室温近傍の熱電性能向上のための新指針
2019-03-05 物質・材料研究機構
NIMSは、株式会社日立製作所と、弱い強磁性を示す金属合金において、磁性が失われる温度周辺の幅広い温度域で、熱電性能が著しく上昇することを発見しました。強磁性体における磁性の変化が熱電性能を大きく上昇させることを示した初めての成果であり、高効率な熱電材料設計の新たな指針となることが期待されます。
概要
- NIMSは、株式会社日立製作所 (以下、日立) と、弱い強磁性を示す金属合金において、磁性が失われる温度 (強磁性転移温度 : Tc) 周辺の幅広い温度域で、熱電性能が著しく上昇することを発見しました。強磁性体における磁性の変化が熱電性能を大きく上昇させることを示した初めての成果であり、高効率な熱電材料設計の新たな指針となることが期待されます。
- 熱を電力に変換する熱電変換技術は、工場などの廃熱利用や、IoTデバイスへの電力供給などへの応用が期待されており、高い変換効率をもつ熱電材料を求めて世界中で研究が進められています。しかし材料の熱電性能は多くの物理的性質が関係しあっているため、特性向上は容易ではありません。そのため既存の枠組みを超えた新しい開発指針が求められています。これまでNIMSでは、磁性を持たない熱電材料に磁性元素を添加することで、熱電材料の発電量の指標となる出力因子が上昇するなどの観測結果を得ており、磁性と熱電性能の相関関係に注目して熱電性能の高性能化を目指した研究を行ってきました。
- 今回、研究チームは、研究対象を材料自身が磁性を持つ金属材料にも広げて熱電性能の検討を行ったところ、強磁性体の合金において熱電性能の顕著な上昇がみられることを発見しました。この強磁性体は、Fe, V, Al, Siを含んだ弱い強磁性合金で、強磁性転移温度 (Tc) 周辺の非常に幅広い温度域で熱電性能の向上がみられ、特にTcが室温に近い場合、Tc近辺では変換効率を最大で2倍程度も向上させることがわかりました。これは金属強磁性体に特有の「スピン揺らぎ」が、熱を効率よく吸収して電子のエネルギーに変換する性質を持っているためと考えられます。
- 今回の発見は、室温付近で強磁性を示す物質から高効率の熱電材料が作製できる可能性があることを示しています。今後、この効果を、電子状態計算やデータ駆動形材料探索にも取り入れることで、高性能熱電材料の開発が加速し、生活の身近なところで利用できる熱電発電デバイスの実用化につながると期待されます。
- 本研究は、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点および機能性材料研究拠点の辻井直人主幹研究員、森孝雄グループリーダーが、日立の西出聡悟研究員、早川純主管研究員とともに行いました。また本研究は 、科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業 (CREST) 「微小エネルギーを利用した革新的な環境発電技術の創出」 (研究総括 : 谷口研二、研究副総括 : 秋永広幸) における研究課題「新規な磁性半導体熱電材料を用いた熱電発電デバイスの研究開発」の一環として行われました。
- 本研究成果は、Science Advances誌にて2019年2月22日 (米国時間) に掲載されました。
プレスリリース中の図 : 作製された強磁性合金のサンプル
掲載論文
題目 : Observation of enhanced thermopower due to spin fluctuation in weak itinerant ferromagnet
著者 : Naohito Tsujii, Akinori Nishide, Jun Hayakawa, Takao Mori
雑誌 : Science Advances
掲載日時 : 2019年2月23日午前4時 (日本時間)
DOI : 10.1126/sciadv.aat5935
Abstract
Increasing demand for higher energy efficiency calls for waste heat recovery technology. Thus, facilitating practical thermoelectric generation systems is strongly desired. One option is enhancing the thermoelectric power factor, S2/r, where S is the Seebeck coefficient and r is the electrical resistivity, although it is still challenging because of the trade-off between S and r. We demonstrate that enhanced S2/r can be achieved by incorporating magnetic interaction in ferromagnetic metals via the spin fluctuation arising from itinerant electrons. We show that electron-doped Heusler alloys exhibit weak ferromagnetism at TC near room temperature with a small magnetic moment. A pronounced enhancement around TC was observed, with a 20% improvement in the power factor from the case where spin fluctuation is suppressed by applying magnetic field. This result supports the merit of using spin fluctuation to further enhance thermoelectric properties and the potential to further probe correlations and synergy between magnetic and thermoelectric fields.