2019-07-24 国立天文台
FUGINプロジェクトで得られたガス雲の分布。低密度ガス雲(左)に比べて、高密度ガス雲(右)はごく一部でのみ検出されていることが分かる。(Credit:NAOJ) オリジナルサイズ(1.7MB)
銀河の中には、低密度のガス雲と高密度のガス雲が存在します。星の生産現場となる高密度ガス雲は低密度のガス雲から形成されますが、天の川銀河では高密度ガス雲が低密度ガス雲の量に対してごくわずかしか存在しないことが、野辺山宇宙電波観測所45メートル電波望遠鏡による観測データから明らかになりました。これまで銀河の中に存在するガスの量に対して、生産される星の量が予想外に少ないことが指摘されていましたが、今回の結果はその謎を解く鍵として注目できます。
星はガス雲の中で作られます。大きく広がる低密度のガス雲から、星の生産現場である高密度のガス雲が形成され、さらに高密度ガス雲の中でも特に密度が高い場所で星が作られます。ところが、実際に遠い銀河で観測される星の生産量は、低密度ガス雲の量をもとに推測される量に対して、わずか1000分の1以下にすぎません。この不一致が起こる理由を解明するためには、広い領域を高い解像度で観測し、高密度ガス雲と低密度ガス雲を同時に解析することが必要になります。しかし、両者の大きさの規模は桁違いのため、このような観測は困難でした。
この困難を克服したのが、国立天文台 野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡と、それに搭載された新型受信機「FOREST」を用いた天の川の大規模分子雲サーベイプロジェクト「FUGIN」です。国立天文台の鳥居和史特任助教をはじめとした、名古屋大学、大阪府立大学、筑波大学、明星大学の研究者から成る研究チームは、FUGINプロジェクトで得られた膨大な観測データを解析し、我々が住む天の川銀河のおよそ2万光年にわたる広い範囲を対象に、低密度ガス雲と高密度ガス雲の量を精密に測定することに成功しました。その結果、低密度ガス雲に比べ高密度ガス雲は、質量で3パーセントというたいへん少ない割合でしか存在しないことを初めて明らかにしたのです。
このことは、低密度ガス雲からは高密度ガス雲がわずかしか作られず、そのため高密度ガス雲で作られる星の量も少ない、ということを意味します。研究チームは、高密度ガス雲の形成を阻害する要因を探るため、今後もさらに広い領域でのデータ解析を続けていきます。
この研究成果は、2019年4月に『日本天文学会欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)』電子版にTorii et al. “FOREST Unbiased Galactic plane Imaging survey with the Nobeyama 45 m telescope (FUGIN). V. Dense gas mass fraction of molecular gas in the Galactic plane”として公開され、今後同誌の野辺山特集号として出版される予定です。