な半導体素子の開発が求められています。現行の半導体素子には、半導体材料としてシリコンが良く用いられています。しかしながら、シリコンデバイスは、シリコンの比較的小さなバンドギャップ1.1eVに由来して、200℃以上の温度で安定に動作することは原理的に困難です。そこで近年、バンドギャップの大きい半導体として知られる炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)と合わせて、バンドギャップ約5.0eVのGaが注目されています。

金属と半導体を積層したショットキー接合は整流効果を示すダイオードとして動作し、半導体デバイスの重要な構成要素です。高温でダイオード動作を実現するには、(1)バンドギャップの大きな半導体を用いること、(2)熱的に安定な界面を作製すること、(3)界面のエネルギー障壁高さを十分高くすること、の3点が重要です。これまで、プラチナ(Pt)やニッケル(Ni)などさまざまな金属とGaの接合が研究されてきましたが、ダイオード動作の鍵である界面のエネルギー障壁(ショットキー障壁)の高さが不十分で、高温動作特性が優れないという問題がありました。また、高温での金属電極の劣化や界面での原子拡散は、多結晶の金属電極を用いる従来の半導体素子において、特性劣化を引き起こす長年の課題でした。

<研究内容>

研究グループでは、酸化物半導体Gaを用いた素子に適用する新しい金属電極として、高温でも安定に存在できる「金属酸化物」に着目しました。金属酸化物は茶碗やガラスのように電気を通さないものが大半ですが、電気を通す酸化物も一部に存在します。研究グループは、新しい電極として層状の金属酸化物PdCoOに着目しました。このPdCoOは酸化物にもかかわらず、金、銀、銅などの単体金属に匹敵する高い電気伝導性を示します(図1)。さらに、酸化物ならではの高い熱安定性と、pH=0の強酸やpH=14の強アルカリにも溶けない優れた化学耐性を持ちます。研究グループは、PdCoOとβ-Gaの界面を原子レベルで制御できること(図2)を見いだして、ショットキー接合の半導体特性を評価しました。この界面には、PdCoOのPdと[CoOが交互に積層した層状構造に由来して、電気双極子注5)が形成されます。これにより、従来の限界だった1.4eVを大きく超える、1.8eVの高いショットキー障壁が形成されました。この高いショットキー障壁によって、350℃の高温で7桁以上のオン/オフ比のダイオード動作を実証しました。

<今後の展開>

ショットキー接合は、ダイオードだけでなくトランジスターにも用いられます。本研究では、高温で動作する酸化物半導体素子を実現して、動作実証を報告しました。今後、自動車や工業プラントでのGaパワーデバイスやセンシングデバイスに応用が期待されます。特に、酸化物としての高い安定性によって半導体素子の動作環境を拡大するほか、従来の素子で必須だった冷却機構の簡略化により省エネにもつながることが期待されます。

<参考図>

図1 さまざまな物質の室温電気伝導率

図1 さまざまな物質の室温電気伝導率

図2

図2

左:電子顕微鏡によるPdCoO/Ga界面の原子像。

右:対応する結晶モデル。

<用語解説>
注1)酸化ガリウム(Ga
約5.0eVの大きなバンドギャップを有し、量産に適した溶融法でバルク結晶を作製できることから、次世代のパワーデバイス向け半導体材料として有望視されている。実用化に向けて各国で研究が進められている。
注2)オン/オフ比
ダイオードは陽極から陰極に電流を流すが、陰極から陽極へはほとんど電流を流さない。この電流の大きさの比(オン/オフ比)が大きいほど、動作中の消費電力低減につながる。
注3)バンドギャップ
半導体の物質ごとに決まっている重要な物性値の1つで、物質の電子構造において電子の存在できないエネルギー領域のこと。電子の動けない価電子帯と電子の動ける伝導帯とのエネルギー差に対応しており、禁制帯とも呼ばれる。その物質の電気伝導性や光学特性などに関連して、ダイオードやトランジスターなどの半導体素子を設計する際にも重要となる。シリコンのバンドギャップは1.1eV(電子ボルト)程度である。一般に3eV以上で大きなバンドギャップと考えることができる。例えばGaN、SiCやGaなどが挙げられ、それらの半導体は大電流や大電圧印加によっても壊れにくいため、パワーデバイス用途に適している。
注4)ショットキー接合
金属と半導体を接合する際、金属中の電子と、半導体中の電子のエネルギーが揃うように界面で電荷をやりとりする。この過程で、界面にエネルギー障壁が形成される。これをショットキー障壁と呼ぶ。ショットキー障壁は電子に対して崖のように働くため、金属側から半導体に電流が流れる場合と、半導体側から金属側に電流が流れる場合で流れやすさに大きな差を生じる。この性質から、電流を一方向にしか流さない整流器(ダイオード)として利用される。
注5)電気双極子
電気双極子とは、正負の電荷の対がつくる電荷の偏り。有効電荷を持つ物質で形成される界面では、固体物質内とは異なり、電荷の偏りを生じることがある。電気双極子は電子のポテンシャルエネルギーに影響を与えるため、例えば金属と半導体の界面に電気双極子が形成されると、ショットキー接合を通る電子は電気双極子に影響を受けて、ショットキー障壁の高さが変化した特性を示す。PdCoO/β-Ga界面では、PdCoOがPdと[CoOが交互に積層されたイオン性酸化物であることに由来して、界面に電気双極子が形成される。電気双極子の作る電界により、界面近傍に1.1eVのポテンシャル変化が可算され、高いショットキー障壁を実現していると考えられる。
<論文タイトル>
“Electric dipole effect in PdCoO2/β-Ga2O3 Schottky diodes for high-temperature operation”
著者名:T. Harada, S. Ito, and A. Tsukazaki
DOI:10.1126/sciadv.aax5733
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

原田 尚之(ハラダ タカユキ)
東北大学 金属材料研究所 低温物理学研究部門 助教

塚﨑 敦(ツカザキ アツシ)
東北大学 金属材料研究所 低温物理学研究部門 教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

東北大学 金属材料研究所 情報企画室 広報班

科学技術振興機構 広報課

ad
0403電子応用0501セラミックス及び無機化学製品
ad
ad


Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました