2019.08.30 愛媛大学
大学院理工学研究科 内藤俊雄教授による研究成果がイギリス王立化学会誌「ダルトン・トランズアクションズ」の表紙を飾りました
大学院理工学研究科 内藤俊雄教授を代表とする研究グループが、光のエネルギーを蓄えられる物質を発見しました。例えば光を浴びせた一週間後に、この物質をもし発光させることができれば、その間光をを蓄えたことになります。そのような物質は知られておらず、電気で言うと電池に当たります。そうした物質が出来れば、光を持ち運んで好きな時に好きな場所で使えるようになるだけでなく、現在電気で行っている通信や情報処理などの先端技術をすべて光で行えるようになるかもしれません。そうなれば配線は不要となり、恐らくより複雑な情報を大量に高速に処理できるようになります。その為の第一歩となる物質が見つかったという成果です。
この研究成果は、学術雑誌「ダルトン・トランズアクションズ」に掲載され、裏表紙にも載ることが決まりました。オンライン速報版で7月16日から公開されています。
掲載学会誌:学術雑誌「ダルトン・トランズアクションズ」(Daltom Transactions)
研究成果名:「光を蓄える可能性を持った初めての物質」
研究代表者:愛媛大学 大学院理工学研究科 内藤 俊雄 教授
共同研究者:愛媛大学 大学院理工学研究科 御崎 洋二 教授
共同研究者:愛媛大学 大学院理工学研究科 白旗 崇 准教授
研究成果の概要
現在、光は携帯電話やテレビのリモコンからソーラーパネルに至るまで、現代社会を支える身近で重要な道具です。通常それは電気と組み合わされて使われています。しかし電気との最大の違いは、電池に相当する、光を蓄える技術や物質がないことです。光は人類が火を使い始めた太古の昔から知られており、エジソンが初めて電球を作った時以来、その扱い方を文明と共にどんどん高度化してきました。その最後の砦が、光を蓄える技術です。現在光は全てその場で他のエネルギーに変換され、その瞬間に消費されています。ですので、例えば太陽電池と言っても、太陽光そのものはもちろん、それを基に作った電気も自分自身の中に蓄えることはできません。太陽光発電として電気に変換しても、その効率は 10-20%程度とかなり無駄が多いのが現状です。
内藤教授を中心とする研究グループはこれまでも新しい有機物質を合成し、特定の波長の光照射によって伝導性や磁性の発現と切り替えを、世界に先駆けて実現して来ました。今回、そうした物質を開発している中で偶然こうしたひな形物質を発見しました。単に蓄えられるだけだと思ったら、それは違います。例えばこの世の中から缶詰や冷凍商品が消え、一切のバッテリーもなくなったと想像してください。生活は極端に不便になるはずです。ものを蓄えられるようになると、その利用法と可能性は一気に広がります。「21 世紀は光の時代」と言われていましたが、今回の発見によってこれまで考えられていたよりもより早く、近未来的な社会が実現する可能性が出てきました。
(図 1 の説明)当該の物質は、2 種類の平面型分子([Au(dmit)2] -と BPY2+)からできています。このうち、[Au(dmit)2] -の方は朱色で示した金(Au)原子の位置が 2 通りあり、その結果中央が盛り上がったような形の分子も約 1 割ほど混じっています。この 2 種類の[Au(dmit)2] -の割合を結晶中で変えることにより、光(など周囲)から受け取ったエネルギーを蓄えたり、放出したりしています。
図2.[Au(dmit)2] -が結晶中で 2 種類の分子構造をとる様子(拡大図)。X線を使って直接観測した結果(黄色=硫黄原子、青=炭素原子、茶色=金原子)