熱交換性能約6倍、圧力損失約1/10で安価な熱回収を実現
2019-07-24 新エネルギー・産業技術総合開発機構,ジオシステム株式会社,株式会社角藤
NEDO、ジオシステム(株)、(株)角藤は、農研機構、東北大学、金沢大学と共同で、農業用水や温泉水などの流水が持つ再生可能エネルギー熱の利用に特化した樹脂製投げ込み式熱交換ユニットを開発しました。
この熱交換ユニットは水を強制攪拌するためのエアレーション機構を搭載し、既存の樹脂製投げ込み式熱交換器と比べて熱交換性能を約6倍に高めました。また、多数細管構造の熱交換器を採用し、既存の樹脂製熱交換器と比べて循環水の圧力損失を約1/10に抑え、流水からの安価な熱回収を実現しました。
今回開発した熱交換ユニットは、今後、ジオシステム(株)が「G-HEX」の製品名として販売を開始する予定です。それにより、今まで十分に活用できていない流水熱源からの高効率な熱利用が可能となり、再生可能エネルギー熱利用の普及拡大が期待できます。
図1 水槽設置向け樹脂製投げ込み式熱交換ユニット
図2 水路向け平板型樹脂製投げ込み式熱交換ユニット
1.概要
昨年閣議決定された「第5次エネルギー基本計画」では、エネルギー利用効率の向上に向けて熱の効率的な利用が重要と述べられており、そのためには再生可能エネルギー熱が重要な役割を果たす可能性があると位置付けられています。しかしながら、再生可能エネルギー熱利用※1は、導入コストや運用コストの高さが課題となり、十分に普及していません。
そこで国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、「再生可能エネルギー熱利用技術開発※2」において、再生可能エネルギー熱利用システムの普及促進・市場拡大を図るために、導入および運用コストの低減を目指して事業を進めてきました。
本事業で対象とした流水※3はさまざまな異物やスケールを生じる化学成分が含まれる可能性が高いため、腐食に強く、メンテナンスが容易な樹脂製投げ込み式熱交換器※4の使用が適していますが、従来の樹脂製投げ込み式熱交換器は、熱交換性能が低いことなどから投資対効果が合わないことが多く、利用可能な流水の条件が限られ、熱利用が進んでいない状況でした。
そこで今般、NEDO、ジオシステム株式会社、株式会社角藤は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)、国立大学法人東北大学および国立大学法人金沢大学と共同で、農業用水、井水、湧水、温泉水などの流水専用の樹脂製投げ込み式熱交換ユニットを開発しました。
本事業では、熱交換性能の向上が課題であった樹脂製投げ込み式熱交換器に対して水に空気を吹き込むエアレーション機構※5を搭載することにより、既存の樹脂製投げ込み式熱交換器と比べて、熱交換性能を約6倍に高め、単位熱交換能力あたりの費用を従来の樹脂製投げ込み式熱交換器の約1/2に低減しました。また117本の細管で構成する熱交換器の採用により、既存の樹脂製熱交換器と比べて循環水の圧力損失を約1/10に抑えることで、流水からの安価な熱回収を実現しました。
今回開発した熱交換ユニットは、今後、ジオシステム(株)が各熱源データを整理して、熱交換ユニットの最適化を進めながら、「G-HEX」の製品名として販売を開始する予定です。それにより、今まで十分に活用できていない流水が持つ熱エネルギーの高効率利用が可能となり、再生可能エネルギー熱利用の普及拡大が期待できます。
2.今回の成果
本事業では、ジオシステム(株)が樹脂製投げ込み式熱交換ユニットの設計・試作・性能評価、(株)角藤が性能・機能要件整理、農研機構が平板型樹脂製投げ込み式熱交換器の基本性能計測および設置方法の開発、東北大学がエアレーション機構の熱・流動解析等、金沢大学が平板型樹脂製投げ込み式熱交換器の数値シミュレーションなどの技術開発の役割を担いました。
【1】高効率化
樹脂製投げ込み式熱交換器は、金属製のものに比べて耐食性が高く、メンテナンス性も良いものの、熱交換性能が劣ることが問題でした。さらに、流速が遅い水槽などでは熱交換器表面に淀みが生じるので、一層熱交換性能が低下する課題がありました。
今回、ユニット内で水を強制撹拌し熱交換効率を上げるためのエアレーション機構を開発し、少ないエネルギーで最大限の能力が発揮できるようになりました。熱交換性能は13.9kW(内外温度差条件5℃)で、従来の同目的の樹脂製投げ込み式熱交換器2.2kWに比べて6倍と高性能です。
【2】低圧損化
従来の樹脂製投げ込み式熱交換器は100m以上の長い単管で構成されているため圧力損失が大きく、循環水用のポンプの動力が大きくなるという課題がありました。
今回開発した熱交換ユニットは、外径6mm、長さ5.6mの高密度ポリエチレン管117本で構成される柔軟性のあるシート状の熱交換器を採用することにより、従来の樹脂製投げ込み式熱交換器と比べて圧力損失が約1/10となり、循環水ポンプ動力に関わる運用コストを80%低減することができました。
【注釈】
- ※1 再生可能エネルギー熱利用
- 冷暖房や給湯のための熱を得るために、地中熱、太陽熱、雪氷熱などの再生可能エネルギーを用いることです。
- ※2 再生可能エネルギー熱利用技術開発
- 事業期間は2014~2018年度の5年間で、事業全体予算は8億円(2018年度予算)。詳細は以下を参照してください。
- ※3 流水
- 地表を流れる水の総称で、表流水とも呼ばれます。ここでは、農業用水、井水、湧水、温泉水を対象としています。
- ※4 投げ込み式熱交換器
- 流水や水槽類の中に設置し、液体の温度を加熱または冷却させる装置です。
- ※5 エアレーション機構
- 一般に下水処理などで汚水などに空気を吹き込む処理方法のことをエアレーションと呼びます。本樹脂製投げ込み式熱交換ユニットでは、熱交換器周囲の水に空気を吹き込み、強制撹拌することで熱交換能力を向上させます。空気を吹き込むブロアーの電力は、ポンプによる強制撹拌に比べて1/10以下の電力で済みます。
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新エネルギー部 担当:藤田、谷口
ジオシステム株式会社 担当:高杉
株式会社角藤 担当:前田
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:中里、坂本、佐藤