爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した

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2018/11/01  京都産業大学,国立天文台

2018年10月31日 (ハワイ現地時間)

京都産業大学神山天文台の研究者を中心とする研究グループは、ホームズ彗星 (17P/Holmes) が2007年に爆発的な増光を起こした際にすばる望遠鏡で観測された、中間赤外線波長域における分光データを解析しました。その結果、ホームズ彗星が太陽系の中で太陽から遠い冷たい場所で誕生し、多くの揮発性物質を含んでいる可能性があることを明らかにしました。揮発性の高い氷が含まれている彗星では、それらが爆発的に昇華 (固体からガスになること) することで、爆発的なダスト放出が生じる可能性があります。

ホームズ彗星は、太陽のまわりを約7年で公転する彗星です。2007年5月に近日点 (太陽からの距離:2.05 天文単位) を通過し、2007年10月下旬、太陽から約 2.4 天文単位の距離に位置していた頃、爆発的な増光を起こしました。2007年10月23日には約 17 等の明るさで観測されていましたが、その直後の10月24日 (世界時) に8等となり約9等級も増光している姿が捉えられました。その後も急速に増光し、翌日10月25日には約 2.9 等と2等台に突入しています。ホームズ彗星は、その後、次第に暗くなっていきましたが、このような 14 等級以上 (光の強さにして約 40 万倍以上) の増光が見られた彗星は極めてまれです。京都産業大学などの研究グループが、この爆発的な増光の正体を探るべく急増光直後にホームズ彗星の分光観測を実施し、その原因が大量の塵 (ダスト) 放出にあることを突き止めています。しかし、このような爆発的な増光がどうして起こったのか、研究者の間で議論が続いてきました。
爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した 図
図1: ホームズ彗星の画像 (中間赤外線波長)。観測は、爆発的な増光が起こった後、2.1 日後から 5.2 日後まで4日間連続して行われました。(クレジット:国立天文台)

今回、研究グループは、ホームズ彗星から放出されたダストの成分に注目し、爆発的な増光時に得られたデータの再解析に取り組みました。彗星にはシリケイト (ケイ酸塩) と呼ばれる鉱物が含まれていますが、このシリケイトは結晶質のものとアモルファス (非晶質) のものとが共存しています。アモルファス成分は宇宙空間にも存在しており、太陽系が誕生した時に、そのまま彗星が取り込んだ可能性があります。一方、結晶質の成分はアモルファスなシリケイト・ダストが原始の太陽の近くで加熱されて結晶質に変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから、最終的に彗星に取り込まれたと考えられています。太陽から遠くに離れるほど、そこまで運ぶことのできるダストは少なくなるため、結晶質成分が少ないほど、太陽から遠い所で誕生した彗星であると考えられます。

研究グループは、ホームズ彗星は、他の彗星に比べてアモルファス成分のシリケイト・ダストが多く、結晶質成分が少ないことを明らかにしました。これは、ホームズ彗星が、他の彗星に比べて太陽からより遠く、冷たい場所で誕生した証拠なのです。そのような場所では、低い温度で昇華する一酸化炭素等の氷や、水のアモルファス氷 (低い温度で結晶質に変化し爆発的な昇華のエネルギー源になる) が豊富に存在すると考えられます。
爆発的な増光をしたホームズ彗星は太陽から遠く冷たい場所で誕生した 図2
図2: ホームズ彗星の中間赤外線スペクトル。波長 10 マイクロメートル付近に、シリケイト (ケイ酸塩) ダストからの熱輻射ピークが見られます。細かいピークが結晶質シリケイトによるもので、このピークの位置によってシリケイトに含まれるマグネシウム:鉄の比率 (Mg:Fe 比) が分かります。図中の複数の縦線が異なる Mg:Fe 比のピーク位置を示しており、ホームズ彗星から放出されたダストがマグネシウムに富んだものであることが分かります。灰色の網がけ部分は地球大気のオゾン (O3) の強い吸収が見られる波長範囲を示します。(クレジット:国立天文台)

今回の研究を主導した新中善晴さん (京都産業大学神山天文台研究員) は「彗星は、大きな尾をたなびかせた美しい姿や時々崩壊や急増光といった思いもよらない姿を見せてくれるだけでなく、太陽系の過去の情報を内に秘めた化石という面でも非常に面白い研究対象です。今回の成果は、ホームズ彗星の大増光直後という非常に貴重な時期に取得されたデータを用いたもので、ホームズ彗星や彗星に含まれる塵が形成した環境の理解が一つ深まりました。今後は、彗星ごとに含まれる鉱物の多様性をさらに明らかにしていきたいです」と語っています。

本研究は米国天文学会の天文学誌『アストロノミカル・ジャーナル』に掲載されます (Shinnaka, Ootsubo, Kawakita et al. 2018, “Mid-infrared spectroscopic observations of comet 17P/Holmes immediately after its great outburst in October 2007”, Astronomical Journal, 156, 242)。また本研究は、科学研究費助成事業 JP15J10864、JP17K05381 の助成を受けて行われました。

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