宇宙初期の痕跡が残る大星団の「人口調査」

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2023-07-05 国立天文台

すばる望遠鏡の赤外線観測装置 MOIRCS を用いた撮像観測から、約 100 億年前の宇宙に似た環境では、どのような星が生まれるのかが調査されました。そのような環境下で様々な質量の星を含む大星団の、詳細な「人口調査」がされた初めての観測例です。

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宇宙初期の痕跡が残る大星団の「人口調査」 図

図1:本研究の調査対象になった「Sh 2-209」。銀河系の外縁部では稀な、大規模な星形成領域です。すばる望遠鏡の MORICS による画像で、青、緑、赤は、それぞれ近赤外線のJバンド(波長 1.26 マイクロメートル)、Hバンド(1.64 マイクロメートル)、Ks バンド(2.15 マイクロメートル)に対応します。(クレジット:国立天文台)


星は、銀河宇宙のもっとも主要な構成要素ですが、誕生時の質量によっておおよその一生が決まります。銀河を構成するほとんどすべての星は、巨大なガス雲の中で、集団(星団)として生まれ、その後1億年程度の時間をかけて銀河内に散逸していくことが知られています。そのため、どのような重さの星がどのくらい生まれるかという、星の質量分布(初期質量関数;IMF)により、星団、さらには、銀河全体のおおよその進化も決定されることになります。
これまでの観測から、太陽の近傍では、どの星団も似たような IMF を持つことがわかってきました。しかしながら、銀河系の中には、環境が大きく異なる領域が混在していることが知られています。宇宙における物質は水素がほとんどを占めていますが、星の内部における核融合により、水素やヘリウムより重い様々な元素(これを天文学ではまとめて「金属」と呼びます)が生成され、超新星爆発とともに周囲にばらまかれます。その結果、金属量や元素組成といった「化学的環境」も領域によって異なる時間スケールで進化していくのです。
低金属量の環境ではどのような星が生まれるのかを調べるため、国立天文台の安井千香子助教が率いる研究チームは、銀河系の外縁部にある星生成領域「Sh 2-209」(S209)に注目しました。この領域は、太陽近傍と比べて金属量が 10 分の1程度しかなく、宇宙の平均的な化学進化に照らし合わせると、約 100 億年前に相当します。つまり、この星形成領域は 100 億年前の宇宙における「星の生まれ方」を示唆する可能性があります。
すばる望遠鏡の集光力と解像力を活かした観測により、研究チームは、太陽質量の 10 分の1ほどの軽く暗い星までを明確に捉えた撮像に成功しました。その結果、S209 は大小2つの星団から成っており、大きな方の星団は 1500 個ものメンバー星で構成されていることが分かりました。銀河系の外縁部でこれほど大規模な星形成領域が確認されたのは初めてのことです。これにより、低い金属量環境における IMF を 0.1 太陽質量から 20 太陽質量という広い質量範囲で高い精度で導き出すことが初めて可能になりました。調査の結果、太陽系近傍の星形成領域と比べて、S209 では重い星の割合がやや高い傾向が見られる一方、太陽よりも軽い星も数多く存在することが分かりました(図2)。

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宇宙初期の痕跡が残る大星団の「人口調査」 図2

図2:S209 の IMF(黒色の線)と太陽近傍の星団における典型的な IMF(オレンジの線)。S209 では、近傍の星団に比べて質量の大きな星がやや多く生まれる一方で、0.1 ~ 0.3 太陽質量の軽い星も近傍の星団に比較して多く生まれていることが分かりました。(クレジット:国立天文台)


「銀河系外縁部は、宇宙の初期と似た性質を持つことが知られています。今回得られた結果は、宇宙初期には重い星が比較的多く形成されるものの、その数自体は、現在の典型的な星団と比べて劇的には変わらないことを示唆するものになりました」と安井助教は語ります。
「今後は、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡により、S209 と同様の領域において、惑星程度の質量の天体まで調査することが可能になります。また、2030年代に観測が開始される次世代超大型望遠鏡 TMT では、天の川銀河だけでなく、近傍銀河にある星団の IMF も調査できるようになるでしょう。様々な環境下での IMF の調査することで、銀河系全体の進化の描像が明らかになっていくことが期待されます」と安井助教は展望を語ります。
本研究成果は、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に 2023年2月2日付で掲載されました(Yasui et al. “Mass Function of a Young Cluster in a Low-metallicity Environment. Sh 2-209“)。

すばる望遠鏡について
すばる望遠鏡は自然科学研究機構国立天文台が運用する大型光学赤外線望遠鏡で、文部科学省・大規模学術フロンティア促進事業の支援を受けています。すばる望遠鏡が設置されているマウナケアは、貴重な自然環境であるとともにハワイの文化・歴史において大切な場所であり、私たちはマウナケアから宇宙を探究する機会を得られていることに深く感謝します。

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