太陽系外からの放射線が大気成分に与える影響を明らかに
202002-14 国立天文台
NASAの土星探査機カッシーニが撮影した、土星の衛星タイタン(Credit: NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)
アルマ望遠鏡を用いた土星の衛星「タイタン」の大気の観測により、微量の分子ガスが放つ電波が検出されました。詳しい解析の結果、太陽系の外から降り注ぐ放射線の一種である「銀河宇宙線」がタイタンの大気の成分に影響を与えていることが、世界で初めて明らかになりました。最先端の地上望遠鏡による観測と解析技術とを組み合わせることで、天体を直接訪れる探査機にも比肩する科学成果を挙げられることを示した成果です。
土星の衛星「タイタン」には、地球と同様に窒素を主成分とする大気があります。その大気は地表で1.5気圧という分厚いものです。タイタンの大気中には、地球大気には見られないような複雑な分子ガスが存在していることが分かっていて、これをもとに生命の構成要素であるアミノ酸が生成される可能性すら指摘されています。そのため、タイタンの大気における化学過程の解明は、現代の惑星科学の重要なトピックとなっています。
東京大学の飯野孝浩特任准教授らの研究グループは、タイタン大気の高度300キロメートルほどの成層圏にごくわずかに(大気全体の1億分の1ほど)存在する複雑な分子「アセトニトリル(CH3CN)」と、さらにその100分の1ほどしか存在しない「窒素同位体(CH3C15N)」が放つ微弱な電波を、アルマ望遠鏡を用いて同時に検出することに成功しました。検出した電波の特徴を詳しく解析することで、アセトニトリルの窒素同位体の存在量が明らかになります。さらに近年の大気化学シミュレーション研究と比較することで、タイタンの大気におけるアセトニトリルの生成に太陽系外から飛来する銀河宇宙線が重要な役割を果たしていることを、世界で初めて確認しました。
アセトニトリルのような成層圏の下部で生成される分子はこの他にも存在する可能性があり、今後の大気化学シミュレーション研究や、それをもとにした、アルマ望遠鏡などを用いたさらなる観測研究につながることが期待されます。さらに、今回のように同位体比を用いて大気の化学過程を考察することは、生成過程が分からない窒素化合物を持つ他の惑星(特に木星、海王星)の大気化学の理解につながる一歩になると考えられます。
この観測成果は、T. Iino et al. “14N/15N isotopic ratio in CH3CN of Titan’s atmosphere measured with ALMA”として、2020年2月17日付の米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』に掲載されます。