メタンをエタンと水素に変換する可視光反応プロセスを開発

スポンサーリンク

豊富な炭素資源からの化成品原料製造に期待

2019-01-23  科学技術振興機構,北九州市立大学

ポイント
  • メタンを有用化学品へ変換できる省エネルギーな化学プロセスの開発が脱石油社会に向けて期待。
  • 気相のメタン分子を活性化できる光電気化学反応プロセスを独自に開発し、投入エネルギーの小さな可視光を利用して室温においてメタンをエタンに変換できることを世界で初めて実証。
  • クリーンかつ安価で豊富な天然炭素資源であるメタンを水素や化成品原料に変換するガス化学産業の創出に向けた新しい反応プロセスの提案。

JST 戦略的創造研究推進事業において、北九州市立大学 国際環境工学部の天野 史章 准教授らの研究グループは、室温においてエネルギーの低い可視光を利用してメタン(CH)を一段階でエタン(C)と水素(H)に変換できる新しい光電気化学反応プロセスを開発しました。

従来のメタン変換反応は多段階のエネルギー多消費型プロセスであることが問題であり、メタンを有用化学品へと直接変換する化学プロセスの開発が望まれていました。しかしながら、化学的な反応性に乏しいメタン分子の安定なC-H結合を熱触媒的に活性化するには高温が必要であり、選択性の制御は困難でした。一方、光触媒を利用すれば室温でメタンをメチルラジカル注1)(・CH)に活性化できることが知られていました。しかし、紫外光のようなエネルギーの高い光の利用が必要であり、吸収した光子が反応に利用される効率(量子効率)が著しく低いという問題がありました。

研究グループは、可視光を利用して低温でメタンをエタンと水素へと変換することを目的として、気相分子を活性化するための光電気化学注2)反応プロセスを独自に開発しました。酸化タングステン(WO)電極を用いたときに、青色の可視光照射下でメタンのホモカップリング反応注3)が進行し、全生成物のうち50%以上の選択率で目的とするエタンが生成されることを見いだしました。電場の印加によって光励起電子と正孔の再結合が抑制された結果、従来の光触媒反応プロセスと比較して量子効率が大幅に向上しました。さらにプロトン交換膜注4)で仕切られた対極では水素を製造することができました。熱力学的に高温が必要とされるメタンの水蒸気改質注5)による水素製造を室温で可視光エネルギーを使って世界で初めて成功したともいえます。

本研究は、九州工業大学の横野 照尚 教授、および同志社大学の竹中 壮 教授の協力を得て行いました。

本研究成果は、2019年1月22日(米国東部時間)に米国科学誌「ACS Energy Letters」のオンライン版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:「革新的触媒の科学と創製」(研究総括:北川 宏 京都大学 教授)

研究課題名:「光電気化学的メタンカップリング」

研究者:天野 史章(北九州市立大学 准教授)

研究実施場所:北九州市立大学

研究期間:平成27年12月~平成31年3月

<研究の背景と経緯>

天然ガスの主成分であるメタンは、非在来型のシェールガスやメタンハイドレートとしての資源量も豊富であり、石油にかわるエネルギー資源として化学産業利用が期待されています。また、下水処理場などからメタン発酵によって発生する未利用のバイオガスは再生可能資源として注目されています。メタンをメタノールやC2炭化水素(エタンやエチレン)などの有用な化成品に直接変換することができれば低炭素化および経済性の両面で社会的なインパクトがあります。

等方的な分子構造のメタンは炭化水素の中で最もC-H結合の解離エネルギーが大きく反応性が乏しい分子です。現在のメタン変換技術は、高温(750℃以上)での水蒸気改質による合成ガス(一酸化炭素と水素)への変換を伴うエネルギー多消費型の多段階反応プロセスです。これまでにメタンを化成品に直接変換するための反応プロセスの開発が試みられてきましたが、メタンの過剰酸化による二酸化炭素生成などの逐次反応を抑えることは困難でした。選択性を制御するためには、逐次反応の生じにくい低温でメタンを活性化する新しい反応プロセスの開発が必要と考えられます。

酸化チタンに代表される酸化物半導体ナノ粒子は、光エネルギーを吸収して化学反応を誘起する光触媒作用注6)を示します。この半導体光触媒を用いることで、室温でメタンの変換反応を誘起できることが知られていました。しかしながら、光触媒の励起には高エネルギーの深紫外光(波長300ナノメートル(nm)以下)や紫外光(波長400nm以下)が必要でした。さらに、照射した光子の利用効率を示す量子効率が低いことも大きな問題でした。

<研究の内容>

北九州市立大学の天野准教授は、メタンを直接変換する新しい反応プロセスの開発を目的として、紫外光に比べて投入エネルギーが小さくなる可視光(波長400nm以上)を利用しながら、高い量子効率を達成することを目指しました。バンドギャップが小さな酸化物半導体は可視光を吸収できますが、その多くは光誘起キャリアの再結合が早かったり、光励起電子の還元力が弱かったりするため光触媒作用を示しません。一方、外部から電場を印加する光電気化学反応であれば、バンドギャップが小さな酸化物半導体であっても、光誘起キャリアの再結合を抑制し、還元力を高められるため、可視光を利用した光触媒反応を駆動できます。このような光電気化学反応では、空間的に離れた電極上で酸化反応と還元反応が別々に進行するため、酸化生成物と還元生成物を膜分離することもできます。

これまでにメタンの活性化に光電気化学反応を応用した研究はほとんどありませんでした。また、光電気化学反応は一般的には電解質水溶液中で行われます。しかしながら、疎水性のメタン分子は水への溶解度が低いため、水溶液中では高い反応速度を期待できません。そこで、気相のメタン分子を直接活性化できる全固体型の光電気化学セル(図a)の開発に取り組みました。電解質には室温付近で良好なイオン伝導性を示すプロトン交換膜を使用しました。さらに、膜方向へのイオン伝導性や反応物であるメタンの拡散性を妨げないよう多孔質化された構造のWOナノ粒子電極(図b)を開発しました。この多孔質構造のナノ粒子電極をプロトン伝導性の高分子薄膜で被覆したところ、反応ガス雰囲気下における光電気化学反応の量子効率が大幅に増加することを見いだしました。気相の光電気化学反応で律速段階となりうるプロトン共役電子移動注7)が、気体と電解質と半導体が隣接する三相界面において促進されたためと考えられます(図c)。

WOナノ粒子電極にメタンを供給し青色の可視光(波長450nm)を照射したところ、電圧1.2Vにおいて量子効率11%で光電流が発生しました。また、生成物の分析の結果、炭素基準の選択率50%でエタンを生成しました。このことから、エネルギーの低い可視光を使ってもメタンのホモカップリング反応を誘起できることが実証されました。これは、可視光によって生成した正孔がメタンを一電子酸化し、生成したメチルラジカルのカップリングによってエタンを生成する反応機構を示唆しています。また、対極では100%の電流効率注8)で水素が発生しました。メタン由来のプロトンがプロトン交換膜を経由して対極へと移動し、外部回路を経由した励起電子によって還元されていると考えられます。光電気化学反応を用いてメタンから水素を製造した世界初の報告例であるとともに、投入するエネルギーを小さくできる可視光でこれを達成していることから革新的な研究成果といえます(特許出願済み:特願2018-011496)。

<今後の展開>

本研究によって、可視光のようなエネルギーの低い光を利用してもメタンからエタンと水素を製造できることが世界で初めて実証されました。今後は、エタン選択率のさらなる向上が実用化に向けての課題となります。反応の選択性を向上するためには、光電極表面上の触媒活性サイトの設計が重要になると考えられます。そのためには、光電気化学反応における表面反応機構を微視的に明らかにすることを目的とした動作環境下における(オペランド)分光観察や理論計算を行う必要があります。光電極や触媒の材料開発によって反応の選択性を向上させることができれば、豊富な天然資源であるメタンを水素や化成品原料に変換する新しいガス化学産業の創出が期待されます。

<参考図>

図

(a)可視光照射下でメタンをエタンと水素に変換するために全固体型光電気化学セルを開発した。

(b)気体分子およびプロトンの拡散を促進するために金属繊維を担体とした多孔質のWOナノ粒子電極を調製し、プロトン伝導性の高分子薄膜でWOナノ粒子を被覆することによって、気相分子の活性化が可能となる。

(c)気体と電解質と固体の三相の接触界面積が増大した結果、メタンからのプロトン共役電子移動が促進されたと考えられる。

<用語解説>
注1)メチルラジカル
メチル基(-CH)が一電子を失って遊離した状態。不対電子を有する化合物を一般にフリーラジカル(遊離基)と呼ぶ。反応性が高くて寿命が短く、メタンのC-H結合の均等開裂によって生成する。不対電子をドットで示して「・CH」と表記する。
注2)光電気化学
半導体電極を使って、光エネルギーを化学エネルギーや電気エネルギーに変換する電気化学の一分野。溶液中のn型半導体電極にバンドギャップ以上のエネルギーを持つ光を照射すると、価電子帯にある電子(e)が伝導帯に励起され、価電子帯に生成した正孔(h)によって溶液中の還元体が酸化され、励起電子は光電流として流れる。
注3)ホモカップリング反応
同一の物質が連結する化学反応。メチルラジカル同士は結合してエタンになる。
注4)プロトン交換膜
陽イオン交換膜のうちプロトンの交換能を持つ。スルホン酸基を持つフッ素高分子のNafion膜は、水和状態において良好なプロトン伝導性を示すことから燃料電池の固体高分子電解質として使用される。
注5)メタンの水蒸気改質
水素または合成ガスを工業的に製造する方法。750℃以上の高温でメタンと水蒸気をニッケル触媒上で反応させ、水素と一酸化炭素の混合物を製造する。反応式は、CH+HO→CO+3Hで表される。
注6)光触媒作用
光を吸収することで触媒作用を示す物質。光吸収によって形成された励起状態が他の物質にエネルギーを与えたり、酸化還元反応を引き起こしたりする。酸化チタンなどの酸化物半導体は、水分解による水素製造、有機物分解による環境浄化、光誘起超親水性によるセルフクリーニング効果などの光触媒作用を示す。
注7)プロトン共役電子移動
PCET(Proton-coupled electron transfer)。電子移動と同時にプロトン移動が生じることによって、電子移動反応の活性化エネルギーが低下する。電子とプロトンが水素原子として一緒に動くのではなく、異なる軌道の電子とプロトンが移動する。CPET(Concerted proton-electron transfer)とも呼ばれる。
注8)電流効率
電気化学反応において、通過電気量から計算される理論生成量に対する目的生成物量の実測値の割合。ファラデーの法則より、電気化学反応による生成物の量は、通過電気量と電気化学当量で決まるが、目的とする電気化学反応だけが進行するわけではない。
<論文情報>

タイトル:“Photoelectrochemical Homocoupling of Methane under Blue Light Irradiation”

著者名:Fumiaki Amano, Ayami Shintani, Kenyou Tsurui, Hyosuke Mukohara, Teruhisa Ohno, Sakae Takenaka

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

天野 史章(アマノ フミアキ)
北九州市立大学 国際環境工学部 准教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

北九州市立大学 企画管理課 企画・研究支援係

スポンサーリンク
スポンサーリンク