超伝導検出器を使った全固体ワンチップの 中性子高速イメージング装置を開発

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2018/10/23   大阪府立大学,高エネルギー加速器研究機構,日本原子力研究開発機構,J-PARCセンター,情報通信研究機構

  • 空間分解能は22マイクロメーターを達成
  • 既存の中性子検出器と動作原理が全く異なる装置
  • より高精度な非破壊検査に役立つ可能性

■研究背景

中性子は電荷を持たないため、物質中の電子では散乱されず、原子核によってのみ散乱または吸収されるため、多くの物質に対し強い透過性がある。また、X線では見えにくい水素原子などの軽元素に対しても感度を持つ特徴もある。このことから中性子による透過像撮影は非破壊検査として役立つが、撮像の空間分解能は、顕微鏡ほど高性能はでなかった。近年の大強度中性子源の発達により、高い空間分解能を持つ中性子顕微鏡の開発が必要となった。そこで、より微細な画像を得るべく、世界中で高い空間分解能をめざした中性子検出器システムの開発が競って行われている。ヘリウム3(3He)、リチウム6(6Li)、ホウ素10(10B)などの特定の元素には中性子が吸収されやすいことを利用すれば、中性子は検出できる。

■本研究の概要

全固体の超伝導検出器を開発し、コンパクトな中性子高速イメージングシステムを完成した。詳しくは図1に示しているが、超伝導中性子検出器(つづら折り返し(メアンダ)のニオブ(Nb)細線でできたX座標を調べるX検出器とY座標を調べるY検出器の2つを利用)は平板状で、出力が4端子の検出器である。検出器には10Bが積層されており、10Bと中性子による核反応で軽イオン(4He か 7Liイオン) が放出され、X検出器とY検出器の超伝導Nb細線に同時にホットスポット(超伝導電子が壊れる微小な領域)を作り、それぞれのホットスポットで電磁波信号が発生し、そこからNb細線両端の電極に向けて一定速度で伝搬する。開発したシステムでは、電磁波が4つの電極に到達する時間差を計測して、X座標とY座標を計算できるのである。この時間差計測に時間デジタル変換機(高エネルギー加速器研究機構(KEK)で開発されたKALLIOPE回路を改造)を用いた。大強度陽子加速器施設J-PARCのBL10で実証実験を行い、時間分解能は1ナノ秒、中性子イメージングの空間分解能は22μm(マイクロメーター)を達成し、数十MHz(メガヘルツ)と高速で動作することが分った。今後、この超伝導中性子検出器システムが高分解能の中性子による透過像の撮像に利用されることが期待される。

この成果は、Physical Review Applied 2018年10月17日号に発表された。

KALLIOPE = KEK Advanced Linear and Logic board Integrated Optical detector for Positron and Electron の略。

■研究チームの構成

本研究は、大阪府立大学(辻洋 学長)大学院工学研究科電子・数物系専攻 宍戸寛明 准教授、大学院生 三木悠矢 M2*、山口裕之 M2*、飯澤侑貴 M2、Vu The Dang D3*†、高エネルギー加速器研究機構(以下「KEK」、山内正則 機構長)・総合研究大学院大学 小嶋健児 准教授‡、KEK 鈴木聡 准教授、日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」、児玉敏雄 理事長) 原田正英 研究主幹、奥隆之 セクションマネージャー、情報通信研究機構(以下「NICT」、徳田英幸 理事長) 宮嶋茂之 研究員、産業技術総合研究所(以下「AIST」、中鉢良治 理事長) 日高睦夫 招聘研究員、大阪府立大学工学研究科量子放射線系専攻 小山富男 客員研究員、石田武和 客員教授の研究チームが、科研費基盤研究A(デュアル電流バイアス運動インダクタンス検出器による中性子検出効率の改善; 課題番号No. 16H02450; 研究代表者 大阪府立大学 客員教授 石田武和)の支援を得て実施した。

* 大阪府大の院生(学年は在籍時)で既に卒業している。† 現所属はJ-PARCである。

‡ 現所属はカナダTRIUMF研究員と大阪府立大学客員研究員である。

大阪府大は検出器システムの提案、設計、動作原理の解明、計測システムの構築、中性子イメージング全般を担当した。KEKは計測回路と計測ソフトの開発に貢献した。JAEAは中性子照射実験に貢献した。NICTは中性子検出器の設計に貢献した。AISTは中性子検出器素子の製作に貢献した。

■研究成果(超伝導中性子検出器と動作原理)

中性子ビームによる透過像撮影は、日光写真の撮像原理と類似している。この原理を利用して、測定対象を透過した後の中性子強度の空間的な変化を知ることで、測定対象の中性子イメージングができる。

超伝導中性子検出器は新しいタイプの中性子検出器であり、シリコン基板上にワンチップ素子として準備できる点が従来の検出器と異なる優れた点である。図1が模式図であるが、2層の検出器が積層した素子の写真(上)や断面図(右下)を示している。 ① 超伝導体(Nb)層、 ② 酸化シリコン絶縁層、 ③ 1µmの幅の超伝導Nb細線による5,000回のつづら折り返し(メアンダ)パターン、 ④ 酸化シリコン絶縁層、 ⑤ 先に述べた超伝導細線パターンと直交する方向の超伝導Nb細線による5,000回のつづら折り返しパターン、 ⑥ 酸化シリコン絶縁層、 ⑦ ホウ素同位体による中性子吸収層 が順番に積層している。

動作原理を簡単に見てみよう。超伝導中性子検出器は超伝導を示す-270℃の極低温までをヘリウム冷凍機を使って冷却できる。冷却で超伝導になった細線に微弱な直流電流を流し、中性子検出器に中性子を照射すると、中性子吸収層でホウ素と核反応を起こし、リチウムイオンとヘリウムイオンが放出される。放出されたイオンが超伝導細線に衝突すると小さなホットスポットが形成され、ホットスポットでは超伝導電子対が減少する。この減少は極めて短い時間で起こり、すぐに回復する。超伝導電子対の密度の急激な時間変化によりパルス状の電磁波信号が生じ、5,000回のつづら折り返しパターンに沿って、超伝導細線の両端へ向けて一定速度で伝搬する。信号の伝搬速度は光速度の約3分の1と高速であるため、十分に高い時間分解能で測定してやれば超伝導細線両端での信号伝搬時間の差が分かる。この信号伝搬時間の差は信号の伝送距離の差に比例していることから、ホットスポットが発生した位置を知ることができる。③と⑤の超伝導細線でそれぞれ信号伝搬時間の差を調べることでx方向とy方向の位置情報を知ることができる。中性子照射を何回も繰り返すことで透過像が得られる。これが超伝導中性子検出器を用いて、中性子透過像を撮像する方法の説明である。

■研究成果(信号読み出し回路)

本研究の超伝導中性子検出器システムでは、信号伝搬時間の差を位置情報に読み替えているため、高い時間分解能で電磁波信号を受信した時間を決定できれば、高い位置精度を得ることができる。したがって高時間分解能の時間デジタル変換器が読み取り回路として望ましいが、一般に、高時間分解能の時間デジタル変換器は、信号を受信可能な時間フレームは短くなる。本研究では、J-PARCのパルス中性子源に適合させるために40ms(ミリ秒)以上の長い時間フレームをめざし、KEKで開発したKALLIOPE回路を32チャンネル、時間分解能1ns(ナノ秒)、時間フレーム4s(秒)の時間デジタル変換機に改造した。

図1: (a) 開発した超伝導中性子検出器(CB-KID)システムの模式図。X 検出器メアンダとY検出器メアンダは互いに直交されて積層されており、その上に10B 転換層が蒸着されている。X検出器には直流バイアス電流 I xが、Y検出器には直流バイアス電流 I y が流されている。超伝導中性子検出器の4つの電極から4つの出力(Ch1, Ch2, Ch3, Ch4)を時間デジタル変換機(改造した KALLIOPE-DC 回路)で4つの信号の時間差を計測する。 (b) は超伝導検出のNb細線メアンダ(ピッチが2μm、一本の直線状Nb細線の長さが10.5mm)のレーザー顕微鏡写真を示す。 (c) X検出器とY検出器が交差するところのレーザー顕微鏡写真を示す。 (d) 模式的な超伝導中性子検出器の断面図を示す。シリコン基板、Nbグランド面、Yメアンダ、Xメアンダ、10B転換層が積層されている。

■研究成果(中性子イメージング画像の空間分解能)

今回開発した中性子顕微鏡の空間分解能を調べるため、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)のビームライン10(BL10)で中性子照射実験を行った。実験では、等間隔に穴の開いたステンレス板(50µmの厚み)に開けた穴に10B同位体を充填したテスト試料に対し、約30時間中性子ビームを照射し、中性子透過像の撮影を行った。図2(a)は中性子透過像であり、テスト試料の10Bで中性子が吸収されている様子を明瞭に示している。図2(b)は、中性子吸収体に用いたステンレス板の光学写真を示している。中性子はステンレス板を良く透過するが、10B同位体には吸収されるため、10B同位体部分が暗く映った画像(a)が得られた。図2(c)、(d)には、中性子イメージングの空間分解能を知るために、中性子イメージで、ホウ素同位体の端で、画像の明度がどれくらい急峻に変化しているかを調べた結果を示している。図2(d)から、空間分解能が22µmと高いことが、微分値の明瞭なピーク状変化とピーク幅から明らかにできた。

■中性子ラジオグラフィ専門家のコメント(東京大学 中西友子 特任教授)

長年中性子線を用いた研究を行ってきた者であるが、中性子線利用技術の開発はこれからの社会を支えていく重要な開発として大きなイノベーションをもたらすと期待されていることは明らかである。特に中性子ラジオグラフィの応用は、建築物の劣化、飛行機などの内部検査やエンジン開発などのマクロレベルから、微細なリチウム(Li)電池などの構造に至るイメージングを非破壊状態で調べることができる画期的な基盤技術であるが、空間分解能を上げる技術開発が未発達であった。本研究では、新しい発想の下、ミクロ顕微鏡レベルのイメージングで、空間分解能22マイクロメーターという高い分解能を達成した画期的な成果である。また、この成果は、今後の改良で、更なる性能向上が見込まれていることでも期待は大きい。

図2: (a) J-PARCで波長0.05nm~1.13nmの中性子ビームを使って測定した10Bドット列の中性子透過像を示す。 (b) 試験用の中性子吸収板(10B粒子を穴に充填した厚み50μmのステンレス板)の写真を (a) の右上に尺度を揃えて重ねている。 (c) 中性子透過像に書かれた赤い線に沿っての中性子検出イベントのラインプロファイルを示す。 (d) ラインプロファイルの数値微分の曲線で、ピーク幅は、中性子透過像の各10Bドットの境界の明瞭さを示している。

■超伝導中性子検出器システムの新しさ(石田プロジェクトリーダー)

この研究の新しいところは、超伝導検出器を使った全固体のシリコン基板上のワンチップ検出器として仕上げている点である。そのために既存の中性子検出器と信号を発生させる検出器の動作原理が全く異なる新しい原理となっている。また、信号が伝搬しやすい超伝導ストリップラインを使ったインピーダンス整合のとれた信号伝搬線路を使っているので、電磁波信号(シグナル)がこの論文で示した例では50mもの距離を信号減衰の影響を受けずに伝わっていることも類似のシステムと比べると大きな特徴と言える。これにより、10mmx10mmの有感面積で22μmの分解能であれば、20万画素を超す大画素が、わずか4端子素子を使って、既に実現できていることになる。

論文で示した結果が究極の性能ではない。最初の実証に過ぎない。超伝導線の微細加工の精度を高めればさらに高い空間分解能を実現できる可能性がある。また、時間デジタル変換機の計測分解能をさらに高めれば超伝導中性子検出器のライン&スペースのピッチまで高めることができる。今後、更なる超伝導中性子検出器システムの改良を計画している。

本研究の超伝導中性子検出器では、信号発生、信号伝搬などすべてが、チップのなかに基本的な機能として内蔵されており、他の中性子検出器、例えば、シンチレータ光を利用する方式やガス検出器のイオン電流を利用する方式のように検出部以外の光学系やガス増幅などの関連する大きな機器スペースを要する事もない。すべて、厚み方向では、サブマイクロメーターの領域内で起こる物理現象になるため、チップそのものを高々数mmの薄い平面上に仕上げることができる。そのため、検出器の素子チップを多層化したり、検出器(数mmの厚み)自体を多段で積層実装したりすることなどの用途も可能となり、既存の検出器には見られない新しい使い方(3次元トポグラフィなど)へ道が広がる。

この研究の中性子検出器は、他の放射線(ガンマ線、X線など)にほとんど感度を持たないため、シンチレータ方式の検出器などと比べて、優れた特徴と言える。また、検出器内で、中性子イベントが複数回あっても、検出が可能であることも優れた特徴である。

信号の応答時間がナノ秒、あるいは、サブナノ秒と高速で動作することは、J-PARCなど大強度中性子ビーム時代に重要と考えられる。

■本研究の特徴と今後の展開

本研究で提案した独創的な中性子検出原理は、直交する2層構造の超伝導検出器システムで構成され、10B(n,4He)7Li中性子核反応熱による局所的な熱励起で発生する2対の電磁波パルス対がX軸とY軸の2対の超伝導細線導波路を伝搬し両端に到達する時間差を計測することにより、イベント発生位置(X,Y)座標を同定するというものである。中性子検出に信号増幅過程を伴わないため、高速、高空間分解能で計測できることが特徴である。

検出器は、シリコン基板にワンチップで形成された4端子計測素子となっている。超伝導細線はNb細線セグメントがメアンダ状に積層する構造で構成する。セグメント長を10mm(ミリメートル)とし電磁波パルスが光速の20%で伝搬すれば、一本のセグメントを通過する時間は166ps(ピコ秒)となり、改良を計画している新設計の25ps(ピコ秒)の時間分解能で計測した場合、セグメントの繰り返しピッチ(1μm程度)の空間分解能を達成できることになる。

本研究の超伝導中性子検出器システムは、10B(n,4He)7Li中性子核反応熱で発生する電磁波パルス対が超伝導細線導波路を伝搬する時間差を計測することに基づく新しい中性子位置検出原理を用いた。将来は従来に比べて飛躍的に空間分解能が高いサブミクロン領域の軽元素観察が可能な10B中性子核反応層を備えたNb超伝導中性子検出器を利用した中性子非破壊内部可視化装置が実現可能になると考えられる。これが完成すれば、材料科学(水素脆化)、農学(植物根-土壌系水挙動)、電気化学(Li電池イオン伝導機構)などに必要となるサブミクロン軽元素可視化が可能になり、大きなインパクトを生み出す可能性がある。

■競争的研究費の支援

科研費基盤研究A(デュアル電流バイアス運動インダクタンス検出器による中性子検出効率の改善;課題番号No. 16H02450;研究代表者 大阪府立大学量子放射線系専攻 客員教授 石田武和)の支援を得て共同研究として実施した。J-PARCでの中性子照射実験は、J-PARC 物質・生命科学実験施設(MLF)の一般課題(石田武和、Proposal No. 2015A0129)とプロジェクト課題(奥隆之代表、Proposal No. 2015P0301)の支援を得て行われた。計測システムの開発は、KEKのOpen-it(用語の解説を参照)の枠組を利用した。

■本研究の学術論文の発表

論文名:High-speed neutron-imaging using a current-biased delay-line detector of kinetic inductance (電流バイアス遅延時間型運動インダクタンス検出器による中性子高速イメージング)

著者:Hiroaki Shishido, Yuya Miki, Hiroyuki Yamaguchi, Yuki Iizawa, Vu The Dang, Kenji M. Kojima, Tomio Koyama, Kenichi Oikawa, Masahide Harada, Shigeyuki Miyajima, Mutsuo Hidaka, Takayuki Oku, Kazuhiko Soyama, Soh Y. Suzuki, and Takekazu Ishida

学術誌:Physical Review Applied(2018年10月17日オンライン出版、第10巻、ページ044044 -1~10、DOI: 10.1103/PhysRevApplied.10.044044)

●Physical Review Applied 誌掲載の本論文概要のオンライン掲載ページは次となります。
https://journals.aps.org/prapplied/abstract/10.1103/PhysRevApplied.10.044044

■参考資料(用語の解説など)

● 中性子の性質

[1] 質量:1.0087u(陽子とほぼ同じ大きさ)ただし、1u=1.66×10-24g

[2] スピン:1/2 (これは、電子や陽子と同じである)

[3] 磁気モーメント:-1.9132erg/G (弱いが磁気散乱を起こす)

[4] 電荷:なし (陽子と異なる)

● 中性子の特徴

[1] 電荷を持たないため、透過力が非常に大きく、検出が困難である。

[2] 中性子散乱能は原子番号Zと無関係であるので、軽元素(水素・酸素・リチウム)と重元素の混合物質の構造決定に有利である。これは、X線の散乱能が原子番号Z(電子の数)に比例することと大きな違いである。

[3] スピン散乱を起こすので、物質中の磁気構造の解明に役立つ。

[4] エネルギーは非常に小さい場合、物質中の格子振動分布を知ることができる。

● 従来の中性子検出器

広く利用されている中性子検出器の一つにBF3計数管がある。この検出器は同位体を濃縮した BF3 ガス(99% Boron 10)からなり、10B + n → 7Li +α線 の核反応(2.3MeV)を使用する。 (7Li / 4He)イオンによる電離を大きな電圧をかけて集める。すると、1-3mV の信号が発生し、それを増幅して信号を検出する。例えば、15ms(ミリ秒)の動作時間で検出器自体は相当大きなものになる。http://www.rtftechnologies.org/physics/fusor-mark3-neutron-detector.htm

中性子散乱実験や原子力発電所などで広く利用されている中性子検出器の一つに3He比例計数管がある。この検出器は同位体である3Heガスを金属管に封入したもので、3He + n → 3H + p の核反応(0.75MeV)を使用する。 (3H / p)イオンによる電離を大きな電圧をかけて芯線に電荷を集める。また同様に6Li や10Bを使ったシンチレータ検出器がある。この検出器は、同位体である6Liや10Bをシンチレータ内に混ぜ込んだもので、6Li + n → 3H +α線 (4.78MeV)、10B + n → 7Li +α線 (2.3MeV)の核反応を使用する。α線などがシンチレータを励起・発光させ、その微弱な光を光電子増倍管で電気信号に増幅する。

3He中性子検出器は高感度であり、広く使われて来た。国際的には、3He不足問題が議論され、小面積の3He検出器や既存の3He検出器の保守には供給可能とされているが、大面積の3He検出器の代替検出器の開発は不可欠となっている。シンチレータ方式の中性子検出器は、6Li-ZnS、B2O3-ZnSシンチレータ検出器がJ-PARCとSNSの波長変換ファイバ読み出し型検出器が代替候補とされているが、更なる高性能シンチレータの開発が重要とされている。

● 中性子検出器の空間分解能

従来の中性子検出器の空間分解能については、3Heガス中性子検出器で、数㎝~1㎜程度、B2O3シンチレータ中性子検出器で数㎝~1㎜程度である。イメージング用中性子検出器では、例えば、CCDカメラ+シンチレータなどの組み合わせで数十μm程度、3Heガス検出器(マイクロストリップパターン型)200μm程度であることが知られている。

本研究で開発した超伝導中性子検出器は1μm以下の空間分解能も実現可能であり、従来技術を革新する性能と言える。

● 大強度陽子加速器施設(J-PARC)

KEKとJAEAが茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野での世界最先端の研究が行われている。J-PARC内の物質・生命科学実験施設では、世界最高強度のミュオン及び中性子ビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が集まっている。

● パルス中性子ビーム

パルス状の中性子を発生させる中性子源。J-PARCなどのようなパルス状に陽子を加速する加速器を利用した中性子源では、陽子ビームがターゲットに入射するタイミングに合わせて中性子を発生させるため、パルス中性子源となる。ある一つの集団を形作って移動する中性子群で、細く絞られた形になっているものを中性子ビームと呼ぶ。J-PARCのように通常加速器から発生される中性子は、大強度な陽子ビームによって標的が核破砕反応を起こした時に発生するが、陽子ビームがパルス状(J-PARCの場合0.04秒に1パルス)であることから、発生する中性子もパルス状になるためパルス中性子ビームと呼ばれる。

原子炉から発生する中性子は核分裂によって発生するため、連続的に絶え間なく流れてくる中性子群になっているため、パルス中性子ビームではない。窓の開いた回転する中性子遮蔽体ディスク(チョッパー)を使ってパルス的にビームを変えることができるが、中性子強度が著しく減少する課題がある。

● 超伝導ファンドリー

AIST CRAVITYは低温超伝導デバイス作製用機器と関連するノウハウを統合集約し、超伝導アナログ/デジタル技術の両方をカバーした世界トップレベルの超伝導デバイス研究開発施設である。本施設は、AISTの先端機器共用イノベーションプラットフォーム(IBEC)に属する共用施設として、有料で内外の研究者に公開されているため施設の各種装置を使ったデバイス作製が可能である。利用者が各種装置を利用してデバイスの作製を実施することも、超伝導デバイス作製に習熟したスタッフに希望のデバイスの作製を依頼することもできる。本施設で公開している露光装置、スパッタ装置、反応性イオンエッチング装置、洗浄装置、検査装置などの各種装置は、安定した超伝導デバイスの作製プロセスを実現するため、材料や目的に応じて使い分けされた専用装置となっている。

本研究の超伝導中性子検出器素子は、この超伝導ファンドリーCRAVITYを利用して作製された。本研究で開発の超伝導中性子検出器は、ニーズに応じて、安定した素子製作が可能である。

● Open-It (Open Source Consortium of Instrumentation)

計測システム開発に必要な要素技術、システム化技術及びその情報をできる限りアカデミック用途にオープン化し共有をはかることで、先端計測技術の維持、改良及び発展を共同で行おうとする団体である。

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