- 【ポイント】
- トリチウムは「水素」のなかまです。
- 自然界でも生成され、雨水や水道水、大気中にも存在しています。
- 国内外の原子力施設などで人工的に生成され、管理されたかたちで海洋や大気などに排出されています。
シリーズでお伝えしている、東京電力福島第一原子力発電所(福島第一原発)における汚染水問題の現状と対策。第1回の「安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策①『ALPS処理水』とは何?『基準を超えている』のは本当?」では、現在おこなわれている浄化処理の方法と、浄化処理をおこなった水「ALPS処理水」についてお伝えしました。
このALPS処理水には、処理設備でも取り除くことのできない「トリチウム」が含まれています。トリチウムとはどんなものなのでしょうか?今回は、汚染水問題を正確に、深く理解していくためには必須な、トリチウムの基礎知識についてご紹介しましょう。
「トリチウム」って何?~自然界にも存在する“水素”のなかま
トリチウムとは、水素の「放射性同位体」です。放射性同位体とは何でしょう?ここで、理科の授業をちょっと思い出してみましょう。
水素や炭素などのさまざまな原子は、陽子や中性子でできた「原子核」と「電子」で構成されています。普通の水素原子を構成しているのは、陽子1個でできた原子核と、電子1個です。しかし、ごくたまに、原子核が陽子1個+中性子1個でできていたり、陽子1個+中性子2個でできていたりする水素原子があります。
これが、水素原子の「同位体」です。水素だけでなく多くの原子に「同位体」が存在しています。水素原子の同位体は、陽子1個でできた原子核を持つ普通の水素原子と、ほとんど同じ化学的性質を持っています。
水素原子の同位体のうち、陽子1個+中性子2個でできた原子核を持つ同位体は、「三重水素」と呼ばれます。三重水素の原子核は不安定な状態にあり、原子核は、その不安定さを解消するため、陽子と中性子の個数を変えてバランスを取り、異なる原子核へと変化しようとします。
この時、三重水素は放射線を出します。こうした同位体を「放射性同位体」と呼びます。この三重水素こそが、トリチウムなのです。
トリチウムってどうやってできるの?~自然界にもたくさん存在
トリチウムは、宇宙空間から地球へ常に降りそそいでいる「宇宙線」と呼ばれる放射線と、地球上の大気がまじわることで、自然に発生します。そのため、酸素と結びついた「トリチウム水」のかたちで川や海などに存在しています。雨水や水道水、大気中の水蒸気にも含まれており、富士山周辺における地下水の年代測定にも活用されています。また、人の体内の水分量と、日本の水道水や大気中に存在するトリチウムの量から試算すると、水道水などを通じてトリチウムを摂取することで、人体内にも数10ベクレルほどのトリチウムが存在していると言えます。
自然界では、1年あたり約7京ベクレル(Bq、放射性物質の量をあらわす単位)のトリチウムが生成されており、自然界に存在するトリチウムの量は、約100~130京ベクレルと見られています。
一方、トリチウムは、人工的に生成されることもあります。まず、1945年~1963年におこなわれていた核実験で放出されたトリチウムがあります。また、国内外にある原子力施設(原子力発電所や再処理施設)でも、核分裂などを通じてトリチウムが生成されています。なお、原子力施設由来のトリチウムは、各国が、それぞれの国の規制に基づいて管理されたかたちで、海洋や大気などに排出しています。
トリチウムが放出する放射線とは?~紙で遮ることも可能
トリチウムは、「放射性物質」の一種です。ただ、トリチウムが放出する放射線の種類は、「アルファ(α)線」「ベータ(β)線」「ガンマ(γ)線」といった放射線のうち、β線のみです。このβ線は、薄い金属板などでさえぎることができます。さらに、トリチウムが放出するβ線はエネルギーが弱いため、空気中を約5mmしか進むことができず、紙1枚あればさえぎることが可能です。
こうした性質を持つトリチウムははたして、人体にどのような影響を与えるのでしょうか?次回の記事で詳しく見ていきましょう。
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