ダークマター、ダークエネルギーの解明を目指して
2018/09/26 国立天文台
すばる望遠鏡とHSCが解明したダークマターの3次元分布。上から下に並べられた画像は、遠くから近傍に、すなわち昔から最近の順で並んでおり、時代が進むにつれてダークマター分布の濃淡が増していくことがわかる。今回の研究では、この変化の度合が数値化された。
すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラHyper Suprime-Cam(ハイパー・シュプリーム・カム、HSC)は、空の広い領域で、暗く遠い天体まで鮮明に写し出す最新鋭の観測装置です。今回、HSCが撮影した画像を詳しく解析することで、宇宙の成長の歴史を特徴づける値を精度よく推定することに成功しました。すばる望遠鏡とHSCは、精密な宇宙論への歩みを踏み出していきます。
宇宙は誕生以来、膨張を続けています。その中で銀河の集団が形成され、次第に銀河の分布に濃淡が生じます。この濃淡の成長には、ダークマターが大きな影響を及ぼします。重力のみを生じ光を出さない物質、それがダークマターです。
すばる望遠鏡とHSCの組み合わせは、宇宙の中のダークマターの3次元分布を明らかにしてきました。この分布をもとに、銀河の濃淡に代表される宇宙の構造形成の度合を表す値が、今回新たに推定されました。その値は、近くの銀河の観測から従来推定されていたものとは矛盾しない結果となりましたが、最も単純な宇宙の標準模型が予想する値に比べるとわずかに小さいものでした。
この結果は、今回の推定に用いたデータ量が少ないための統計的な影響かもしれません。しかし、宇宙の標準模型に用いられているダークエネルギーの性質が実はもっと複雑であるという可能性もあります。今回は全計画のわずか1割のデータを用いて推定した結果でしたが、今後の観測と解析の進展によってさらに精度を高め、ダークマターの分布やダークエネルギーの性質の解明が進歩することが期待されます。
本研究成果は、9月26日にプレプリントサーバーで公開されました(Cosmology from cosmic shear power spectra with Subaru Hyper Suprime-Cam first-year data)。今後、日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan; PASJ)に投稿され、専門家による厳正な査読が行われます。