リュウグウ表面の地名が決定!

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2019-01-21  JAXA
リュウグウ表面の地名がIAU(国際天文学連合)のDivision F(Planetary System and Bioastronomy)のWorking Group for Planetary System Nomenclature(以下ではIAU WGと表記)で審議され、2018年12月に承認されました。本記事では地名の紹介と決定までの経緯についてご紹介します。

2018年6月のアプローチフェーズ以降、リュウグウの姿が徐々に明らかになるにつれ、はやぶさ2プロジェクトチーム内では特徴的な地形にニックネームをつけて運用を進めていました(例えば、現在のウラシマクレーターはスターウォーズに登場する星にちなんで「デススタークレーター」と呼ばれていました!)。しかし、リュウグウを世界に紹介するためにはニックネームではなく、正式名称を付けなければなりません。さらに、論文などで取り上げるためにも国際的に認められる名前を付ける必要があります。そこで、チーム内でリュウグウ表面地形に名称を付ける議論が始まりました。

太陽系天体上の地名の命名には、まず、テーマを決める必要があります。例えば、金星(Venus)では「女神の名前」がテーマとなっています。海外メンバーを含むプロジェクト内での議論で、リュウグウの地名のテーマとして「世界のお城の名前」、「各国語での竜(ドラゴン)の名称」、「深海の生物の名称」などが提案されました。熱い議論の末、命名テーマは「子供たち向けの物語に出てくる名称」とすることとし、テーマについて先行してIAU WGに提案を行いました。この提案が9月25日に認められ、命名すべき地形の選定とその命名について議論を行ってきました。

地名はむやみやたらとつけられるものではなく、科学的重要性や天体に対する大きさなど制約があります。議論には、主としてプロジェクトメンバー有志と惑星地質学の専門家(以下、地名コアメンバー※1)が参加し、探査データをもとに申請書を作成しました。10月12日に13個の地名をIAU WGに提案し、その後のWGとのやりとりによって9個の名称はチームの提案通りに、残り4つの名称はIAUによる修正の上承認されました。

天体表面には様々な地形がありますが、今回リュウグウでは4タイプの地形について申請を行いました。峰や尾根を指すラテン語が語源のドルサム(Dorsum)、月や小惑星でおなじみのクレーター(Crater)、溝や地溝を指すフォッサ(Fossa)、そしてリュウグウの特徴である岩・岩塊(ボルダー)である同じくラテン語が語源のサクスム(Saxum)です。実はこのサクスム、今回の申請を通じて設けられた新しい地形タイプなのです。

リュウグウ表面には数多くのボルダー(岩、岩塊)が分布しています。どこを見ても、岩、岩、また岩…という様子はリュウグウの特徴であり、探査機のタッチダウンを難しくしています。さらに、分光観測によって、南極に存在する巨大ボルダー(オトヒメサクスム)はその大きさだけでなく、物質や表面状態を示す可視光スペクトルも、その他の地域とは異なるという特徴があることが明らかになりました。このボルダーはリュウグウ形成史を考える上で最も重要な地形であるため、これを命名対象にしたいという強い希望がプロジェクトから出てきました。ですが、ボルダーへの命名は前例がなく、タイプ名すら存在しませんでした(はやぶさ初号機の探査では、小惑星イトカワにちょこんと乗っかっている巨大ボルダーへの命名は認められませんでした)。そこで我々は、地名申請と同時に、ボルダーのタイプ名も合わせて提案しました。地形タイプ名は通例ラテン語であるので、ボルダーのタイプ名としてSaxum(サクスム、ラテン語で岩・石の意味)を提案しました。その結果、IAUからはいくつかの条件付き(天体直径の1%以上など)で、ボルダーへの命名が認められ、そのタイプ名は我々が提案したものがそのまま(!)採用されました。こうして新しい地形タイプ:Saxumが誕生しました。

図1 は、地名を載せたリュウグウの地図です。また、図2 は、リュウグウの4方向からの写真に地名を重ねたものです。これらの図では、リュウグウの北極が上になっています。リュウグウは逆行自転をしていますので、リュウグウの北極は地球の南極の方向であることにご注意ください。表1には、地名のリストを示します。


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図1:リュウグウの地名地図
トリニトスとアリスの不思議の国は、それぞれMINERVA-II1とMASCOT着陸地点のニックネームで、IAUに認められた地名ではない。(画像のクレジット:JAXA ※2


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図2:リュウグウの地名とその位置
トリニトスとアリスの不思議の国は、それぞれMINERVA-II1とMASCOT着陸地点のニックネームで、IAUに認められた地名ではない。(画像のクレジット:JAXA ※2

表1: リュウグウ表面の地名一覧

(注1)「シンデレラ」で提案したが、WGがオリジナルのフランス語に修正した。
(注2)「ピーターパン」で申請したが、コピーライトの問題があるため、WGが変更した。
(注3)「スリーピング・ビューティー」(眠れる森の美女)で提案したが、文字数が長すぎるという指摘を受け、「ブラボー」と修正提案し認められた。
(注4)「オズ」で申請したが、カロン(冥王星の衛星)で使われていたため、WGが変更した。

リストだけでは命名の雰囲気をなかなかお伝えできないので、以下に主要な地名をご紹介します。

天体名称がリュウグウであるため、その代表的な地形には浦島太郎のお話に出てくる名称をぜひ使いたいという強い希望がプロジェクト内からありました。しかし、地名には普通名詞が使えません。つまり、鯛やひらめ、亀すらダメとなると、浦島太郎、乙姫などに限られてしまいます。

そこで、リュウグウで一番大きいクレーターにはウラシマ、南極付近にある一番大きいボルダーにはオトヒメと名付けることにしました。これらはリュウグウの形成史を考える上で非常に重要な要素となるからです。しかしなんと、オトヒメはすでに使われてしまっていたのです!金星(地名は女神シリーズ)にオトヒメトーラス(Otohime Tholus)という地名がすでにあり、提案当初はIAUに断られてしまいました。ですが、オトヒメは浦島太郎の話に出てくる超重要人物であり、龍宮城由来のリュウグウにいないとなると玉手箱がもらえないことになってしまいます!(というのは冗談ですが。)プロジェクト内からオトヒメという地名をどうしても使いたいという強い希望が寄せられたため、地名コアメンバーで文章を練って再提案したところ、IAUに認めてもらうことができました。

リュウグウの特徴は、そろばんの玉のようなtop shapeと呼ばれる形状です。この形状は円錐を2つ組み合わせた形であり、北極から見るとほぼ円形となっています。この赤道の尾根は竜宮城の主で乙姫の父である龍神からとってリュウジンドルサムと名付けられました。これは地名コアメンバーからの「龍がとぐろを巻いている感じと似ている」「ウロボロスに通じる」という意見から付けられました。(小惑星リュウグウ想像コンテストでも同様のイラストがありました!)

オトヒメサクスムの両隣には、赤道方向に延びる大きな溝(地溝)があります。浦島太郎の物語において龍宮城は乙姫が住む海の底にある不思議な場所ですが、実は様々な物語で異世界として登場し、蓬莱(ホウライ)、常世(トコヨ)、ニライカナイなどとも呼ばれていたそうです。そこで、オトヒメサクスムに隣接するこれらの溝は、常世と蓬莱からとってトコヨフォッサ、ホウライフォッサと名付けられました。

ウラシマクレーターの南東にはやや大きなボルダーがあります。一説によると、浦島太郎が亀を助け、龍宮城へと旅立った場所は絵島が磯という場所であるそうです。そこで、このボルダーをエジマサクスムと名付けることにしました。

ウラシマクレーターの両隣にも大きなクレーターがあります。西には南北にくっついた2つのクレーターがあります。この様子が「お腰にきびだんごをつけた桃太郎」をイメージさせたので、北側をモモタロウクレーター、南側をキビダンゴクレーターとしました。一方、東には内部に黒く大きなボルダーがあるクレーターがあります。これが「マサカリ担いだ金太郎」を連想させたため、キンタロウクレーターと名付けました。

リュウグウには海外の物語由来の地名もあります。例えば、サンドリヨンクレーターは聞きなれないかもしれませんが、童話でおなじみのシンデレラのフランス語読みが由来です。また、ブラボークレーターは、プロジェクトの海外メンバーから提案された、オランダの物語に出てくる英雄の名前に由来しています。コロボッククレーターとカタフォサクスムはIAU WGによって名付けられました。それぞれロシア民話とケイジャン民話(アメリカ、ケイジャン料理で有名ですね)からとられています。

以上がIAU WGによって認められた地名です。このほか、図1、図2にはニックネームとして、トリニトス(Trinitas, MINERVA-II1, ミネルバ生誕の地が由来)とアリスの不思議の国(Alice’s Wonderland, MASCOT)があります。これらは、MINERVA-II1とMASCOTが着地した地点にプロジェクトが名付けた名称で、IAUで認められた正式名称ではありません。

今後もリュウグウの観測と研究の進展とともに、随時地名を検討・申請していく予定です。次はリュウグウのどこにどんな物語が登場するか、どうぞお楽しみに。

※1. 地名コアメンバー:野口里奈・嶌生有理・吉川真・津田雄一(JAXA)、渡邊誠一郎(名古屋大)、宮本英昭・杉田精司(東京大)、小松吾郎(Università d’Annunzio)、石原吉明(国立環境研)、佐々木晶(大阪大)、平田成・本田親寿・出村裕英(会津大)、平林正稔(Auburn University)(順不同)

※2. リュウグウの画像はONCチーム(JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研)による。

野口里奈、嶌生有理(はやぶさ2プロジェクト)

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