フェリ磁性体アモルファス合金のジャロシンスキー守谷相互作用の観測に成功

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元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こす

2019-06-04 京都大学

小野輝男 化学研究所教授、倉田博基 同教授、治田充貴 同助教、Duck-Ho Kim 同研究員らの研究グループは、塚本新 日本大学教授、Kyung-Jin Lee 高麗大学校教授、Sug-Bong Choe ソウル大学校教授らと共同で、フェリ磁性ガドリニウム・鉄・コバルト(GdFeCo)アモルファス合金中にジャロシンスキー守谷相互作用(DMI)が存在することを見いだし、その発現メカニズムを解明しました。
磁気スキルミオンを安定化させるDMI発現には空間反転対称性破れが必要です。そのため、DMI研究は主に反転対称性のない強磁性金属/重金属界面を利用して行われてきました。アモルファス合金中では、元素の位置はランダムであり、空間反転対称性の破れによる効果は期待できません。したがって、アモルファス合金中ではDMIは存在しないと予想されます。
本研究で見いだされたフェリ磁性体GdFeCoアモルファス合金中のDMIは、本予想に反するものです。本研究では、元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こし、アモルファス合金中にDMIを発現させることを明らかにしました。本研究成果は、新たなDMI材料探索の方向を示しており、今後の高性能材料の開拓が期待されます。
本研究成果は、2019年5月28日に、国際学術誌「Nature Materials」のオンライン版に掲載されました。

図:フェリ磁性体アモルファス合金中にDMI が発現することを実証

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41563-019-0380-x

Duck-Ho Kim, Mitsutaka Haruta, Hye-Won Ko, Gyungchoon Go, Hyeon-Jong Park, Tomoe Nishimura, Dae-Yun Kim, Takaya Okuno, Yuushou Hirata, Yasuhiro Futakawa, Hiroki Yoshikawa, Wooseung Ham, Sanghoon Kim, Hiroki Kurata, Arata Tsukamoto, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Sug-Bong Choe, Kyung-Jin Lee & Teruo Ono (2019). Bulk Dzyaloshinskii–Moriya interaction in amorphous ferrimagnetic alloys. Nature Materials.

詳しい研究内容について

フェリ磁性体アモルファス合金の ジャロシンスキー守谷相互作用の観測に成功
―元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こす―

概要
京都大学化学研究所の小野輝男 教授、倉田博基 同教授、治田充貴 同助教、Duck-Ho Kim 同研究員らの研 究グループは、日本大学 塚本新 教授、高麗大学校 Kyung-Jin Lee 教授、ソウル大学校 Sug-Bong Choe 教 授らと共同で、フェリ磁性ガドリニウム・鉄・コバルト(GdFeCo)アモルファス合金中にジャロシンスキー守 谷相互作用(DMI)が存在することを見いだし、その発現メカニズムを解明しました。磁気スキルミオンを安定 化させる DMI 発現には空間反転対称性破れが必要です。そのため、DMI 研究は主に反転対称性のない強磁性 金属/重金属界面を利用して行われてきました。アモルファス合金中では、元素の位置はランダムであり、空 間反転対称性の破れによる効果は期待できません。したがって、アモルファス合金中では DMI は存在しない と予想されます。本研究で見いだされたフェリ磁性体 GdFeCo アモルファス合金中の DMI は、この直感に反 するものです。
本研究では、元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こし、アモルファス合金 中に DMI が発現させることを明らかにしました。
本成果は、新たな DMI 材料探索の方向を示しており、今後 の高性能材料の開拓が期待されます。 本研究成果は 2019 年 5 月 28 日に国際学術誌「Nature Materials」にオンライン公開されました。


図:フェリ磁性体アモルファス合金中に DMI が発現することを実証した

ポイント
 ●磁気スキルミオンを利用した情報デバイスが提案されています。ジャロシンスキー守谷相互作用(DMI) は、磁気スキルミオンを安定化する重要な相互作用です。
● フェリ磁性体アモルファス合金の元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こし、アモル ファス合金中に DMI が発現させることを実験的に観測しました。
● 本成果は、これまで強磁性金属/重金属界面を中心に行われていた DMI 研究に新たな材料探索の方向を 示しており、今後の高性能材料の開拓が期待されます。

1.背景
空間反転対称性の破れは物理学の多くの分野において一般的な基本概念です。磁性材料においては、空間反 転対称性の破れがジャロシンスキー守谷相互作用 DMI : Dzyaloshinskii–Moriya interaction)を発現させ、ス ピントロニクスデバイスへの応用の可能性がある魅力的な物理的挙動をもたらします。近年、ホモキラル磁壁 (図 1a)や磁気スキルミオン (図 2b)のようなキラル 対掌的)なスピン構造を安定化させる DMI は盛んに 研究されています。これまでの研究では、強磁性金属/重金属二層膜系において DMI の研究がなされており、 この系では界面の存在によって構造的に空間反転対称性が破れています。強磁性材料の DMI は広く研究され てきましたが、フェリ磁性材料の DMI はほとんど研究されてきませんでした。そもそも、アモルファス合金 では優先配向がないために DMI のような空間反転対称性の破れに由来する効果が消失すると予想されます。


図 1
(a) ホモキラル磁壁。 (b) 磁気スキルミオン。

2.研究手法・成果
本研究では、垂直磁気異方性を示すフェリ磁性ガドリニウム・鉄・コバルト(GdFeCo)アモルファス合金薄 膜 図 2a)を用いました。Gd と FeCo の磁化は反平行に結合しています。シリコン基板上に作製した GdFeCo アモルファス合金薄膜の DMI 測定結果が図 2b です。DMI 定数 D とフェリ磁性層の膜厚 t の間に線形関係が あることを見出しました。これは GdFeCo アモルファス合金薄膜全体に DMI が存在していることを示してい ます。空間反転対称性の破れが期待されないアモルファス合金における DMI 発現メカニズムを探るために、 走査透過型電子顕微鏡 STEM)と電子エネルギー損失分光法 EELS)を用いて試料の構造を詳細に検討しま した。その結果、Gd と Fe の組成比 Gd/Fe)が厚さ方向に沿って徐々に大きくなることが明らかになりまし た。この元素組成の非対称な分布が反転対称性の破れの原因であると考えられます。


図 2(a) フェリ磁性体 GdFeCo アモルファス合金薄膜の概略図。 (b) DMI 定数 D のフェリ磁性層膜厚 t 依存 性。膜厚 t の増加に伴って D が増加している。 (c) Gd と Fe の組成比 Gd/Fe)の厚さ依存性

3.波及効果、今後の予定
本研究では、元素組成の連続的変化が空間反転対称性の破れを引き起こし、アモルファス合金中に DMI が 発現することを明らかにしました。これまで、DMI 研究は主に強磁性金属/重金属界面を利用して行われてき ました。この場合、DMI は界面のみに存在するため、強磁性金属が厚くなると、その効果は相対的に小さくな ってしまいます。一方、今回報告したアモルファス合金中の DMI は薄膜全体に存在します。本成果は、新た な DMI 材料探索の方向を示しており、今後の高性能磁性材料の開拓が期待されます。

4.研究プロジェクトについて
本研究の一部は、科研研究費補助金「特別推進研究」、「新学術領域研究:ナノスピン変換科学」、スピント ロニクス学術研究基盤連携ネットワークの助成を受けて行われました。

<用語解説>
空間反転対称性の破れ:物質 A と物質 B で出来た 2 層膜 A/B において、A と B を空間的に入れ替えると B/A となりもとの A/B とは対称性が異なる。このような構造を反転対称性が破れているという。

<研究者のコメント>
ジャロシンスキー守谷相互作用は、磁気スキルミオンのようなスピントロニクスデバイスで重要となるキラ ルなスピン構造を安定化させるため、盛んに研究されてきました。これまでの研究では、おもに強磁性金属/ 重金属二層膜系において研究がなされてきましたが、その組み合わせには限りがあります。本成果は、新たな 材料探索の方向を示しており、今後の高性能磁性材料の開拓の場を広げると期待しています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Bulk Dzyaloshinskii–Moriya interaction in amorphous ferrimagnetic alloys アモルファスフェリ 磁性体におけるジャロシンスキー守谷相互作用)
著 者:Duck-Ho Kim, Mitsutaka Haruta, Hye-Won Ko, Gyungchoon Go, Hyeon-Jong Park, Tomoe Nishimura, Dae-Yun Kim, Takaya Okuno, Yuushou Hirata, Yasuhiro Futakawa, Hiroki Yoshikawa, Wooseung Ham, Sanghoon Kim, Hiroki Kurata, Arata Tsukamoto, Yoichi Shiota, Takahiro Moriyama, Sug-Bong Choe, Kyung-Jin Lee and Teruo Ono
掲 載 誌:Nature Materials
DOI: https://doi.org/10.1038/s41563-019-0380-x

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