国産タマネギの周年供給を強化する 新しい栽培管理技術

ad
ad

東北地域における春まきタマネギ栽培体系標準作業手順書を公開

2021-07-14 農研機構

ポイント

農研機構は、東北地域におけるタマネギの生産供給体系の確立、および輸入割合の高い業務加工用の周年供給と国産のシェア拡大に向けて、東北地域の特性に適した栽培管理技術を取りまとめた「標準作業手順書1)」を策定し、本日、ウェブサイトで公開しました。本手順書は国産タマネギの安定供給に役立ちます。

概要

タマネギは消費量の多い野菜品目ですが、生産地は北海道・佐賀県・兵庫県の特定地域に集中しています。そのため、タマネギ出荷量は産地における気象災害の影響を大きく受けるとともに、本州から北海道へ出荷地域が切り替わる夏期(7~8月)には国産品の供給量が減少します。また、業務加工用として国産タマネギへの実需ニーズは強く、価格の安定化や国産品の周年供給の強化が求められています。
これらのニーズを受け、国内で夏期の出荷を可能とする技術として、東北地域での春まきタマネギ生産の概略を明らかにし、生産現場での導入実証を進めましたが、作付けを拡大する過程で腐敗性病害の多発や大規模営農における栽培管理上の問題が顕在化しました。そこで、東北地域の春まきタマネギ栽培において、大規模経営体においても5t/10a以上の収量を安定的に得ることを目標に、作業手順の整理、施肥基準の策定、病害虫防除技術の開発に取り組みました。さらに地域の公設試験研究機関と連携して水田転換畑における機械化体系の現地実証を行って、技術導入の効果と条件等を明らかにし、「東北地域における春まきタマネギ栽培体系標準作業手順書」として取りまとめました。

【標準作業手順書掲載URL】
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/laboratory/naro/sop/142600.html
QR

本手順書を活用し、東北地域でタマネギ生産が拡大することで、国産タマネギの安定供給を実現することが可能になります。

関連情報

予算:    農研機構生研支援センター革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)「寒冷地の水田作経営収益向上のための春まきタマネギ等省力・多収安定化技術の開発とその実証」(2016~2019年度)
運営費交付金 (2016~2020年度)

お問い合わせ

研究推進責任者:   農研機構東北農業研究センター   所長   羽鹿 牧太

研究担当者:          同   畑作園芸研究領域   野菜新作型グループ長   室 崇人

広報担当者:          同   広報チーム長   櫻 玲子

詳細情報

開発の社会的背景

国内のタマネギの消費は、家庭内で調理される青果需要が4割であるのに対し、レストラン、弁当・惣菜・加工食品などの、業務加工用の割合が6割となっており、加工用に限れば、原料全体の半数以上(約30万トン)が輸入品と推計されています。
加工食品は、家族構成の変化、高齢化などで今後も需要が高まると考えられるため、国内農業においても加工需要への対応は必須の課題となっています。加工需要の大きな特徴は、定時・定量・定品質といわれるように、安定的な供給が求められることです。タマネギでは、夏期(7~8月)の供給量の減少(端境期)の解消が安定供給に向けた課題となっています。

研究の経緯

東北地域はタマネギ生産の実績に乏しい地域でした。西日本の主要産地では秋に定植し、初夏に収穫となりますが、東北地域では越冬時の寒さによって生育が安定しません。そこで、冬越しない作り方として、春まき栽培の技術開発を進めたところ、夏期(7~8月)に生産できることが明らかとなりました。この作型では、暑さに伴う病気や害虫発生が問題でしたが、対処法を確立し技術を体系化しました。本体系は図2に示されます。

研究の内容・意義

本手順書では、タマネギの生産を安定化するため、作型に適する品種や栽培地域別の作期、栽培方法、導入事例を記載しています。
特に、生育後半が高温・多湿の時期と重なるため、葉を吸汁する「ネギアザミウマ2)(写真1)」とりん片3)(図3)に発生する「腐敗病4)(写真2)」への対策を示しています。「ネギアザミウマ」は、タマネギの葉部を食害し直接的に生産性を低下させるだけでなく、病害を誘発することで間接的にも生産量を減少させることを明らかにしました。
これら2つの病虫害を含め、生産期間中の病害虫対策を着実に実施することで、10アールあたり5t以上の収穫が可能となり、経済的生産の成立に向けて十分な生産性を確保することが実証されています。また、生産技術の基本として、播種期や品種についても地域ごとに最適な組み合わせを明らかにするなど様々な要素技術を体系化しました。

今後の予定・期待

2026年には、東北地域で500ha程度の作付けを見込んでいます。栽培技術による増収効果を踏まえると本面積で2.5万トン程度の生産量となりますが、これは夏期の輸入量(約5万トン)の約5割にあたります。付随的には、夏期のほ場管理技術が向上することにより、国内他産地のタマネギも併せて供給力が高まると考えています。
また、生産者や生産履歴が明らかな国産原料の使用を明示した加工食品は消費者の安全ニーズに応えるものであり、国産農産物を利用した加工食品の消費により我が国の食料自給率向上も期待されます。

用語の解説

1) 標準作業手順書(SOP: Standard Operating Procedures)技術の必要性、導入の条件、具体的な手順、導入例、効果等を記載した手順書。農研機構は重要な技術についてSOPを作成し社会実装(普及)を進める方針としております。

2) ネギアザミウマタマネギの葉の汁を吸う害虫です。吸汁された葉には跡が残ります。成虫は、淡黄色~黄褐色、体長は約1.5 mm程度で、長細く、羽をもっています。また、この害虫が吸汁した跡から「腐敗病」の病原細菌が侵入し、タマネギを腐らせます。暑い時期に大発生しやすく、この害虫による被害を防ぐことが、今回の新しい生産技術を成功させる重要なポイントの一つです。

3) りん片タマネギの可食部は、葉の基部(葉鞘)が肥厚した「りん片」とよばれる組織です。形態的には、緑色の葉(葉身)をもった肥厚葉と葉身のない貯蔵葉に分かれています。

4) 腐敗病タマネギの可食部となるりん片(りん茎)が腐ってしまう病気です。病気の原因となる細菌は、ネギアザミウマが吸汁した跡から葉の中に侵入し、りん片にまで広がって腐らせます。タマネギが苦手とする暑い時期に大発生しやすく、この病気を防ぐことが新しい生産技術を成功させる重要なポイントの一つです。

発表論文

1. 東北地域における春まきタマネギ栽培マニュアル(2020年2月)(https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/134247.html )

2. Mizue Tsuji & Ikuo Kadota (2020) Identification and phylogenetic analysis of Burkholderia cepacia complex bacteria isolated from rot of onion bulbs in Tohoku region of Japan. J. Gen. Plant Pathol. 86:376-386

3. 工藤一晃, 戸上和樹, 永田 修 (2020) 東北地方における春定植タマネギの養分吸収特性. 日本土壌肥料学会誌 91:381-384

4. 逵 瑞枝, 永坂 厚, 門田育生 (2019) 東北地域のタマネギりん茎に発生した腐敗症状の病原細菌について. 日本植物病理学会報 85:205-210.

参考図

国産タマネギの周年供給を強化する 新しい栽培管理技術

図1. 標準作業手順書の表紙

図2

図2. 栽培暦(盛岡市4月中旬定植、品種「もみじ3号」、根切後ほ場乾燥体系)

写真1

写真1. ネギアザミウマ成虫(左)とネギアザミウマによる食害による葉のかすれ症状(右)

図3

図3. りん茎とりん片の図

写真2

写真2. タマネギ腐敗病の症状例

1204農業及び蚕糸
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました