熱エネルギーで秩序状態と無秩序状態を行き来する化学システムを開発

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2019-03-29  東京大学大学院総合文化研究科・教養学部

二種類の気体を混合すると、互いに混ざり合い自発的に無秩序な状態になる一方で、混ざった気体を温度変化だけで元の分離した秩序状態へ戻すことは一般的にはできません。東京大学大学院総合文化研究科の平岡秀一教授らは、分子が自発的に集合化する自己集合という系を利用して、熱エネルギーを使って化学的に秩序状態と無秩序状態間を繰り返し行き来する化学システムを構築しました。化学構造の異なる、二種類の歯車状両親媒性分子から水中で箱型の六量体を形成するナノキューブと呼ばれる自己集合体を形成し、核磁気共鳴(NMR)分光および質量分析により、ナノキューブ間における構成要素(歯車状両親媒性分子)の交換について調べました。構成要素がランダムに混ざった無秩序状態のナノキューブの混合物を100 °Cで加熱後、0 °Cへ急冷すると、単一の構成要素からなるナノキューブを主成分とする秩序状態へ変換できることを示しました。二つの状態間を外部エネルギーにより変換する系はスイッチやメモリーとして働きます。本研究のように構成要素が集合化した分子系では、構成要素間の交換に伴う状態間の大きな変換が起こるため、マクロな物理的もしくは化学的な特性が変化する材料の開発が期待されます。

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論文情報

Yi-Yang Zhan, Tatsuo Kojima, Kentaro Ishii, Satoshi Takahashi, Yohei Haketa, Hiromitsu Maeda, Susumu Uchiyama, and Shuichi Hiraoka*, “Temperature-controlled repeatable scrambling and induced-sorting of building blocks between cubic assemblies,” Nature Communications, doi:10.1038/s41467-019-09495-1.

1.発表者:
平岡 秀一(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授)
小島 達央(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻 助教)
Yi-Yang Zhan(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 博士課程3年生)

2.発表のポイント:
◆温度を変えることで、化学的に秩序状態と無秩序状態間を繰り返し行き来する化学システムを構築しました。
◆一般的に、高温では無秩序な状態が安定になりますが、一度温度を上げてから温度を下げるという操作で無秩序状態から秩序状態への変換を実現しました。また、二状態間の変換のタイミングをコントロールすることにも成功しました。
◆今後、構成要素間の交換に伴う状態間の大きな変換を利用してマクロな物理的もしくは化学的な特性が変化する材料の開発が期待されます。

3.発表概要:
 
二種類の気体を混合すると、互いに混ざり合い自発的に無秩序な状態になる一方で、混ざった気体を温度変化だけで元の分離した秩序状態へ戻すことは一般的にはできません。東京大学大学院総合文化研究科の平岡秀一教授らは、分子が自発的に集合化する自己集合という系を利用して、熱エネルギーを使って化学的に秩序状態と無秩序状態間を繰り返し行き来する化学システムを構築しました。化学構造の異なる、二種類の歯車状両親媒性分子から水中で箱型の六量体を形成するナノキューブと呼ばれる自己集合体を形成し、核磁気共鳴(NMR)分光および質量分析により、ナノキューブ間における構成要素(歯車状両親媒性分子)の交換について調べました。構成要素がランダムに混ざった無秩序状態のナノキューブの混合物を 100 °C で加熱後、0 °C へ急冷すると、単一の構成要素からなるナノキューブを主成分とする秩序状態へ変換できることを示しました。二つの状態間を外部エネルギーにより変換する系はスイッチやメモリーとして働きます。本研究のように構成要素が集合化した分子系では、構成要素間の交換に伴う状態間の大きな変換が起こるため、マクロな物理的もしくは化学的な特性が変化する材料の開発が期待されます。

4.発表内容:
 
二種類の気体を混合すると、自発的に混ざり合いますが、混合した気体が自発的に分離することはありません。このようにある系がどちらへ自発的に進むかを示す量としてエントロピーがあります。エントロピーは取りうる状態の数が多いほど大きく、エントロピーの大きい状態へ自発的に系が移動します。気体の混合を模式的に空間を埋めるブロックで表すと(図1a)、二種類の気体(A、B)が左右に分かれた状態(分離した状態)は一通りですが、混合した状態は様々な組み合わせが可能で、状態の数が沢山あるために、エントロピーが大きいことがわかります。すなわち、混合状態(無秩序状態)の方が分離した状態(秩序状態)よりもエントロピーが大きく、無秩序状態へ自発的に進みます。そのため、無秩序状態から秩序状態へ変換するにはエネルギーが必要です。また、温度が高いほど無秩序状態が有利なため、温度変化だけで無秩序状態から秩序状態へ移動させるということは容易ではありません。
 本研究グループは歯車状両親媒性分子と呼ばれる分子を使って、秩序状態と無秩序状態間を熱エネルギーにより相互に変換する化学システムを構築しました。歯車状両親媒性分子は水中で六つの分子が自発的に集合し、箱型の六量体(ナノキューブ)を形成します。ここで、化学構造の似た二種類の歯車状両親媒性分子(1 および 2(図 1b))から形成されたナノキューブの水溶液(16と 26)を混合すると、それぞれの構成要素(1 と 2)を互いに交換し、最終的に 1 と 2 が混ざり合った(ヘテロな)ナノキューブ(1×26–x (x = 1 から 5))が主に生成します。すなわち、ホモなナノキューブ(秩序状態)の構成要素を互いに交換(スクランブル)し、ヘテロなナノキューブ(無秩序状態)へ自発的に変化します。研究グループは 1 と 2 の数の異なるナノキューブの間で安定性が異なることに着目し、温度変化により無秩序状態から秩序状態へ変換することに成功しました。1 が多く含まれたナノキューブほど安定で、16は 100 ° C でも全く分解しませんが、26は 100 °C では全てバラバラになり単量体(2)へ解離します。ヘテロなナノキューブの混合物(無秩序状態)を 100 °C に加熱すると、83%の 1 が 16を形成し、多くの 2 は単量体として存在していることが、核磁気共鳴分光によりわかりました。その後、この溶液を 0 °C に急冷すると、単量体の 2 が集合化し 26を形成して、16と 26を主成分とする秩序状態へ戻りました。秩序状態と無秩序状態間は温度変化のみで繰り返し変換できました。
 ナノキューブ間における構成要素(1 と 2)のスクランブルの機構を調べるために、1 および 2 を部分的に重水素化した分子(1D および 2D(図 1b))を合成し、これらを用いて秩序状態から無秩序状態への変換を質量分析により調べました。その結果、濃度が低いほど構成要素の交換が速いことがわかり、スクランブルはナノキューブから解離したわずかに存在する単量体の交換を介して起こっていることが明らかになりました。
 また、ナノキューブには 1 nm 径ほどの内部空間が存在し、この中へ小分子を取り込むと、ナノキューブ間における構成要素(1 と 2)のスクランブルを抑制できることがわかりました(図 1c)。そのため、秩序状態で小分子(G)を包接すると、不安定な秩序状態を維持し、その後、望むタイミングで小分子(G)をナノキューブから放出することで、再び秩序状態から無秩序状態へ自発的な変換を引き起こすことができました。
 安定性の異なる二つの状態間を外部エネルギーにより変換する系は、スイッチやメモリーとして働きます。本研究のように構成要素が集合化したより大きな分子系における構成要素間の交換に伴う状態間の変換では、マクロな物理的もしくは化学的な特性を変化させられる可能性があり、材料開発への応用が期待されます。

5.発表雑誌:
雑誌名:Nature Communications
論文タイトル:Temperature-controlled repeatable scrambling and induced-sorting of building blocks between cubic assemblies
著者:Yi-Yang Zhan, Tatsuo Kojima, Kentaro Ishii, Satoshi Takahashi, Yohei Haketa, Hiromitsu Maeda, Susumu Uchiyama, and Shuichi Hiraoka*
DOI 番号:10.1038/s41467-019-09495-1

6.問い合わせ先:
東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻教授
平岡 秀一(ひらおか しゅういち)

7.添付資料:


図 1. (a) 秩序状態と無秩序状態の模式図。(b) 本研究で用いた二種類の歯車状両親媒性分子の構造式と箱型六量体(ナノキューブ)を利用した温度変化による秩序状態と無秩序状態間の相互変換。(c) 包接分子(G)を利用した秩序状態と無秩序状態間の相互変換のタイミングの制御。 G を取り込むと相互変換がロックされ、G を取り除くと再び相互変換が可能になる。ここで、 G は n-ヘキサンである。

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