ディープラーニングにより精度97%で気温の上下を推定する手法を開発

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疑似カラー画像による効率的な自動識別

2019-04-26 京都大学

伊勢武史 フィールド科学教育研究センター准教授と大庭ゆりか 同特定助教は、過去の気温データから生成した疑似カラー画像をディープラーニングで学習させるという新発想により、シンプルな作業を小型のコンピュータで実行するだけで、10年間の平均気温の上下を最大精度97.0%で推定できる手法を開発しました。

これまで、気候変動の予測はスーパーコンピュータを用いた物理計算が主流でしたが、それは大型の国家プロジェクト級の予算とマンパワーを必要としていました。
従来の「ボトムアップ(物理)型」研究とは異なる「トップダウン(統計)型」研究の有効性が実証されたことにより、気候変動予測の高精度化が可能になることに加え、さまざまな学術研究や将来予測に人工知能が活用できることが示唆されます。

本研究成果は、2019年4月26日以降に、国際学術誌「Frontiers in Robotics and AI」にオンライン公開される予定です。

ディープラーニングにより精度97%で気温の上下を推定する手法を開発

図:本研究の概要図

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.3389/frobt.2019.00032

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/241058

Takeshi Ise and Yurika Oba (2019). Forecasting Climatic Trends Using Neural Networks: An Experimental Study Using Global Historical Data. Frontiers in Robotics and AI, 6:32.

日刊工業新聞(4月26日 29面)に掲載されました。

詳しい研究内容について

ディープラーニングにより精度 97%で気温の上下を推定する手法を開発
―疑似カラー画像による効率的な自動識別―

概要
これまで、気候変動の予測はスーパーコンピュータを用いた物理計算が主流でしたが、それは大型の国家プ ロジェクト級の予算とマンパワーを必要としていました。京都大学フィールド科学教育研究センターの伊勢武 史准教授と大庭ゆりか特定助教によるこの研究では、過去の気温データから生成した疑似カラー画像をディー プラーニングで学習させるという新発想により、シンプルな作業を小型のコンピュータで実行するだけで、10 年間の平均気温の上下を最大精度 97.0%で推定できるようになりました。従来の「ボトムアップ(物理)型」 研究とは異なる「トップダウン(統計)型」研究の有効性が実証されたことにより、気候変動予測の高精度化 が可能になることに加え、さまざまな学術研究や将来予測に人工知能が活用できることが示唆されます。
この成果は、2019 年 4 月 26 日以降に、スイスの国際学術誌「Frontiers in Robotics and AI」にオンライン 公開される予定です。


1. 背景
これまで、気候変動の予測はスーパーコンピュータを用いた物理計算が主流でしたが、それは大型の国家 プロジェクト級の予算とマンパワーを必要としていました。気候変動は今世紀最大の環境問題といわれてお り、各国政府は力を入れて研究を進めていますが、将来予測には依然として不確実性がつきまとっていま す。物理計算の根拠となるデータが不完全なことに加え、巨大な研究対象である地球全体を細かく計算しよ うとすればするほど、精細なシミュレーションモデルとより大きなスパコンが必要となり、予算とマンパワ ーをさらに膨張させる原因となります。さらに、気候変動に関する新たな知見が発見されるたびに、それを 数式化してシミュレーションモデルに組み込む必要があり、モデルを複雑で不安定なものにするという側面 があります。モデルが複雑になればなるほど研究者のバイアスが混入する可能性もありますが、それを防止 する対策はあまりとられていませんでした。筆頭著者の伊勢はもともと JAMSTEC で気候変動のシミュレー ション研究に携わっていたため、これらの問題点を肌で感じていました。
物理的な気候予測研究はボトムアップ型といえます。既知の知見という細かなパーツを積み重ね、全体を 理解するというものです。対して、統計的に傾向を分析するのはトップダウン型です。気候変動のメカニズ ムはブラックボックスとしたままで、確率的に傾向を理解することを目指すものです。これまでの気候予測 研究はボトムアップ一辺倒でしたが、本研究ではトップダウン思考を取り入れました。

この研究は、(公財)日本財団から助成を受けた京都大学森里海連環学教育研究ユニット「森里海連環再生 プログラム」において、広域の環境問題についての因果関係を分析する革新的な手法のひとつとして開発さ れた技術を気候変動に応用したものです。

2.研究手法・成果
この研究では、トップダウン型の思想を体現するディープラーニングを用いて、過去の全世界の気温データ から将来の気温の上昇・下降を推定しました。まず、イギリスの Climate「Research「Unit が提供する過去の気 温データ(1901 年から 2016 年の月ごと、緯度経度 0.5 度きざみの全陸地のデータ)をダウンロードしまし た。全世界の各地点のデータから連続した 30 年分を抜き出し、疑似カラ ーの 2 次元画像を生成します(右図)。これは、縦に 1 月から 12 月の各 月の温度、横に 30 年の年ごとの温度を配置した図で、色は温度の高低を 表しています。季節ごと・年ごとの気候のトレンドを視覚的に表現した 図になります。
このような画像にすることで、人工知能はその特徴を学習することが 容易になります。もともと人工知能は、人間の顔などを 2 次元画像から 自動識別することが得意で、そのためのさまざまなツールが公開され、 日進月歩で高性能化が進んでいます。この研究の特徴は、これらの便利 なツールの流用が可能な枠組みをつくったことにあります。だから、い ちからツールを開発せずに、スピーディに将来予測を実現することができました。
このような画像を数万から数十万枚生成し、その特徴をディープラーニングで学習させました。その結果、 最大精度 97.0%で、その後の 10 年の平均気温が上がるか・下がるかを予測することが可能になりました。2016 年までの気温データから、その後 10 年の平均気温が上がるか下がるかを予測した結果が下の図になります。

全世界で見れば温暖化が進むことは明らかですが、10 年ていどのスパンでは地域によっては温度上昇がゆるやか、あるいは気温が下がることもあり得るとの結果になりました。地域ごとの違いを予測することで、今 後の気候研究や温暖化対策の進展に貢献することが期待されます。

3.波及効果、今後の予定
予測の高精度化-「上がるか下がるか」から「何℃上がるか」
この研究は、ディープラーニングを気候予測に応用する革新的な技術開発を速報するという意味合いをこめ、 あえて「「上がるか下がるか」という2クラス分類に簡略化した実験をしました。これも研究の第一歩としての 大きな意義を持ちますが、次のステップでは「「何℃上がるか」の予測を実現します。現在すでに実験をスター トしており、ディープラーニングの高い性能が予感させる成果が得られています。

予測の高精度化-データをフル活用する
この研究は、過去の世界の気温データのみを利用して将来の気候を予測するものでしたが、気温以外のデー タも利用できれば、さらに高精度な予測が可能になるかもしれません。現在、複数のデータを同時に人工知能 に学習させる手法についての研究を行っています。

既存の気候予測に組み込む
この研究は、既存の気候予測「(ボトムアップ型)とは異なるアプローチ「(トップダウン型)を採りましたが、 それは既存の研究を否定するためではありません。既存の枠組みでないと実現できない成果もありますから、 ふたつのアプローチを統合することで、よりよい将来予測が実現すると考えています。具体的には、ボトムア ップ型モデルの性能評価や最適化、異常気象など新たに組み込むべき現象の提案を行っていきます。

4.研究プロジェクトについて
本研究は、(国研)科学技術振興機構「「さきがけ」プログラムおよび「(公財)日本財団と京都大学の共同事業 「森里海連環再生プログラム」の研究として実施されました。

<研究者のコメント>
私たちが革新的な新技術であるディープラーニングを積極的に活用している理由は、研究者としてのベスト を尽くして、環境問題・社会問題の解決に貢献したいと願っているからです。技術を開発することがゴールで はなく、これをツールとして活用してさまざまな問題を解決しなければなりません。未来を予測する有望なツ ールをひとつ増やすことができたので、他の研究と積極的に比較や統合を進めていきたいと考えています。

<論文タイトルと著者>
タイトル:Forecasting climatic  trends using neural  etworks: An experimental study using global historical  data (ニューラルネットワークで気候のトレンドを予測する :全世界の過去のデータを使った実験)
著 者:Takeshi  Ise  and  Yurika  Oba
掲 載 誌:Frontiers in Robotics 「and AI DOI:10.3389/frobt.2019.00032

 

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