耐熱鋼内部でどのような炭化物がなぜ安定か、原子レベルで解明

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クリープ特性向上を目指した新しい耐熱鋼設計指針の構築を目指して

2018-05-17  国立研究開発法人 物質・材料研究機構

NIMSの研究チームは、耐熱鋼内部の炭化物が、どのような結晶構造で安定するかを原子レベルで高精度に予測できるモデルを開発しました。鉄鋼内部の炭化物は、高温におけるクリープ特性 (高温度で長時間にわたり変形する現象) に大きな影響を与えることから、今回開発したモデルを使うことで、高温度環境化でも長時間使える新しい耐熱鋼開発に指針を与えることができると期待されます。

概要

  1. 物質・材料研究機構 (以降、NIMS) 構造材料研究拠点の佐原亮二主幹研究員を中心とする研究チームは、耐熱鋼内部の炭化物が、どのような結晶構造で安定するかを原子レベルで高精度に予測できるモデルを開発しました。鉄鋼内部の炭化物は、高温におけるクリープ特性 (高温度で長時間にわたり変形する現象) に大きな影響を与えることから、今回開発したモデルを使うことで、高温度環境化でも長時間使える新しい耐熱鋼開発に指針を与えることができると期待されます。
  2. 地球温暖化抑止および化石燃料の有効利用を目指し、発電効率や燃費向上のため、火力発電所の使用温度は上昇の一途をたどっています。耐熱鋼の高温クリープ特性は、数十〜数百マイクロメーターオーダーの結晶粒の界面に析出する数十〜数百ナノメーターオーダーの微細炭化物により概ね決定されるため、高密度で炭化物を分散させて高温使用時の結晶粒径の粗大化を防ぎ、長時間にわたる高温強度を向上させる新しい耐熱鋼の設計が求められています。しかし、組成の情報のみをパラメータとして評価する従来型のモデルでは、炭化物が約 600-800℃程度の高温でどのような結晶構造で安定に存在するかを正しく評価することができず、より精度の高い解析モデルの導入が望まれていました。
  3. 研究チームは、組成に加えて、格子上に各元素がどのように配列しているかを関数として調べる「部分占有モデル」を導入し、第一原理計算および、統計力学的手法に基づく自由エネルギー計算法と組み合わせて解析をおこないました。その結果、長年使われてきた従来モデルでは見つけられなかった、高温で安定して存在する結晶相を新たに発見しました。
    さらに、この結晶相が安定して存在する理由を探るため、原子が複数個集まったクラスターの電子状態を単位として捉える「スーパーイオンモルフォロジー」のアイデアを導入しました。その結果、従来はメカニズムの理解が困難であったのに対して、特定の元素がクラスター上の特定の格子を優先的に占有することで各クラスターが安定性を保ち、さらにそのクラスター単位で互いに正負の電荷を持つことで炭化物の安定性が決まるというメカニズムを明らかにしました。
  4. 本手法は、今回ターゲットとした結晶構造以外の炭化物の解析や、鉄鋼と炭化物間の複雑な界面構造の安定性メカニズムの解明にも適用可能だと考えています。今後は実験と連携しながら、耐熱鋼中に存在する炭化物の影響の理解を進め、新規耐熱鋼の設計・開発を促進していきます。
  5. 本研究は、国立研究法人物質・材料研究機構 構造材料研究拠点の佐原亮二主幹研究員、Maaouia Souissi博士研究員、松永哲也主任研究員らと、デルフト工科大学のMarcel H. F. Sluiter准教授、オハイオ州立大学のM. J. Mills教授からなる研究チームによっておこなわれました。本研究成果は、Scientific Reports誌に2018年5月8日に掲載されました。

「プレスリリース中の図1:耐熱鋼の微細組織の模式図と、従来の予測モデルと新しい予測モデルとの比較。」の画像

プレスリリース中の図1:耐熱鋼の微細組織の模式図と、従来の予測モデルと新しい予測モデルとの比較。



掲載論文

題目 : Effect of mixed partial occupation of metal sites on the phase stability of γ-Cr23−xFexC6 (x = 0–3) carbides
著者 : Maaouia Souissi, Marcel H. F. Sluiter, Tetsuya Matsunaga, Masaaki Tabuchi, Michael J. Mills, and Ryoji Sahara
雑誌 : Scientific Reports
掲載日時 : 2018年5月8日オンライン掲載
DOI:10.1038/s41598-018-25642-y

0703金属材料
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