量子コンピューティングの最新動向[後編] ~自動車業界に変革を導く挑戦~

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FUJITSU JOURNAL 2019-01-09

2018年11月20日、AI、IoTをテーマとした「Fujitsu Insight 2018」を開催しました。「デジタルアニーラが切り拓く新しい未来とは ~量⼦コンピューティング領域における最新動向と富士通の取り組み〜」と題したセミナーの後半では、主に自動車業界における量子コンピューティングの最新動向、そして、デジタルアニーラの活用事例が紹介されました。
【Fujitsu Insight 2018「AI・IoT」セミナーレポート】

量子コンピュータで世界を変える、デンソーの挑戦

講演の後半では、デンソーの寺部 雅能 氏が製造業の立場から、IoTや量子コンピュータなど先端技術への取り組みを説明しました。

自動車業界は100年に一度の変革期、課題は“最適化”

株式会社デンソー 先端技術研究所 担当係長 寺部 雅能 氏

私は量子コンピュータを使って世界を変える挑戦をしています。組合せ最適化は社会を変革するインパクトを持っています。渋滞で例えると、誰もが「自分が一番早く目的地に到着したい」と思うはずです。そのため、道が渋滞してくると、みんなが一斉にすいている道を探すので、今度はそちらが混んできて、いつまでたっても渋滞はなくなりません。ところが全員が「みんなで早く着こう」と考えると、渋滞は起こらず、みんなが嬉しいという社会になります。量子アニーリングを使えば、そういう「みんなが嬉しく思う、新しい社会」を作ることができます。

そこで、社会の変革を実現するような最適化が行える超高速に実行できる量子アニーリングを使って、新しいうれしさを提供しようという取り組みをしています。

自動車業界は100年に一度の変革期と呼ばれています。キーワードは電動化(電気自動車)、自動運転、コネクティッドカーです。よく耳にする言葉ではないかと思うかもしれませんが、これは技術の話ではなく、本当は市場やサービスの変革の話です。街中に大きなバッテリーが走っていると考えれば、電気の輸送というサービスが考えられます。インターネットにつながれば、スマホのように自動車用アプリを作ってみようと考える人が出てくるかもしれません。かつての自動車はモノを売るイメージでした。しかし、これからは自動車を使ったサービスの市場が広がっていきます。コネクティッド、つまりIoTによってこの市場は生まれていくといわれています。

実は、コネクティッドという未来を迎えるところにある課題が最適化です。IoTはいろいろなものにセンサーをつけるモニタリングから始まります。これがステップ1です。それによって渋滞の状況などが見えるようになります。今度はそれを使って制御するというステップ2に移ります。ステップ3では、もっと高度な制御でビッグデータ解析、そのなかの最適化が行われます。そして最後のステップ4で自動化されていきます。

量子コンピューティングの最新動向[後編] ~自動車業界に変革を導く挑戦~

コネクティッド分野の未来の課題は“最適化”

自動車のIoTの世界では、すでに車体には大量のセンサーがついています。そのデータを使って何をしようかという段階にあります。そのため自動車の市場では、次のステップ3の最適化がこれから始まってくるでしょう。

デンソー量子コンピューティングチームのスローガン「Optimize the moment」

すでにデンソーでは、瞬間を最適化することで生まれる価値があるというコンセプトを持ち、「Optimize the moment」というスローガンを掲げ、アニーリングマシンを使っていろいろな挑戦を始めています。

例えば、タイで豊田通商と共同で行っている交通アプリを使った実証実験、自社工場の生産性を上げるための実証実験です。タイの実証実験では、商用交通アプリを用い、渋滞解消だけにとらわれず配送問題など、交通に起因する課題を、実証を通じて新しい市場を作る試みを行っています。

一方、工場の中では日々変化が生じます。人や生産状況などの変化です。以前は最適化しようとすると時間がかかりすぎるため、1か月分まとめて行うしか手がなかったのですが、量子コンピュータによって、日々リアルタイムに進化し続ける工場ができるのではないかと考え、実証実験を行っています。

その1つの成果が無人配送車の動きの最適化によって、稼働率を15%向上させたことです。工場での改善では15%という数値はものすごいものです。自動配送に使うロボットを1割以上減らせるわけですから、大きなコストメリットがあると見えてきました。

このような実証実験を社外に発信するとものすごくたくさんの声が集まります。するとこんなことができないかと話になり、さらに実証実験が広がります。交通の渋滞をなくすことは、環境やエネルギー、人の健康の最適化にもなります。1つの課題をつき詰めていくと社会全体を最適化するアプリケーションがあるのではないかと気づきを得ています。

さらにその先で何を目指しているのでしょうか。その先に大きな市場があるかもわかりません。しかし、宝物があると信じて私たちは仲間を作り技術の向上に取り組んでいます。

富士通のデジタルアニーラも8月から使い始め、工場内の無人搬送機(AGV)経路最適化をモデルに検証を実施し、大きな成果が出ると見ています。より大きな社会的に意味のある問題を取り扱えるのがデジタルアニーラの利点ではないかと思います。

デンソーと富士通のデジタルアニーラの今後の活用の方向性

デジタルアニーラの活用は、検証から実用化へ

セミナーの最後には、富士通の藤 健太郎がデジタルアニーラのサービスと今後の展開について紹介しました。

富士通株式会社 グローバルマーケティング本部ビジネス開発統括部デジタルアニーラ推進部 統括部長
藤 健太郎

デジタルアニーラは5月よりクラウドサービスとテクニカルサービスを提供しています。テクニカルサービスは、アニーリングを行うために必要となる前処理の数式化や導入支援、運用などを支援します。またお客様のデータセンターに設置して利用できるオンプレミスサービスの提供も予定しています。サービスを開始してから、さまざまなお客様にご利用いただいています。

デジタルアニーラは、2018年12月に第2世代を提供する予定です。第2世代は第1世代よりも100倍のスピードを発揮し、扱う問題の規模も8192ビットと、第1世代よりも大幅に拡張します。またデジタルアニーラ専用の独自チップを開発し実装します。

第1世代のデジタルアニーラの応用は、お客様が検証から実用化に踏み込もうとしているタイミングですが、第2世代になり、スピードが上がり8000ビットクラスになると実際の業務課題が扱えるようになるのではないかと考えております。さらに今後は、小型化、並列化を強化し、100万ビットクラスの扱える次世代のデジタルアニーラの開発に取り組んでいきます。

デジタルアニーラのロードマップ

登壇者
株式会社デンソー 先端技術研究所 担当係長 寺部 雅能 氏
富士通株式会社 グローバルマーケティング本部ビジネス開発統括部 デジタルアニーラ推進部 統括部長
藤 健太郎
1601コンピュータ工学
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